CRMとは?機能やメリット、選定方法を分かりやすく解説


Writer:
山崎雄司
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企業のマーケティング活動において、オンライン・オフライン問わず頻繁に用いられる「CRM」。今回はこのCRMというキーワードの基本から、類似キーワードとの違い、CRMツール導入に関する注意点、CRMの活用事例などを取り上げ、CRMの基本を改めて整理していく。

 

目次


1.CRM(Customer Relationship Management)とは
2.SFA、MAとの違いとCRMに関連する用語
3.マーケティングでCRMが重要になった理由
4.CRMを実現するために必要なこと
5.CRM導入のメリット・デメリット
6.CRMツールの主な機能
7.CRMツールの選定方法
8.CRM導入前後の課題や注意点
9.CRMの事例
10.CRMの活用で良質な顧客体験を

CRM(Customer Relationship Management)とは


CRMとは、Customer Relationship Managementの略で、「顧客管理」「顧客関係管理」などと訳される。顧客情報を収集・分析し、効果的な顧客対応を行うことで、自社の商品やサービスの競争力を高めるとともに、長期的に高い利益を生み出す企業体質を作るための経営手法を指す。
また、この経営戦略の実現にはITツールが必要不可欠であることから、顧客管理ツール(システム)自体も「CRM」と呼ばれるようになっている。

SFA、MAとの違いとCRMに関連する用語


CRMの類似ツールとしてMAやSFAが挙げられるが、これらは機能の力点や役割がそれぞれ異なる。ここでは、CRMとあわせて覚えておきたいツールや用語について解説していく。

1.MA(Marketing Automation)


MAは、マーケティングプロセスの一部を自動化・可視化することで業務効率化をはかるとともに、見込み顧客の育成を受け持つツールである。主な機能としては、見込み顧客を含めた顧客情報や購買履歴、アクセスログなどの膨大なデータを一元管理し、自社の製品やサービスに対する関心に沿った最適なアプローチ(メール配信など)を行う。


2.SFA(Sales Force Automation)


SFAは「営業支援システム」と訳され、営業業務を可視化・効率化する手法およびツールである。主な機能としては、見積書の作成、タスク・スケジュール管理、商談の進捗状況や履歴を一元管理する機能などがある。また、営業担当者同士で情報共有ができるため、チームとしての組織的な活動を可能にする。


3.DMP(Data Management Platform)


DMPとは、顧客データを一元管理するためのプラットフォームのこと。CRMでは主に社内データのみを扱うが、DMPではWeb上の履歴や広告といった社外データも含めて扱えるという違いがある。DMPとCRMを連携させることで、より精度の高いマーケティングが可能になる。


4.CDP(Customer Data Platform)


DMPには、大きく分けて「パブリックDMP」と「プライベートDMP」の2種類が存在する。特にアクセスログや実店舗のデータなどを扱えるプライベートDMPが有用とされ、このプライベートDMPとほぼ同義の用語が「CDP」である。


マーケティングでCRMが重要になった理由


昨今のマーケティングにおいてなぜCRMが注目されるようになったのか、その背景と代表的な理由を見ていこう。

1.価値観やニーズの変化


時代の移り変わりとともに、消費者の価値観やニーズも目まぐるしく変化するようになった。消費者自身が情報を収集・比較できるようになり、顧客中心のマーケティングが求められる今、従来のマーケティングでは顧客は容易に離れていってしまう。そのため、顧客情報を管理・分析し、顧客との関係性向上に役立つCRMが必要とされているのだ。

2.業務効率化とコストの削減


企業が成長し、顧客情報が増えるほど、顧客管理にかかる手間やコストは大きくなってくる。多店舗展開する企業も増えており、従来のような人の手による管理では効率が悪いうえにミスも発生しやすく、顧客が離れやすい環境にある現在では見逃せない損失となってしまう。そのためにも顧客情報の管理・分析を効率化し、自動化することのできるCRMが企業規模を問わず注目されている。エンジニアなしでも扱えるCRMや導入しやすい価格帯のCRMが登場し、中小企業が導入しやすくなったことも、理由のひとつとして挙げられるだろう。


3.LTV(顧客生涯価値)の向上


「1:5の法則」によれば、新規顧客の獲得には既存顧客の5倍のコストがかかるとされている。価値観やニーズの変化に加えて商品やサービスも日々増加しており、新規顧客の獲得はより難しい状況にあるといえるだろう。このような背景から、CRMの活用により優良顧客を育成し、LTVを向上させるためのマーケティング施策や取り組みが注目されているのだ。


CRMを実現するために必要なこと


企業においてCRMを実現するためには、ただCRMツールを導入するだけでなく、CRMツールをどのように活用して成果を出していくか、しっかり検討することが大切である。
まずは現状の課題(顧客視点、マーケティング視点、社内視点)を把握し、どのようなゴールを目指していくのかをクリアにすることが重要だ。その上で、CRMツールを選定・導入し、運用することが必要となる。

CRM導入のメリット・デメリット


次に、CRMを導入することのメリットと、知っておくべきデメリットを見ていこう。

メリット


1.顧客情報の蓄積および活用
CRMでは、顧客一人一人の個性や特性、反応などを記録することで、顧客の動きを多方面から立体的に把握できる。顧客ニーズを的確にとらえることができ、最適なタイミングで、最適な形でのアプローチを可能にする。

2.部門間での情報共有で戦略を迅速化
CRMのデータは、リアルタイムで全社員に共有することが可能だ。そのため、部門間の連携が迅速化され、企業戦略を立てやすくなる。

3.業務をシステム上で実施し効率化
CRMシステム上で自動的に顧客分析を行うため、業務効率化が可能となり、業務フローの改善にもつながる。

4.CX(顧客満足度)を向上できる
CRMに集約した顧客情報を用いて分析を行うことで、ニーズに合わせた適切なマーケティングや良質な顧客体験の提供が可能となり、CXを向上させることができる。それにより優良顧客を育成し、LTVの向上へとつなげやすい点もメリットだ。

5.属人化から脱却できる
顧客情報を一元化することで、社内でのデータ共有が容易になる。これまで属人化しやすい傾向にあった顧客ごとの対応状況や履歴も社内で参照できるため、担当者が不在であってもトラブル対応が可能になる。

デメリット


1.定着しにくいケースがある
ワークフローの変更や操作の難しさから、CRMが現場になかなか定着しないケースがある。CRMの導入を成功させるには、目的や効果を社内全体に理解してもらい、活用しやすい体制を整えることが重要になってくる。

2.費用や時間的なコストがかかる
CRMは導入しただけで効果が出るものではないため、導入前後の準備やフロー整備、社内研修なども必要になる。費用だけでなく時間的なコストがかかることを理解したうえで導入を検討しよう。

CRMツールの主な機能


CRMツールは、製品によってさまざまな機能があるが、基本的なものを5点紹介していく。

1.顧客情報の管理


収集した顧客の情報を一元管理する機能だ。顧客情報には、顧客の氏名や住所、メールアドレスといった基本的な個人情報に加え、購入履歴や趣味・嗜好などの幅広い情報があり、それらを有機的に統合して管理することが出来る。

2.会員情報の管理


顧客情報の管理と似ているが、こちらは主に会員登録や会員向けのマイページなどを提供するための機能である。顧客側でのデータ編集を可能にすることでサービスの運用コストを軽減するほか、メールの自動配信機能とあわせマーケティングで活用することもできる。

3.顧客分析


CRMを活用し、蓄積された顧客情報を元に多角的な分析を行う機能だ。どのような顧客がどのように売上に貢献しているか、どのようなアクションを取った顧客がどの程度存在するか、など様々な切り口から分析を行っていく。


4.顧客関係維持(カスタマーサポート)


顧客情報から特定の顧客を抽出し、最適なアプローチを行うのが顧客関係維持(カスタマーサポート)機能だ。顧客分析の結果を次のアクションにつなげ、PDCAサイクルを通してマーケティングの成果を高めていくためのものだ。
顧客分析の結果を次のアクションにつなげ、PDCAサイクルを通してマーケティングの成果を高めていくことができる。
活用例としては、メールの自動配信機能を使用した特定商品の購買履歴がある顧客向けの類似商品のプロモーションや、製品購入後のアフターケアの実施などが挙げられる。

5.顧客対応の管理


顧客の問い合わせ内容と対応履歴を管理し、必要に応じて参照できる機能。どのような問い合わせ内容に対してどのような対応を行ったかを一覧できるため、回答漏れを防止するほか、適切な対応を取りやすくなる。これらの情報を活用し、多く寄せられた質問への回答をFAQページなどに掲載することも可能だ。

その他、問い合わせフォームの自動生成機能やLINEを通したコミュニケーションなど、顧客に対して最適なチャネルとタイミングでのアプローチを可能にする機能が存在する。


CRMツールの選定方法


CRMツールは多種多様であり、導入にあたってはそれぞれの特徴を十分にリサーチしておきたい。ここでは、選定に関する重要なポイントを見ていこう。

1.クラウド型かオンプレミス(ソフトウェア)型か


システムの提供形態の視点だ。クラウド型とは、アプリケーション自体がインターネット上に存在しており、インターネットブラウザを通して利用するツールである。基本的に定額制であり、導入費用を抑えられる。また、インターネットが利用できる環境であればさまざまなデバイスからアクセスが可能であるため、テレワークにも対応しやすい。運用や保守・管理はベンダーが行うため、企業の負担が少ない一方、サービスの仕様をカスタマイズにしく、ランニングコストもかかる。また、セキュリティはベンダー側のポリシーによる。
オンプレミス型は、ソフトウェアを購入し、自社インフラで運用するタイプのツールである。自社サーバーを使うためセキュリティにすぐれており、システム連携やカスタマイズの自由度が高い。しかし、初期費用がかかるうえ、導入・運用に際してITの知識をもつ人材が必要となる。

2.サポートが充実しているか


しっかりとしたシステムを提供しているベンダーは、しっかりとしたサポート体制も併せて敷いているケースが多い。新たなツールの導入には、トラブルが発生することが多いからだ。また、スタッフがツールの使い方に慣れるまでに時間がかかり、従来のワークフローにも変化をきたすため、現場では混乱が起こりやすいことも背景にある。そのため、トラブルが起きた際、ベンダーからの迅速な対応を得ることが可能かどうか、と言うポイントは重要になってくる。

3.セキュリティ対策は考慮されているか


CRMツールは、その機能の特性上、膨大な顧客情報を取り扱うことになる。システム構成が適正で、ベンダーが不正アクセス等の不測の事態に対して、どのような策を講じているか十分に確認する必要があるだろう。

4.必要な機能を満たしているか


ツールごとに適性や役割が異なり、多機能であるほど高額になりやすいため、課題解決に必要な機能を洗い出して優先順位を付けるようにしたい。導入後は基本的に長期運用することになるので、担当者と連携し過不足の有無についても確認しておこう。

5.使い勝手や操作性はどうか


CRMツールは多くの社員が利用するため、現場での使いやすさを考慮する必要がある。業務の効率改善や定着しやすさにもつながるので、あらかじめ関係者に確認してもらうのが理想的だ。

6.外部連携や拡張性は十分か


CRMは単体でも導入する価値のあるものだが、SFAやMAなどと連携させることでより効果的な運用が可能になる。自社で導入済み、または導入予定のあるツールとの連携可否も忘れずに確認しておこう。


CRM導入前後の課題や注意点


CRMの導入を成功させるには、事前準備や導入後の運用などについてあらかじめ知っておく必要がある。それらのポイントをいくつか見ていこう。

1.導入の目的を明確にする


目的が曖昧なままではCRMを導入しても活用できず、ただデータを集約するだけに留まるなど、社内にも定着しにくくなってしまう。明確な目的をもとに優先順位を付けてロードマップを作成するほか、必要な機能を備える自社に適したCRMを導入し、計画に沿ってしっかりと運用していくことが大切だ。

2.経営層の理解を得ておく


CRMの運用を現場だけに任せず、経営層やマネージャーにも理解してもらい、支援を得られるようにしておくことも重要である。CRMの導入により従来のフローを変更する必要があるため、マネージャーが現場をサポートしつつ、さらに経営層の支援を得られる環境を整備することでCRMがスムーズに定着し、活用しやすくなる。

3.長期的な運用を意識する


多くのシステムと同様、CRMツールも導入後すぐに成果が出るわけではない。基本的に、顧客のデータベースをしっかりと構築してからマーケティング戦略に反映させていくため、短期的な売上の向上は期待できない。CRMはあくまでも顧客データを管理するツールであり、顧客との長期的な関係の構築において最大の効果をもたらすものであることを覚えておこう。

4.評価指標を決める


CRMの効果を検証するためにも、目的に応じた評価指標を定めておく。例としては、顧客獲得率やCX(顧客満足度)、メールの開封率などが挙げられる。またCRMでは、顧客の対応履歴のような数値化しづらい定性的なデータも検証することが可能だ。

5.結果を分析しPDCAサイクルを回す


CRMの導入後は、その効果を分析し、次のプロセス改善に役立てる「PDCAサイクル」を常に回していくことが大切であり、そのような観点からも、ただ導入するだけでなく、しっかりと長期にわたって活用してこそ大きな成果を生み出すものとなることを理解しておく必要がある。

企業によっては、システム導入のコスト対効果を短期的な成果で判断する(したがる)ケースもある。そのような時にも上記の点をしっかり考慮した社内エスカレーション対応が必要になってくるだろう。

CRMの事例


それでは、CRMを導入した具体的な事例を紹介していく。まずは、メール配信による顧客フォローによって成果をあげた企業の例を見ていこう。

事例1 株式会社J-オイルミルズ



食用油脂を中心にさまざまな商品を展開するJ-オイルミルズは、注文履歴などから得られる「定量データ」と、アンケートによる「定性データ」の双方を活用したCRMへの取り組みを行っている。指標のダッシュボード化や顧客フォローメールの自動化によって、リソース不足を解消。また、お客様アンケートによる定性データの取得で自社の送料に課題があることを把握し、お試し商品による検証でCPOが33%改善した。さらに、CRMツールによる分析から購買頻度に関する課題も明らかになり、顧客フォローの重要性を確認するとともに改善につなげている。


事例2 株式会社TAT



ネイル用品の卸や開発を手掛けるTATは、主にBtoBビジネスを展開している。以前は、アンケートや定量データを自分たちで抽出・加工していたため、時間がかかるうえに効果測定も不十分であった。しかし、CRMの導入によって、顧客ごとの平均購入周期やメーカーごとの継続率が把握できるように。また、LINEとメールを併用した、きめ細やかなシナリオ設計によって、顧客体験価値(CX)向上へとつなげることができた。さらに、顧客一人一人の購入周期を把握し、離脱タイミングに対して迅速にメール等でアプローチすることで、離脱率が10%改善されている。


一方で、メール配信ではなく、セグメントを活用したメルマガで大きな効果が出た企業もある。

事例3 フローバル株式会社




「配管部品.com」を運営するフローバル株式会社は、一人親方や街の電気店、工事業者、ガス屋などが主な顧客であり、円滑な部品調達ができるサイトを目指していた。CRMの導入によって、玄人レベルでのセグメントの作成や、自分たちのアイディアをメルマガに落とし込めるようになった結果、メルマガからの売上が倍増。また、分析を通して、アプローチが不足していた客層や不必要なメルマガ配信が浮き彫りになり、施策の見直しも可能に。さらに、顧客の動向や現状把握などのデータが可視化されるダッシュボード機能によって、データ分析の属人化が解消された。


CRMの導入は業種を問わず進みつつあり、保険や銀行などの業界でも成果を上げている。

事例4 東京海上日動火災保険


東京海上日動は、業務プロセスの変化や代理店の要望に対応すべく、金融機関向けのCRMに刷新。これにより、営業スケジュールの可視化やカスタマーセンターでの対応内容の共有が可能になり、ある代理店では新CRM導入後の新規契約件数が前年比で140%増加したという。


事例5 北日本銀行


北日本銀行は、買い手市場化や顧客ニーズの多様化に対応するためクラウド型のCRMを導入。その結果、交渉履歴の蓄積による顧客対応のポイントなど価値ある情報を可視化できるようになったほか、担当引継ぎにおける作業工程の効率化も実現した。


事例6 中国新聞社


中国新聞社は、自社Webサイトの有料会員を増やすべく「カスタマーリングス」を導入。その結果、ステップメールを活用した有料会員への誘導、会員の属性を把握できるアンケートなどを実現。属性に基づく広告のターゲティングにより、広告主に対し安価かつ密なアプローチが可能になった。


事例7 株式会社東洋経済新報社


東洋経済新報社は、多種多様な顧客データを統合すべくCRMを導入。Salesforceをリードとして、DMPとも連携させる形でデジタルプラットフォームを構築した。それにより、サブスクリプションサイトからの離脱の原因把握や対策など、具体的な施策への落とし込みが可能になった。


CRMの活用で良質な顧客体験を


CRMは、顧客データの収集・分析を通して、顧客を中心とした商品開発や、顧客に合わせたアプローチを可能にするものである。ただ「顧客の情報を集約して管理する」だけでなく、「良質な顧客体験の提供」へとつなげることが重要だ。また、CRMツールを導入しただけで効果が出るわけではなく、データを分析・活用して具体的なアクションをとることが必要である。自社に合ったツールを選び、効果的に運用することで、長期的な顧客関係の維持につなげたい。

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