「実感マーケティング」でマーケティングの付加価値をどのように高めていくことが出来るのか


Writer:
山崎雄司
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EメールやWebサイト、検索エンジンやSNSなど、今日の私たちの生活はデジタルで溢れている。テクノロジーの進化を背景に生活者がデジタルシフトを進めているこの時代、マーケティングにもデジタル化が求められることはいうまでもない。では実際、企業はマーケティングにこのデジタルデータを活用しきれているだろうか? 今回は、データで溢れるこの時代にこそ必要といえる「実感型マーケティング」について紹介していこう。

激変するマーケティング業界


前述の通り、ここ数十年間の生活面におけるデジタル化には、著しいものがある。時代の流れに応じて、文化や風土までも変革を遂げてきた企業も多いことだろう。
デジタル化により顧客とのタッチポイントが多様化するに従い、マーケティングは企業視点から顧客視点での発想へとシフトしている。ショッピングにおける顧客の価値観も、モノを手に入れることから、コト(体験)を重視する方向へと移行しており、多くの企業は、顧客と製品やサービスブランドとの深い信頼を築く “顧客エンゲージメント”の重要性に気づき始めた。また、企業が膨大な顧客データを手に入れることができるようになったことで、マーケティング手法には、より多様な施策の可能性が生まれている。
変化するデジタル時代の生活者に合わせ、膨大なデータを活用し、顧客のエンゲージメントの向上を目指す―。これが今のマーケティング業界のトレンドといえるだろう。

マーケティングの目的の再考


デジタルシフトによって消費者の環境が激変する今日、彼らの価値観もまた転換期を迎えている。それに伴い、企業もマーケティングの定義を改めて確認していく必要があるだろう。
マーケティングとは、自社が提供する『価値』を定義し、顧客や市場に広めていくこと。各企業が実際に提供できる『価値』が異なるのは当然で、それを自ら定義し、“自社らしさ”を押し出すことが重要だ。これにより、競合他社との差別化を図ることができるためである。少し前までは、この『価値』はその商品やサービス自体のもたらす『利便性』に多くあったが、昨今では、『経験』に由来するものが多くなっている。
デジタルマーケティングについて未だ模索段階である企業は、多様なツールや膨大なデータに踊らされ、目的と手段が定まらないケースも往々にしてあるだろう。トレンドを意識しつつ時代の急激な流れに振り回されないためにも、自社の提供する価値(=経験価値)について再考し、今こそ自社のマーケティングコンセプトを根本から見直すことが必要なのである。

マーケティングにおける「実感」の必要性


デジタル化によって得られた膨大な顧客データを処理するために、今やAI(人工知能)が分析作業の多くを担うようになっている。こうした時代に生きる現代のマーケターに求められるのは、単にデータを分析するだけではなく、そのデータから個客を「実感」することなのだ。
それでは、マーケティングにおける「実感」とは、実際にどのようなことを指すのだろうか。

個客への理解を深めるために一般的に用いられるKPI(=Key Performance Indicator:重要業績評価指標)では、一部の情報をとらえているだけで、個客全体を把握するのは難しい。というのも、KPIは、自社が予め設定したシナリオ通りに動いた個客についてとらえることに特化しているためである。KPIを重視したマーケティングのみを行っていると、自社の提供する経験価値を見失ってしまうリスクも。そこで、個客のショッピングジャーニーを想像し、妄想を膨らませ、想定外の動きをする個客も含めた一人ひとりにフォーカスする「実感」を得ていく必要があるのである。

実感型マーケティングの手法


では、実感型のマーケティングとはどのような手法なのだろうか。次の4つのステップを見ていこう。


1.個客をとらえる


企業は、個客との接点の数だけ「実感」が広がり、理解が深まるものである。オフラインとオンライン双方から得られる定量データを統合することで、個客イメージや動向を特定でき、情報の活用につなげられることはいうまでもない。たとえば、配信したメルマガ開封の有無もデータの一つ。また、アンケートやコールログなどといったリアルな声も、貴重なデータである。こうしたあらゆるデータを複合的にとらえることで、個客の置かれている情報を的確に把握し、さらに見込み顧客の洗い出しにつなげていく。

2.個客を「実感」する


次のステップでは、個客群の動きを見ていく。ここで重要となるのが、過去の購入の履歴がある顧客の動きを観察しながら「変化」と「違い」を明確にとらえることである。
RFM分析やデシル分析などから得られる情報は、離散的なデータであり、時系列的には輪切りの状態であることが多い。顧客の「変化」に気づくためには、こうしたデータの点と点を結び、線にして情報を視覚化することが必要である。変化を連続して認識するためには、アニメーションやサイネージを用いてビジュアル化しておくことも有効だ。

3.個客に対して施策を行う


次に、個客に対して施策を行うステップに突入する。ここで「実感」を活用して施策を行うための効果的な方法が、セグメントの拡張だ。これまでのセグメント施策と異なるのは、最初の「実感」をベースに1人の特徴的な個客をセグメントし、そこから施策の対象となる抽出条件にセグメントを拡張していく。特徴的な個客1人を見ることで、気づきを得ることができるセグメント方法で、今までのKPIの集計によるセグメントではできなかったことだ。このような「実感」をもとにしたセグメントを行っているため、ニーズにマッチした効果的な施策を打ちやすくなるのだ。
セグメント拡張とは別に、「1to1」という施策もある。これは、それぞれの趣味や趣向を理解し、それぞれに合ったメルマガの配信などを実施すること。すべてを自動化に頼るのではなく、都度その成果をしっかり検証し、個客に対する「実感」に基づいた効果的な施策を目指したい。

4.フィードバックとブラッシュアップを行う


施策を行った後は、データを蓄積し、それぞれのデータのレベルを一つずつ掘り下げていく。いわゆる「ドリルダウン」と呼ばれるもので、施策の反応を確認し「実感」することで、次の施策につなげていく。数週間単位で回す大きなPDCAサイクルは、施策の抜本的な見直しを伴う大規模キャンペーンなどにおいては、組織の意思決定に必要なプロセスといえるだろう。同時に、現場担当者によるタイムリーなPDCAサイクルを高速回転させていくことも、施策シナリオの微調整レベルでは非常に有効である。この大小2つの顧客実感サイクルを回すことで、顧客に提供する体験価値をブラッシュアップしていく。

実感マーケティングでマーケティングの付加価値を高めていこう


既存顧客だけでなく、見込み顧客の違いと変化にも気づくことで、効果的な施策を打ち出すことができる実感型デジタルマーケティング。データで溢れ、その処理をAIが担う時代、次に企業に求められるのは人間の「実感」に基づいたデジタルマーケティングなのである。データから個客を想像し、妄想し、実感する。人間だからこそ可能なこのマーケティングこそ、この時代のマーケティングの付加価値を高めていく有効な手法であるといえるだろう。

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