
アパレル業界のデジタルマーケティング、そしてCRM活用のポイント

- Writer:
- 山崎雄司
顧客満足度を向上させ売上増を目指すCRM(顧客関係管理)は、特にデジタルマーケティングを中心に、今やさまざまな業界で使われている経営戦略だ。なかでもアパレル業界は、CRMの活用が効果的な業界といわれている。今回は、CRMの活用事例を紹介しながら、アパレル業界で有効なCRM活用方法を考えていきたい。
「ウォンツ」商材を取り扱うアパレル業界
なぜアパレル業界におけるCRMの活用が効果的かを考える上で重要な前提である、一般的な消費者の購買動機は、「ニーズ」と「ウォンツ」の2つに大別できるという考え方だ。
【ニーズ商材】
ニーズ商材とは、いわゆる生活必需品のような、「必要」に迫られて買うものである。例えば、食品や日用品などが挙げられるだろう。これらの商品は、製品やサービスの品質・価格が比較されやすい傾向があり、競合商品との差別化が図りづらい。ただ、消費者にとっては必需品であるため、特にCRMに力を入れなくても、露出の面を増やすことで購入してもらえる可能性が高まるものだ。
【ウォンツ商材】
ウォンツ商材とは、基本的にはなくても困らないが「欲しい」という思いで買うものである。例えば、アクセサリーやバッグのような、一般的に「ブランド」と呼ばれるものが挙げられるだろう。これらの商品は消費者の「買いたい」「欲しい」という購買意欲を刺激し、買いたくなる理由を考えなければ売り上げにつながらない場合が多い。一方で、消費者の囲い込みに成功すれば長期にわたって購買してもらえる優良顧客になり得るため、顧客満足度を向上させ売上増を目指すCRMの活用が効果的である。
アパレル業界でCRMを活用するメリット
アパレル業界で扱う商材は「ウォンツ」に該当するケースが多く、販売する側はいかに顧客の購買意欲をかき立てるかについて知恵を絞らなければならない。そこで役立つのが、顧客情報の統合や分析を可能にするCRMだ。ウォンツ商材でCRMを活用するメリットは、主に以下のようなものがある。
1.顧客のニーズを把握できる
2.顧客が欲しいと思うタイミングがわかる
3.オンライン・オフラインの垣根を解消できる
顧客のニーズに合わせたマーケティングの実施は、ビジネスにおいて非常に重要なポイントとなる。次は、アパレル業界での顧客管理について順を追って見ていこう。
まずは「顧客を理解する」ことから
CRMにおいて一番大事なのが、顧客を理解することである。
特にアパレル業界などで扱うウォンツ商材においては、なぜ顧客がその商品を求めるのかを理解しなくてはならない。
商材が高品質であっても、売れ筋商品であっても、リーズナブルであっても、その商品やサービスが顧客の好みと合わなければ購入してもらえない。顧客の趣味嗜好を把握するためにも、多角的な分析を可能にするCRMの活用は欠かせないといえるだろう。
最適なタイミングで顧客にアプローチする
顧客理解と同じくらい重要なのが、顧客が「欲しい」と感じるタイミングを掴み、適切なアプローチをすることである。特にアパレル業界はトレンドが大きく影響するため、調査や分析をしっかりと行い、トレンドの予測をしておく必要がある。
顧客の好み把握したうえで、顧客の求めるものを適切なタイミングで提案することが、マーケティングを成功させる鍵となる。CRMを活用する際にも、顧客ひとりひとりと向き合い、密な関係を築くことに注力すべきであろう。
オンラインでもオフラインでも対応可能にするためのCRM
一昔前は、どんな商品も店頭で買うのが当たり前だった。しかし、インターネットの進歩により、今では店舗に行かなくてもあらゆる商品をオンラインで購入できる。
とはいえ、アパレルなどのウォンツ商材においては、「商品を目で一度見ておきたい、着てみたい、触ってみたい」と思う人も多いだろう。つまり、実店舗の必要性はそこまで衰えていないと考えることが出来る。
例えば、なんとなくネットサーフィンをしていた際に気になる服を見つけ、「今度店頭で試着してみよう」と考えた人がいたとする。実店舗で試着し、その服が気に入ったものの、その時には何らかの理由で購入に至らなかった。しかしその後、購入する準備が整い、最終的にオンラインで購入する―。こういった、オンラインとオフラインを行き来するような流れも起きている。
つまり、顧客の生活シーンにおいては、さまざまなところに購買ポイントがあり、欲しいと思った瞬間に購入できることが理想なのである。そして、彼らがどんな流れをたどり、どこで購買したのかを知るためには、オンライン・オフラインの垣根なく顧客情報を統合できるCRMが必要不可欠なのだ。
SNSやアプリの活用でより効果的に
アパレル業界はSNSやアプリを用いたマーケティングとの相性がよく、CRM施策と組み合わせることで効果をより高めることができる。例えば、InstagramやTwitterなどの公式SNSアカウントを活用したクーポンの配信や、アプリ利用者向けの限定キャンペーンなどだ。顧客はスマートフォンでいつでも手軽に情報をチェックできるため、新商品やセールなど即時性が求められる施策に最適である。ECサイトや実店舗への流入を促進できるほか、CRMと連携させることでOne to Oneマーケティングの実現にもつながるだろう。
CRMの活用事例
ここで、実際にアパレル業界に多く見られるCRMの活用事例を見ていこう。
1.株式会社サザビーリーグ エストネーションカンパニー
アパレル商材やハイブランドジュエリーなどを扱う株式会社サザビーリーグ エストネーションカンパニーでは、店舗での施策を中心にCRM戦略を練っているのが特徴だ。店舗スタッフにも顧客情報を共有したり、店舗の顧客情報とECの顧客IDデータを統合したりすることで、顧客ひとりひとりに対し、より統一感のある接客やアフターフォローを行っているという。
イベントプロモーションを実施する際には、顧客接点の最適化を優先。顧客セグメントに重点を置き、メールやSNSなどの配信チャネルや店舗からの直接アプローチなど、顧客に合わせた告知を行うことで、レスポンスや商品の購入率に直接的な反響があったという。
また、商業施設におけるテナント出店時には、レスポンス率の高い顧客の多くが自社メンバーズカードだけでなく、出店先テナントのハウスカードも持っていることに注目。商業施設に関する情報を知るべく、POSレジを改修し、会計時に顧客の提示したクレジットカードやハウスカードの種類を登録できるようにしたという。その情報をCRMの顧客情報と連携させ、そこからセグメントをかけてメルマガ配信等のアクションにつなげたそうだ。こうしたセグメントメールの配信は、今後、アプリを連携させたプッシュ通知での配信方法も検討しているという。
参考:上質な顧客体験を提供する、顧客データ活用と店舗販促施策を融合したエストネーション流CRM活用術|カスタマーリングス
2.ミズノ株式会社
顧客と1対1で接点を持てるメールマーケティングを大切にしている総合スポーツ用品メーカーのミズノ株式会社。
「商品を購入する意思があるのに、購入していない人」にリマインドメールを送ることを思いつき、CRMツール導入後はオンラインショップにおけるカゴ落ち(利用者が一度商品をカートに入れたものの、購入に至らないこと)ユーザーに対し、「カートにこの商品が残っています」と画像付きでリマインドを実施。結果、売上アップにつながったという。
参考:メルマガ経由の売上が2年で166%アップ|カスタマーリングス
3.株式会社マードゥレクス
大手化粧品通販企業の株式会社マードゥレクスでは、CRMツール導入の際に戦略商品を4つ決め、それぞれ購入した顧客がまた使いたくなるようなアプローチをメールで行っているとのこと。
特にベースメイク商品は、定期購入されやすいスキンケア商品と違い、1度購入したら終わりという場合が多いため、なくなりそうなタイミングを見計らってリピート購入を促進している。また、使用中の期間でも、他の関連商品を紹介するといったクロスセルを行っているという。
こうした活用例はアパレル業界にも応用でき、アイテム単位でのレコメンドによるリピート促進や、購入ブランドから他ブランドへのブランドクロスなどが考えられるだろう。
また同社では2016年より、メール以外の顧客とのコミュニケーションチャネルとして『LINE@』を採用。『LINE@』とは、店舗や施設からLINE上のトークでクーポンやセール情報などを届けることができる集客サービスだ。最近では『LINEビジネスコレクト』と連携したCRMツールや、LINEアカウントを使ってWebサイトやサービスにログインできる『LINEログイン』などの戦略サービスも登場。顧客IDとLINE IDを紐付けたネットワークプロモーションは、ますます広まっていきそうだ。
まとめ
アパレル業界においても顧客ひとりひとりとの関係に有効な効果を発揮するCRM戦略。実際の活用例を知ることで、改めてCRMの重要性を知ることができたのではないだろうか。この記事が、あなたの会社に最適なCRMとその活用方法を考えるきっかけとなれば幸いである。
