デジタル時代の「優良顧客」の定義と、その分析方法 ー データから顧客を“実感”する大切さ


Writer:
山崎雄司
  • facebook
  • Twitter
  • LINE

「優良顧客」というキーワードは、かなり以前から健全な企業経営のために重要なものだとされてきた。しかし、デジタルマーケティング全盛となった今、「優良顧客」の定義はどのように変わってきているのだろうか。あなたの会社にとっての「優良顧客」とは現代において一体誰のことを指すのか。その定義について明確に答えられる人は多くはないのではないだろうか。そこで今回は、デジタル時代の「優良顧客」の定義について考え、それをどのように“実感”し共有していくか、を考えていきたい。

デジタル時代における優良顧客の定義


一般的に「優良顧客」というと、「購入額の大きい顧客」や「来店回数の多い顧客」などとされてきた。しかしデジタル時代においてはその定義は少し広まっている。例えば、口コミを積極的に投稿する顧客や、インフルエンサーと呼ばれるような多くのフォロワーを有する、SNS上で影響力のある顧客を「優良顧客」と呼ぶこともある。またデータ分析の傾向から、購入の可能性が高いとされる「見込み顧客」を含むケースも増えてきた。つまり、短期的に売上を作る顧客だけでなく、広い視点で売上に貢献してくれる可能性の高い、またはリピート率が高い、自社に利益をもたらす顧客のことを「優良顧客」と定義できるようになってきた。この背景にはマーケティングに関わるデータが大量に蓄積出来るようになってきたことが影響している。しかし、このデジタル時代の「優良顧客」は明確に定義することは難しいのも事実だ。提供する商品やサービスによって、また企業の状況などにより、どのような顧客を「優良」と定義するかはケースバイケースとなるからだ。
 

なぜ優良顧客を定義するのか


オンラインマーケティングにおいて効率的に成果を上げるには、顧客のタイプに合わせてアプローチを変えていく必要がある。なかでも、継続的に売上に貢献している「優良顧客」に対しては、適切なタイミング、チャネル、商品、コンテンツ等を用い、大勢ではなくあたかも個人に対して行うようにアプローチすることが必要不可欠だ。見込み顧客や、初めて購入に至った顧客と同じアプローチをリピーターに対し行っても、結果には結びつきにくい。逆もまた然り。このように、顧客に応じて効果的なアプローチを見極めるために、「優良顧客」を定義づけることが重要になってくるのである。

例えば、EC事業者では、購買回数や累計購入金額に応じて顧客をランク分けし、上位ランクの顧客を「優良顧客」と定義し、彼らに特典を提供する「ロイヤリティプログラム」を導入している企業も増えている。

優良顧客とロイヤルカスタマーの違い


優良顧客と似た用語に、ロイヤルカスタマーというものがある。ロイヤルカスタマーは購入額や購買数が多いことに加え、商品やサービスに愛着を持ち、継続的に利用してくれる顧客のことを指す。いわば、企業やブランドの「ファン」である。優良顧客の定義はデジタル時代において広くなったが、ロイヤルカスタマーとの違いは愛着の有無にあると言って差し支えない。優良顧客はロイヤルカスタマーのような「ファン」とは異なるため、まずは優良顧客を見つけ出し、顧客のタイプごとに効果的なアプローチを行い育成していく必要がある。

 

優良顧客を見つけるためにどのような顧客分析をするべきか


それでは、どのように優良顧客を見極めるための分析を行えばよいのだろうか。ここでは、いくつかの方法を紹介していこう。

デシル分析

デシルはラテン語で10等分という意味。その名の通り、購買履歴から顧客を購入金額の高い順に10等分し、各グループの購入比率や売上比率を算出するという手法で、顧客分析においては最も基本的な分析である。「売上の80%は上位20%の顧客が生み出している」という言葉があるが、デシル分析ではこの上位顧客を割り出すことが可能だ。ただし、購入金額が基準となっているため、過去に1回だけ高額の物を購入した顧客が上位に来てしまったり、1回あたりの購入金額は少ないが購入頻度の高いリピーターが下位になってしまったりするので注意が必要だ。

RFM分析

「Recency(最新購入日)」、「Frequency(購入頻度)」、「Monetary(購入金額)」の3つの指標で顧客を選別、ランク分けし分析する手法。直近の購買日が条件に入っているので、過去に一度だけ高額商品を購入した休眠顧客や、最近少額商品のリピーターになった顧客を混同することなくランク分けできる。

たとえば下図の場合、横軸にF(購入頻度)、縦軸にR(最新購入日)と設定されており、R30:F5は”直近30日で最も購入回数が多い顧客”、R360:F1は”最も長い間購入がなく頻度も少ない顧客”となる。こうして抽出された区分けデータをもとに、”購入頻度が高かったが最近の利用がない顧客”(R90、R120のF5やF4)に対して再度利用を促すキャンペーンメールを送るなど、それぞれの顧客層に対して適切な対策を練ることができる。


CPM分析

CPMは「Customer Portfolio Management」の略で、顧客ポートフォリオマネジメントとも呼ばれる手法だ。RFM分析の3つの指標に「在籍期間(離脱期間)」を加え、離反顧客に対してアプローチを行っていくことが特徴である。主にリピーターを増やす目的で活用され、離反顧客を10ランクに分けて分析し、その中から優良顧客を抽出していく。RFM分析は一度離反顧客に分類されてしまった顧客へのアプローチがしづらく、かつての優良顧客がなんらかの理由で購買を中断してしまった場合のフォローが行き届かない欠点があった。CPM分析はその欠点を補い長期的な優良顧客の拡大につなげていくことができるため、両方の分析を併用するとより効果的である。

決定木分析

顧客の傾向について、顧客情報やアンケート結果などから段階的にデータを分割し、樹木のように振り分けて分析結果を出力する手法だ。たとえば、「直近でリピートしてくれた顧客はどういう集団(年齢、性別、地域、店舗)なのか」など、相関の高い項目は何かを算出する。属性に関する情報だけでなく、購入見込みが高い層や、商品が持つ要素のどれが顧客の満足度やロイヤリティに影響しているかなど、各種条件や意識についても設定して振り分けることができる。
 
デジタルマーケティング全盛の今、取り扱うことが出来るデータは膨大となっている。そのため、そのデータから「優良顧客」を見極める分析手法も非常に重要になってきているのだ。

NPS®分析

NPS®は「Net Promoter Score」の略で、顧客が企業やブランドに対して抱いている愛着の度合いを数値化したもの。顧客に対し「この商品を他人に薦めたいと思うか」という内容のアンケートを取り、スコアごとに「推奨者」「中立者」「批判者」の3グループに分けて分析を行う。顧客のリアルな実態を理解できるのが特徴で、競合や業界平均値との比較で自社の立ち位置を把握するほか、顧客ロイヤリティを通じた施策の評価などで活用される。

(参考:NPS®とは?NPS®の本質を理解しデジタルマーケティングの成果を最大化しよう

デジタルマーケティング全盛の今、取り扱うことが出来るデータは膨大となっている。そのため、そのデータから「優良顧客」を見極める分析手法も非常に重要になってきているのだ。

 

優良顧客を「実感」する大切さ


こうした手法を用い、データ上で優良顧客を抽出しても、それで満足してしまうケースが多い。しかし実際には、そのような分析結果は机上の空論に過ぎず、なかなかチームとして会社としてその顧客に対してしっかり向き合うことが出来ているのか「実感」できないことが多いのだ。優良顧客に対してしっかりとアプローチできているということを「実感」すれば、チームや会社の一人一人が同じ方向を向くことが出来るようになり、新しい気付きや施策を検討することが出来るため、「実感」することは非常に重要な取り組みとなる。
具体的に「実感」について考えてみよう。施策の「結果」について、売上実績やアクセスログなどの数字をデータとして確認する。それ自体は非常に重要なデータであるが、そこに顧客属性やアンケートと連動させてビジュアル化することで、その結果に至った“理由”や”背景”の気付きを得ることができ、より立体的で価値のあるデータにしていくことがより重要な「実感」の正体だ。データの可視化が当たり前とされる時代でも、施策を考えるのは人間であり、その影響を受けて購入するのも、やはり人間である。だからこそ顧客という存在を「実感」し、手ごたえを得ることが、デジタル時代のマーケティングには非常に重要なのである。


 

優良顧客を育成する際のポイント


優良顧客をただ抽出するのではなく、企業やブランドに愛着を持ってもらえるよう長期的に育成していくことも必要不可欠だ。そのためにはオウンドメディアやSNSを用いて商品の魅力を伝えるのはもちろん、マーケティングを効率化する手法やツールを活用し、顧客育成においても施策の“結果”とその“理由”や“背景”を理解しやすくするのが有効である。

CRM

CRMは「Customer Relationship Management」の略で、日本語では「顧客関係管理」と訳される。その名の通り、顧客と良好な関係を構築するための手法やツールのことを指す。膨大な顧客情報や購買履歴などを一元管理できるほか、それらのデータから顧客の動向や満足度を分析し、優良顧客の育成に役立てることが可能だ。

(参考:CRMの現在位置と顧客との関係性 - オンラインコミュニケーション全盛の今、改めて考える

CEM

CEMは「Customer Experience Management」の略で、日本語では「顧客体験管理」と訳される。顧客満足度(CX)や顧客ロイヤリティを高め、顧客を育成するためのプロセスを管理する手法のことを指す。顧客のデータを重視するCRMとは異なり、CEMでは顧客の心理や感情にフォーカスする。商品機能そのものでなく、おもてなし要素などの価値ある体験を付加し、優良顧客を育成していくのが特徴だ。

(参考:デジタルマーケティングはCRMからCEMの時代へ - CRMからCEMへ至る3つのステップ

MA(マーケティングオートメーション)

MAは「Marketing Automation」の略で、マーケティングに関する単純作業を自動化するためのツールやシステムのことを指す。主な機能にデータ統合、データ分析自動化、マーケティング自動化の3つがあり、業務効率化や優良顧客の育成に役立てることができる。顧客情報を一元管理するCRMと似ているが、MAは顧客情報に限らずマーケティングに関するあらゆるデータを一元管理できるという特徴がある。

(参考:今さら聞けない「MA(マーケティングオートメーション)」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識

デジタル時代だからこそデータから顧客を“実感”していくべき


「優良顧客」の考え方はデジタル全盛の今、広がってきている。そして、その定義は、会社によって、また、ときには部署やチームによって、異なっている。繰り返すが、自身の会社や部署にとっての「優良顧客」について分析する際には、データ上の数字のみでなく、その”背景”に目を向けることが大切なのだ。この記事を、自社の顧客一人一人について今一度考えてみるきっかけにしてくれれば幸いだ。

メルマガ登録
  • facebook
  • Twitter
  • LINE