オンライン化が進む企業・ブランドのマーケティングにおいて、CX(顧客体験)を向上させる4つの手法


Writer:
山崎雄司
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多くのブランドや提供するサービスのオンライン化が進む中で、CX(顧客体験)が以前よりも重要視されつつある。しかし現状は、オフライン(店頭)に偏ったCXや、各タッチポイントでCXが断絶されているなど、まだまだ完全なるCXを実現することが出来ていない企業が多い。 今回は、改めてCXの基本について確認し、CXを向上させるために具体的にどのような取り組みを行っていくべきか、その手法を4つ紹介していく。

CX(顧客体験)とは


CX(顧客体験)は、英語ではカスタマーエクスペリエンス(Customer Experience)となり、CXと略されることも多いマーケティング用語だ。日本語では「顧客体験」のほか、「顧客エクスペリエンス」とも呼ばれる。
顧客と、特定のブランドや商品との接点における、顧客側の“すべての体験”のことを指しており、具体的には、

・雑誌、CM等のオフライン媒体、SNSやインターネット検索等のオンライン媒体によって、商品・サービスを発見
・購入するか検討するために情報を入手、オフライン・オンラインから入手
・実際に店頭やオンラインで購入
・商品を入手して利用
・商品への満足度
・商品に対する問い合わせ
・再度購入

など、商品の認知段階から実際に購入し、使用するまでの一連の体験のことを指す。なお、対象は、「既存顧客」と「見込み客」の双方であり、店頭などのオフラインや、オンラインでのすべての顧客の体験を包括的に捉える必要がある。

CX(顧客体験)とCS(顧客満足度)、UX(ユーザー体験)との違い


続いて、CX(顧客体験)と混同されやすいマーケティング用語をいくつか見ていこう。

CS(顧客満足度)

顧客満足度(Customer Satisfaction/CS)はカスタマーサティスファクションとも呼ばれ、文字通り顧客の満足度を表す言葉である。CX(顧客体験)は顧客側の全ての体験を指すため別物として扱うが、これらには密接な関係があり似た要素も多い。CX(顧客体験)は、上記の通り顧客とのすべての接点における体験を指し、「既存顧客」「見込み客」双方を捉える。一方、CS(顧客満足度)は商品を購入後、顧客がどのくらい満足しているかを測るものであり、対象は、実際に商品やサービスを購入した顧客(既存顧客)となる。そのため、既存顧客へ対する顧客体験は、顧客満足度に直結することになる。

UX(ユーザー体験)

ユーザー体験(User Experience/UX)はユーザーエクスペリエンスとも呼ばれ、商品やサービスに対するユーザーの体験を表す言葉である。一見するとCX(顧客体験)と似ておりわかりづらいが、CX(顧客体験)が購入前やその後のサポート対応、商品との接点も含めたすべての体験を指すのに対し、UX(ユーザー体験)は商品やサービスの利用に関する体験のみを指す。UX(ユーザー体験)は商品やサービス利用者、つまり「既存顧客」のみを対象としているが、CX(顧客体験)は商品やサービスを利用する前の「見込み客」も含んでいる。似た用語ではあるが、この違いはしっかりと理解しておこう。

なぜCX(顧客体験)が重要視されているのか


ここ数年、一気にCX(顧客体験)と言うキーワードを聞くようになってきたが、CXが重視されるようになった背景には、大きく2つのことが影響している。

1.商品やサービス自体の差別化が難しくなったため

1つ目は、商品のコモディティ化によって、商品自体の価値の差別化が難しくなってきたことだ。商品そのものの機能や技術面での差がなくなり、商品の「モノ」の価値のみで顧客へ満足感を与えることが難しくなってきたことから、CXという顧客の感覚的価値・非物質的価値を含めた総合的な評価が求められるようになってきているのである。

2.顧客の消費行動の変化に対応するため

2つ目は、インターネットやSNSの浸透によって、顧客の口コミが広く発信されるようになったことである。これまでは、顧客は商品について、企業が発信する情報のみから認知することが多かったため、あまり顧客の体験に重きは置かれてこなかった。しかし、顧客が、商品だけでなく、その顧客の体験をインターネット上で拡散することが増えてきたため、商品を購入する前に、店舗の環境や店員の対応、商品の使い勝手、耐久性などの情報を他の潜在顧客が簡単に知ることが出来るようになった。つまり、企業としては、良い口コミを広めてもらうためにも、広範囲においてCXを向上させる必要があるということだ。

CX(顧客体験)の向上施策に取り組むメリット


それでは、CXの向上が企業にもたらすメリットを見ていこう。

1.リピーターの獲得につながる

CX施策への取り組みで商品価値以外の体験を向上させれば、顧客は商品や企業に対してポジティブなイメージを持つようになり、結果としてリピーターを獲得しやすくなる。リピーターを増やすことは事業の安定化にもつながるため、企業にとっては非常に重要な要素である。

2.顧客離れを防ぐことができる

顧客によりよい体験を提供して商品に愛着を持ってもらえれば、競合他社から同等の商品が発売された場合などでも顧客離れを防ぐことが可能になる。商品の差別化が難しくなり、消費者自身がWebサイトなどで商品の比較を容易に行えるようになった今、顧客離れへの対策は重要さを増している。

3.ブランドイメージを向上できる

顧客への価値ある体験の提供は、「このブランドは好感が持てる」「また購入したい」といった心理的効果を生み出す。商品を通して顧客との信頼関係を構築できれば、同ブランドの他商品にも興味を持ち、購入を検討してもらいやすくなるだろう。

4.口コミによる宣伝効果が期待できる

商品やブランドの「ファン」となった顧客は、SNSなどによる好意的な口コミの投稿や拡散が期待できる。商品の購入前に口コミを検索する消費者も多く、商品の認知にもつながるため、インターネットやSNSが消費者の生活に浸透した今、消費者による情報発信という側面は企業としてぜひ意識しておきたい。

CX(顧客体験)向上戦略の4つのポイント


CX向上のためには具体的にどのような取り組みを行えばよいのか。今回は以下4点にポイントを絞って説明していく。


1.カスタマージャーニーマップ/ペルソナの作成

カスタマージャーニーはマーケティング手法の一つで、顧客が商品やサービスを認知し、情報収集を行って、購入、その後に評価するという、顧客の行動や思考を時系列で表す一連の行動のことだ。図表などを用いて可視化し、それぞれの段階で効果的な対応策を組んだ行動マップが、カスタマージャーニーマップである。
ペルソナとは、商品やサービスを提供するターゲットのことを指しており、氏名、年齢、住所、趣味など、具体的かつ詳細な情報が含まれた「顧客像」を意味する。
カスタマージャーニーマップとペルソナの作成は、以前から多用されてきた考え方ではあるが、商品やサービスの認知から購入後まで含めた総合的な顧客体験を考えるCXと相性のよいマーケティング手法といえる。CX向上の施策では、部門間を横断した共通認識と方向性を持つためにも、カスタマージャーニーマップとペルソナを活用したCX向上戦略の立案が重要になってくる。

2.現状の課題を把握する

これはマーケティング施策全般にも言えることだが、企業が提供している顧客体験の現状を、客観的に、そして正確に把握することが重要である。例えば、CXの段階を時系列で「情報収集時(広告、口コミ、SNSなど)」「購入時(接客、カート、会計など)」「利用時(使用感、トラブル対応など)」の3段階に分類。また、顧客接点別に、「オンライン」、「店頭」、「その他(配送時、コンタクトセンターなど)」の3接点に分類。その後、どの段階や接点にどのような課題があるのかを分析し、対策を練ることでCX向上へとつなげることができるだろう。

3.CDP、プライベートDMPを活用し、顧客を分析

CDPやプライベートDMPは、自社で集めたオンライン及びオフラインのデータ(ファーストパーティーデータ)の管理や分析ができるツールだ。個人情報レベルの詳細な顧客データを収集してマーケティングに活用するためのプラットフォームで、顧客理解を深めるのに適している。CXを向上させるためには、顧客一人ひとりに関するより詳しいデータを扱う必要があり、CDPやプライベートDMPの活用はCX向上のための重要な鍵といえるだろう。

4.仮説と検証を繰り返し、PDCAを回す

ここまで説明した3つのポイントは、考え方によっては、あくまで仮説と言える。カスタマージャーニーやペルソナはある程度、企業目線での顧客の理想像に近いものであり、課題も実際のどの課題がどれだけ重要かなどの濃淡は正確に把握出来ないケースも多い。また、顧客をいくら分析しても、本当に顧客体験をしっかり高めることが出来るのかは、やってみないと分からない部分も多いだろう。そのため、CX向上のためには、様々なインプットを元にした仮説をしっかり立てて実行・検証することが重要となる。その過程でデータを収集し、何度も仮説と検証を繰り返し、PDCAを回しながらより効果的なマーケティングを追求することでCX向上に繋げることができるだろう。

CX(顧客体験)を向上させる2つのアプローチ


CX向上に取り組む際は、以下のポイントを意識したアプローチが効果的である。

1.顧客データの分析を徹底する

顧客一人ひとりに合わせたパーソナライゼーションがCX向上に貢献するため、顧客データを徹底的に分析し、顧客の興味関心や趣味嗜好を把握することが重要だ。具体的には、ECサイトでの適切なレコメンド、顧客の購入履歴や興味関心にマッチしたメール配信などが挙げられる。顧客データにはCX向上のヒントが潜んでいるので、分析結果からニーズやタイミングを読み取り、CX向上施策に活かすといいだろう。

2.顧客の感覚や心情に訴える

カスタマーサポートでの真摯な対応やスムーズに解決するためのデータ管理、公式SNSアカウントを用いた顧客とのコミュニケーションなどが挙げられる。ECサイトでいえば、見やすいデザインや目に優しい色合い、商品の探しやすさなどもCXに関係してくる。物事を顧客目線で考え、顧客の心情を理解することが前提になるので、「自分が顧客だったらどのように感じるか」を常に意識するようにしたい。

CX(顧客体験)向上施策の事例


CX向上においては、前述のポイントを押さえた施策はもちろんのこと、効率的に分析するためのソリューションの導入も効果的である。ここでは、国内における成功事例をいくつか見ていく。

株式会社TAT


株式会社TATは、ネイルサロン向け商材の卸と材料の開発を行う専門商社だ。ECサイトや実店舗のほか、ネイルサロンの経営知識や接客マナーに関する事業も展開している。CRM/MAツール「カスタマーリングス」を導入し、顧客データをしっかりと分析できるようになった結果、顧客一人ひとりのタイミングに合わせたアクションを起こせるようになり、離脱率が10%改善した。LINEとメールを併用したCX向上施策で成果が改善したほか、顧客ごとの平均購入周期やメーカーごとの継続率を把握できるようになった点も大きな収穫だという。

参考:LINEとメールを併用した、きめ細かなシナリオ設計による顧客体験価値向上と、メーカーとの共創マーケティングの実践

株式会社ベネクシー


株式会社ベネクシーは、フットウェアを始めとする海外ブランドの卸や修理・アフターケア事業などを多角的に展開する企業だ。もともとは実店舗のみだったが、ECサイトも展開するようになり、その中で実店舗とECサイトの分断や顧客との一方通行のコミュニケーションが課題として浮かび上がった。「カスタマーリングス」の導入で実店舗とECサイトを横断する分析が可能になったほか、接点のある顧客に対する理解を深めるためのNPS調査も実施し、一般的な市場調査にはない有益なフィードバックを得ることができたという。

参考:全社横断のデータ活用によるCX向上と独自ブランド育成の取り組み

顧客理解を深めCX(顧客体験)の向上へ


企業、そして顧客のオンラインシフトが進む中で、顧客獲得や売上アップのためには企業が提供する全ての段階・接点でのCX向上が必要不可欠であることがおわかりいただけただろうか。
今回はCX向上戦略に必要な4つのポイントや2つのアプローチなどを整理したが、最初に取り掛かるべきことは顧客のニーズの把握、すなわち“顧客理解“を深めることである。その過程で、現状の課題を明確にし、客観的なデータを可視化し、状況に応じてITツールを活用しながら、常に仮説を立ててPDCAを回していくことが重要だ。
CX向上のために、「これさえすればいい」といった簡単な方法はない。顧客データを活用し、CS(顧客満足度)を継続的に磨き続け、タイミングに応じた自社なりの最適解を見つけることが大切になっていくだろう。

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