新聞業界でのDX化の現状と、CRMの活用方法のポイント


Writer:
山崎雄司
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今日、日常生活やビジネスのあらゆるシーンにおいてDX化が求められている。ペーパーレス化や紙媒体離れが進む中、新聞業界もさまざまな取り組みをスタートさせている。今回の記事では、新聞業界の現状を踏まえた上で、DX化の具体的な取り組みに触れ、さらにCRMの導入事例について順を追って見ていこう。


新聞業界を取り巻く環境


新聞の購買件数は、スマートデバイスユーザーの増加や紙媒体離れなどの影響を受け、減少傾向が続いている。日本新聞協会が毎年公開している「新聞の発行部数と世帯数の推移調査」によると、2000年から2022年の22年間で、一般紙・スポーツ紙を含めた全国の新聞発行部数は約43%減少している。2020年には大手新聞社の赤字転落が話題となり、企業規模を問わず多くの新聞社において、早期退職や給与カットなどの決断を余儀なくされているようだ。
一方で、新聞社が提供するデジタルメディアは増えており、無料ニュースサイトや有料電子版などのデジタルコンテンツを運営したり、SNSでの配信を実施したりしている。情報が錯綜する今の時代において、新聞社の提供する情報は信頼性、正確性ともにトップクラスであり、媒体は異なっても情報そのものに対する需要は高い。このような背景の下、新聞業界では生き残りをかけたデジタルシフトが求められている。

新聞業界でのDX化の現状


変化が著しい今日のビジネス社会では、どの業界も事業の継続および競合他社との差別化を図るべく、DX化を促進し、テクノロジーを生かした事業やサービスの提案に奮闘している。
新聞業界におけるDX施策には、紙面のデジタル化やニュースサイトの運営、有料アプリなどが挙げられるが、いずれも紙媒体とのカニバリゼーションを避けるような形で進められてきているケースが多いようだ。大手新聞社のデジタルメディア(日経電子版、朝日新聞デジタル、読売新聞オンライン、産経ニュースなど)は、あくまで紙媒体の維持を基軸としてデジタルメディアを展開している。その理由の一つが、デジタルに不慣れな層や、紙媒体を好む購読者が一定数いるという点。また、新聞社の多くが伝統ある組織であるため、新事業への取り組みが進みづらいことなども挙げられるだろう。
では、各新聞社のDXへの取り組みについて、以下に簡単に紹介する。

朝日新聞社



ニュースサイト「朝日新聞デジタル」を運営し、記事の一部を提供する無料版と、より多くのコンテンツを提供する有料版の2つを展開している。スマホ向けアプリの開発にはフリーランスエンジニアを採用し、開発体制を内製化。外部委託からフリーランス常駐の開発体制に変化したことでPDCAサイクルの改善につながり、アプリのリリース頻度の高速化を実現した。


琉球新報社



2020年にデジタル推進局を立ち上げ、宅配読者限定で電子版を無料で提供するセット販売をスタート。取材の裏側を伝える「記者コラム」の連載や、AIがニュースを音声で伝えるコンテンツなどのWeb限定サービスを開始し、幅広いニーズに合わせた情報提供を実施している。


産経新聞社



AIを活用して新聞広告を自動で紙面に配置するシステムを、データアーティスト株式会社と共同開発。広告主ごとに異なる要望や季節性、社会事象のようなさまざまな条件を数式化し、AIに学習させることで、約2年かけて人手とほぼ同じ割付が可能になった

読売新聞社



新聞のデジタル化によって新聞購読の価値を高める「新聞 with デジタル」という戦略の下、「読売新聞オンライン」を運営。誰でも見ることができる無料コンテンツのほか、定期購読者限定の会員サービスを展開し、グラフィックスや動画など、デジタルを生かしたコンテンツを提供している。また、業務フローのDX化も進めており、記事出稿の予定管理から編集・掲載に至るまで、紙面とデジタルの2つの媒体を統合して行う新聞制作システムを、フューチャー株式会社と共同開発中(※2025年春稼働予定)。


朝日新聞販売サービス株式会社



訪問集金業務の削減と、購読者ニーズの高い決済手段に対応するため、株式会社ネットプロテクションズと業務提携を実施し「NP後払いair」を導入した。集金DXの促進によって、負担の多い訪問集金業務を削減すると同時に、キャッシュフローの安定化と、購読者の利便性向上を実現し、新聞販売店の働き方改革につながっている。

日本経済新聞社



2010年に「日本経済新聞電子版」を創刊し、スマートフォンの普及とともにデジタルシフトを進めてきた日経では、「デジタルファースト」を掲げ、全社規模でDXに取り組んでいる。その過程で、アクセンチュア株式会社の支援のもと、人財マネジメントプラットフォーム「Workday HCM」を導入。社内の人材データを活用し、ジョブ型人事制度による組織変革を実践している。


新聞業界におけるCRMツール活用の重要性


新聞業界の主な収入源は、紙媒体の新聞の「販売収入」と、出稿される広告の掲載料による「広告収入」の2つである。しかし、インターネットの普及によって販売・広告ともに収益が減少し、従来のビジネスモデルが崩壊しつつある。新聞業界が存続するには、デジタルコンテンツでの収益を安定化させる必要があり、オンラインサイトの有料会員数の増加や、デジタル広告による収入を増やすことが目標となる。そのためには、顧客がどのような記事を求めているのかを把握し、最適な手段で最適なコンテンツを配信できるシステムが必要である。そこで注目されているのが、CRMツールの活用だ。事業やサービスごとに分けられて管理されてきた顧客情報を、CRMツールを用いて一元管理し分析することで、顧客ニーズに合ったコンテンツの提供を可能にすると同時に、業務フローの効率化が期待できる。


新聞業界のCRM事例


では、新聞業界のCRMの取り組み事例を具体的に紹介する。

中国新聞社



広島を拠点に総合メディア事業を展開する中国新聞社は、従来の紙媒体である新聞をはじめ複数の紙媒体とデジタル媒体を発行している。2019年に自社Webサイトを「中国新聞デジタル」にリニューアルし、有料会員数を増やすべく、同年10月に株式会社プラスアルファ・コンサルティングの「カスタマーリングス」の導入に踏み切った。これによって、ステップメールの配信による無料会員から有料会員への誘導や、会員の属性を把握できるアンケートの実施、ジャーニーマップを活用した顧客分析による課題抽出・解決策の模索を実現。また、属性に基づく広告のターゲティングが可能となり、広告主に対しても安価でかつ密なアプローチを提案できるようになった。さらに、セグメントメールやWebポップアップ商品によって、一定の層に向けたアプローチが可能となった。


日刊工業新聞社



日刊工業新聞社は、産業総合紙「日刊工業新聞」を核に、電子メディアや展示会などの幅広い事業を展開している。デジタルコンテンツを中心とした新たなビジネスモデルを構築する取り組みの過程で、2022年4月にサイボウズ株式会社の「kintone(キントーン)」をCRMツールとして導入。これまでバラバラな状態で管理されていたため活用しづらかった営業活動情報や会計情報、顧客情報を一元管理することで、スコアリングが可能となり、具体的な施策につなげることができるようになった。また、今まで把握しきれなかった顧客のステータスが可視化されたことにより、顧客のニーズ合わせた最適なコンテンツを最適なタイミングで届ける仕組みが構築された。


東奥日報社



青森を拠点とする東奥日報社は、コワーキングスペース「seven C’s」を運営している。施設予約システムとして、株式会社ソリッドシステムソリューションズの「All Gather CRM」を導入。コワーキングスペース利用者の会員管理、施設予約、利用情報の集約はもちろん、Webや電話などのさまざまなチャネルからの問い合わせも一元管理できるようになり。利用者にとっても、施設予約の利用者の空き情報がリアルタイムに把握できるようになり、利便性が向上した。


CRMの導入で、信頼性の高い情報を最適な手段で配信へ


従来の紙媒体によるビジネスモデルが確立している新聞業界にも、DX化の波は確実に押し寄せてきている。そして、新聞各社はさまざまな形でデジタルシフトを進めているが、未だ手探りの状態だといえそうだ。紙媒体の発行部数が激減しているとはいえ、数多の情報があふれる現代において、新聞社が発信する情報の需要はまだまだ高い。その需要を生かし、デジタルメディアでも顧客ニーズに合ったコンテンツを最適なチャネルで配信する必要があり、そのためにはCRMやMAなどの施策が鍵になってくるだろう。今後の新聞業界のDX化の推移を見守っていきたい。

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