銀行・金融業界におけるCRMとは?現状と活用のポイントを解説


Writer:
山崎雄司
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日本の企業でもあらゆる業種でデジタル化が加速している。金融業界も例外ではなく、顧客に対する細やかなサポートが可能なツールとしてCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)の活用が進んでいる。ただし、セキュリティ面での不安や、効果的な活用方法がわからないことが原因で、導入が進まないケースもあるようだ。本記事では、銀行をはじめとする金融業界の現状と、CRMの必要性、導入のポイントを解説し、さらに具体的な事例を紹介する。


目次


1. 銀行・金融業界でCRMが注目される背景
2. 銀行・金融業界でCRMを導入するメリット・デメリット
3. 銀行・金融業界でCRMツールを導入する際のポイント
4. 銀行・金融業界でのCRM導入事例
5. CRMを活用し、顧客との信頼関係を向上させよう

銀行・金融業界でCRMが注目される背景


金融業界でCRMを始めとするデジタル化が必要とされる背景として、まず「2025年の崖」への関心が挙げられる。「2025年の崖」とは、IT人材の不足と基幹システムの老朽化により、このまま対策を講じなければ2025年から年間で現在の約3倍、最大12兆円もの経済損失が生じる可能性を指摘したもので、2019年に経済産業省の「DXレポート」に登場した言葉だ。
金融業界では、セキュリティ対策を最優先としなければならない事情から、レガシーシステムが多く残されている。さらに、印鑑文化や対面接客など、これまで顧客の信頼を築いてきたオフライン業務が伝統となっている点も課題といえよう。こうした問題を解決するためには、デジタル化を推進し、システムを刷新する取り組みが急務である。
そこで注目されているのがCRMだ。CRMは、顧客のあらゆる情報(行動や嗜好、ニーズ)を分析し、施策に活用することで顧客と良好な関係を維持するためのシステム。金融DXにおいても「顧客接点の変革」はキーワードとなっており、オンラインを含めたあらゆる顧客接点で顧客体験を向上させ、顧客エンゲージメントを高める取り組みが必要となっている。そして、こうした取り組みを従来から支えてきたのがCRMである。


銀行・金融業界でCRMを導入するメリット・デメリット


金融業界におけるCRMの導入のメリットとして、主に次の4点が挙げられる。

1.多数の顧客情報を一元管理できる


CRM導入の大きなメリットとして、多数の顧客情報を一元管理できる点が挙げられる。金融業界の場合、営業が担当顧客の情報を個別管理しているケースが多いが、顧客情報の一元化によって全社員が顧客情報を共有できるようになる。それによって、部署・部門の連携が迅速化し、担当者不在の場合のトラブル対応や、引き継ぎ作業の効率化の実現が期待できる。


2.顧客との信頼関係を高める細やかなサポート


金融業界は、顧客との信頼関係を築くことが必要不可欠である。CRMを導入することで、顧客の属性や行動から顧客インサイトを発見し、顧客一人ひとりに合わせたきめ細やかなサポートが可能となるため、顧客との信頼関係をより高めることが期待できる。

3.顧客満足度の向上と市場における優位性の確保


CRMによって顧客情報が整理されていると、顧客ごとにパーソナライズされた顧客体験を提供できるように。それにより顧客満足度が向上し、顧客エンゲージメントを高め、長期的に顧客と良好な関係が続く。その積み重ねが利益に結び付き、結果的に市場での優位性を確保できるのである。

4.営業やコールセンターの業務効率化


CRMの活用は、営業やコールセンターのようなアポイント業務の効率化にも期待できる。たとえば、顧客情報を分析し、顧客のニーズに合わせた営業を実施することで、営業活動の負担を軽減できる。また、あらゆるチャネルから寄せられる意見やクレームをタイムリーに把握できるため、迅速な対応が可能となり、信頼の獲得にもつながりやすい。
これらのメリットがある一方で、CRMを導入し運用していく際には、従業員の教育費用を含めたランニングコストがかかることや、効果が現れるまでに時間を要するため中長期的な目線での運用となることを認識しておく必要がある。

なおデメリットとしては、定着しづらいケースがあるほか、効果が出るまで時間がかかる点などが挙げられる。組織全体でCRMを活用できる環境を整備し、中長期的な取り組みを心がけよう。

銀行・金融業界でCRMツールを導入する際のポイント


CRMツールを導入するにあたって、次の4つのポイントを押さえておきたい。

1.課題や目的を明確にする


CRMを導入・運用する際は、事前に導入する目的を明確にしておく必要がある。特にCRMを活用した戦略や、KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)の設定などを行う場合、まずは自社の課題を洗い出し、具体的な指標や目標を定める必要がある。
また、CRMの導入によって業務フローに変化がある場合、現場の混乱につながりかねないため、あらかじめ現場と話し合い、導入の目的を共有しておくことも大切だ。


2.操作性が高く使いやすいツールを選ぶ


従業員の業務効率化や会社全体の利益アップを達成させるポイントとして、操作性が高く使い勝手の良いCRMを選ぶことが大切だ。評価が高いものであっても、機能が多すぎるなど実際に操作する従業員が扱いにくいものであれば効果が現れにくい。可能であれば、実際のデモ画面などを見て操作性を確かめておくとよいだろう。

3.サポート体制が充実


CRMツールを検討する際には、ベンダーのサポート体制を調べておくと安心だ。ツールの操作や運用面のサポートだけでなく、セキュリティ面でのサポートも重要である。特に金融機関はセキュリティや安全性が問われる業界であり、顧客情報のなかには財産などの機密情報が含まれている。そのため、不正アクセス等の不測の事態が生じた場合の対応策など、セキュリティ面におけるサポート体制はしっかり確認しておきたい。

4.外部サービスとの連携


CRMツールはそれ単体でも十分効果を発揮するものだが、関連する他のサービスと連携することでより効率的なマーケティングが実現する。連携できるサービスは導入するCRMツールによって異なるため、事前に確認しておきたい。今はLINEなどのSNSを中心とした外部サービスとの連携が人気であり、公式LINEを開設している金融機関も増加している。

銀行・金融業界でのCRM導入事例


ここでは、銀行におけるCRMの導入事例を紹介する。

1.北日本銀行


北日本銀行は、岩手県盛岡市に本店を構える第二地方銀行である。買い手市場化や顧客ニーズの多様化に対応すべく、自社で行動管理システムを開発したものの、運用面で課題が多かったため、クラウド型のCRMを採用。約半年かけて導入作業を行い、営業改革に着手した。
CRM導入後は、交渉履歴の蓄積によって顧客対応のポイントなどの価値ある情報の可視化が実現。さらに、営業店の情報が本部とリアルタイムで共有できるようになったため、問題の把握や助言など、営業店と本部とで一体となった営業が可能になったという。ほかにも、担当引継ぎにおける作業工程が効率化され、引継ぎ書の作成が不要となるなど、業務効率化にもつながっている。


2.仙台銀行


仙台銀行は、宮城県仙台市に本店を構える第二地方銀行である。個人向けサービスである「個人ローン」の申込み低迷が課題となっており、その要因が「複数の保証会社による審査ができないこと」だと突き止めた。この課題を解決するためには顧客管理システムの見直しが必要と判断し、CRMツールを導入。新たなCRMデータベースの活用によって、保証会社の情報を銀行側が把握できるようになり、銀行側の判断で複数の保証会社による審査を可能にする新たな審査フローを構築した。さらに、Webサイトやランディングページ、スマートフォン対応の改善や、ターゲットのニーズに応じたプロモーションを実施するなど、顧客接点の改善と拡大を図った。その結果、施策前と比べて、個人ローンの申込み金額が従来の約10倍に引き上がったという。この取り組みは、地方銀行のWebマーケティングの新たなモデルとして注目されている。


CRMを活用し、顧客との信頼関係を向上させよう


デジタル化の波は金融業界にも押し寄せており、その戦略のひとつとしてCRMを導入する金融機関が増えている。顧客との信頼関係が肝となる金融業界で、顧客とのより良い関係を構築・維持できるCRMがもたらす恩恵は予想以上に大きいだろう。業務効率化はもちろん、CRMの活用によるきめ細やかなサポートは、顧客満足度を向上させ、顧客エンゲージメントを高める効果が期待できる。今後の市場で優位性を獲得するためには、このデジタル化の波に乗り遅れないよう、CRMを活用していく必要があるだろう。

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