デジタルマーケティングはCRMからCEMの時代へ - CRMからCEMへ至る3つのステップ


Writer:
山崎雄司
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デジタルマーケティング界隈において、CRMという言葉を耳にするようになってから随分と時間が経った。しかし、一方でWeb2.0時代を経て、SNSなどで誰もが情報を発信できるようになった現在、顧客の価値観はますます多様化し、単にモノや情報を顧客に伝えるだけでは他社と差別化を図ることが難しくなっている。このような背景から、次第に、顧客に“体験”によって価値をもたらすことが重視されはじめている。 最近では、こうした「経験価値」に重点を置いたマーケティング手法であるCEMが注目されている。今回は、そのCEMについての基礎知識と、CRMからCEMに至るまでの3つのステップについて考えていく。

デジタルマーケティングとCRMの関係性


デジタルマーケティング、そしてCRMは、様々なところで色々な解釈がされている側面もあるため、それらの関係性について、しっかりと定義されているものは存在していない。デジタルマーケティングは広告領域から発生した考え方であるため、CRMの出自とも異なり、関係性を論じることは難しい側面もある。

しかし、あえてその関係性を考えてみると、CRMは既存顧客のみを対象とした考え方で、デジタルマーケティングは見込み顧客や生活者全般を対象とした考え方となっている、対象範囲が拡張していると捉えることが出来る。それ以外にもデータ面での拡張や、コンテンツ面での拡張、更にはチャネルの拡張など、主に4方向にCRMを拡張していくことで、現在のデジタルマーケティングの定義とほぼ同義になっていくと考えることが出来る。

【画像】

そのような関係性の中でデジタルマーケティングの成果を上げていくために注目されているのがCEMという考え方だ。

CEMとは


CEMとは、「Customer Experience/Engagement Management」の略で、顧客経験管理などと訳される。顧客が商品やサービスを購入するプロセスや利用シーンを想定しながら、そこに価値のある経験や体験を付け加えることで、ロイヤルカスタマーを増やすことを目的としている。ここでキーワードとなるのが「カスタマーエクスペリエンス(顧客体験価値)」と「顧客ロイヤリティ」である。

カスタマーエクスペリエンスとは、商品やサービスの物理的な価値のみでなく、心地よい感動や満足感といった顧客の心理的・感覚的な価値のことである。最近では、カスタマーエクスペリエンスの向上を重視したマーケティング戦略を行う企業が増えている。

顧客ロイヤリティとは、顧客が商品やサービスに対して感じる信頼や愛着のことを指す。顧客ロイヤリティを高めることで、リピート率の向上や購入単価アップ、口コミでの拡散といったメリットをもたらすロイヤルカスタマーの創出が期待できる。

顧客ロイヤリティを測る指標として、NPS(Net Promoter Score/ネットプロモータースコア)が用いられる。かつては、顧客の満足度を測る指標として顧客満足度(CS)の調査が行われることが多かったが、NPSでは顧客に対し、その商品やサービスをほかの人にすすめる可能性を問うことで、より精度の高い評価を得られることが大きな特徴だ。

CRMからCEMへ進化したデジタルマーケティング3つのステップ


CEMに取り組む際には、既存顧客はもちろんのこと、見込み顧客に対しても経験価値を与えることが理想であり、そこに至るまでには3つのステップが存在する。

それは、「データ統合」、「データ活用」、「データと実感の組み合わせ」である。ここからは各ステップについて、一つずつ見ていこう。



 

データ統合 ~CRM~


最初のステップである「データ統合」を行う際は、CRMツールを活用する。CRMツールは顧客関係管理を行うツールだ。CRMの機能は製品によってさまざまであるが、基本的には既存顧客の情報を管理し、それをもとにマーケティングを支援する「マーケティング支援機能」や「カスタマー支援機能」などを備えている。

CRMの具体的なアプローチとしては、既存顧客のデータ統合はもちろんのこと、優良顧客の属性や行動から逆算する特徴分析が行える。また、類似の特徴から優良顧客候補を抽出し、リピート促進を行うことも可能である。

CRMが目的とするところは、既存顧客を囲い込み、LTVを最大限に上げることである。そのため、既存顧客のデータ統合や、柔軟な分析軸の設定、再現性のある特徴の見極めが可能なCRMを活用することが成功の要諦となる。

データ活用 ~CRM+MA~


次のステップである「データの活用」においては、CRMツールだけではなく、MAツールも活用して新規顧客の獲得も狙っていく。MAツールとは、マーケティングの各業務を自動化・仕組み化するためのツールであり、それぞれの見込み顧客に対して最適なアプローチを自動的に判断・実施するものである。見込み顧客の育成を行うためには、匿名顧客データの紐付けやセグメンテーション、シナリオのPDCAサイクルを確立させる必要がある。

そこで重要なのが、CRMとMAを組み合わせて活用することである。それによって既存顧客と見込み顧客の双方にアプローチすることができ、それぞれのデータを統合することでマーケティングオペレーションの効率化を図ることにもつながる

さらには、精緻化された顧客セグメンテーションや、シナリオの自動化、MAツールのスコアリング機能を用いた顧客育成のモニタリングを行うことも可能となる。

データと実感の組み合わせ ~CEM~


最後のステップである「データと実感の組み合わせ」では、実際にCEMに取り組んでいく段階である。

繰り返すようだが、CEMというのはカスタマーエクスペリエンスを向上させるだけでなく、ロイヤルカスタマーを創出するプロセスを管理していくためのマーケティング手法を指す。

CEMでは、顧客視点からの経験価値の向上、そして売り手/買い手の関係を超えた信頼関係の醸成を目的に、既存顧客や見込み顧客だけでなく、まだ商品に興味を持っていない・知らないといった生活者をも対象に顧客層をイメージ(妄想)していくことが基本となる。また、顧客ロイヤリティ向上のためには、顕在ニーズだけではなく潜在ニーズを知ることも大切である。潜在ニーズの発掘はロイヤルカスタマーの創出につながるため、顧客実感への共感や顧客の求める経験価値への対応が必要になってくる。さらに、企業とのあらゆるタッチポイントにおけるシームレスなインタラクション設計を行うことや、経験価値の積み重ねによる顧客のロイヤルカスタマー化も狙っていく。

経験価値の種類


顧客に経験価値を提供していくCEMでは、その経験価値をカテゴライズして、見える化していくことが重要になってくる。経験価値と言う、デジタルマーケティングの中では最も分かりにくい価値を提供していくため、その見える化は施策の継続性や成否に大きく影響を及ぼしていく。



 
例えば、「お得」「便利」と言った経験価値は、施策との関連性もあり、比較的分かりやすく、見える化も行いやすい。しかし、「楽しい」「安心」と言った経験価値になると、複数の施策を組み合わせた結果としての価値提供となるケースが多く、徐々に見える化が難しくなってくる。そして「共感」は最も価値としての効果は高いものの、施策との関連性が非常に分かりにくいこともあり、最も見える化が難しい経験価値だと言える。

顧客体験向上がもたらす可能性


企業と顧客の接点が格段に増え、デジタルマーケティングが複雑化した今、改めて企業にとって顧客にどのような体験を提供できているのだろうか、ということをしっかり見直すことは重要なことだ。これまでの戦略、すなわち顧客との関係性の管理だけでは、市場競争に勝ち残るのが難しくなってきている。最高の顧客体験をどのように生み出し、どのように顧客からの信頼感を得ることが出来るのかをしっかり見直し、デジタルマーケティングでCEMを実現していくことは、ブランド力向上にも大きく貢献していくだろう。

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