デジタルマーケティングの成功事例から学ぶ戦略のポイント


Writer:
山崎雄司
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ITやインターネットの普及に伴い、消費者がスマートフォンやパソコンなどを使って自ら情報収集をするのが当たり前の時代になった。こうした背景の下、デジタルマーケティングはマーケティング手法の主流となりつつあり、これに積極的に取り組む企業が増えている。しかし、「施策の効果を感じられない」「費用に見合った成果が得られない」「そもそもどこから取り組めばいいかわからない」と悩む企業も多い。また、デジタルマーケティングに取り組んではいるものの、専門的な知見やノウハウ、マンパワーや予算の不足などが理由でうまくいかないという声も聞かれる。
デジタルマーケティングを成功に導くには、他社の成功事例を知り、そこから戦略を読み取ることが重要なカギとなる。本記事では、デジタルマーケティングに取り組む国内企業の成功事例について解説し、自社のデジタルマーケティングを成功させるために必要な法則を紐解いていく。


目次


1. デジタルマーケティングの成功事例7選
2. デジタルマーケティングを成功させるポイント
3. 目的から成果を定義し、施策へとつなげていこう
 

デジタルマーケティングの成功事例7選


デジタルマーケティングに取り組む企業の成功事例を7つ紹介する。

1. Instagram施策で売上が2倍/パナソニックホールディングス株式会社


同社の看板商品を売り出すにあたり、かねてから運営していたInstagramアカウントを利用したキャンペーンを実施。まずはJOBフローというフレームワークを用いて、認知から興味喚起、商品理解、検討までの各段階における顧客の認識を整理し、一つの表に落とし込んだ。さらに、Instagramで注目されるキーワードや閲覧の多い投稿から購入動機の分析を行うことで、顧客のニーズを把握。それを基に、過去データも分析しながらJOBフローに沿ったクリエイティブを考え、投稿する画像の順番や既出のテキストを変更するなど、細かく丁寧な投稿を継続的に行うことで、前モデルの2倍の売上を実現した。


2. 広告運用の最適化でCVが2.3倍/株式会社USEN


店舗業務のデジタル化促進に役立つシステムを開発・展開していた同社だが、広告効果が伸び悩み活路を見いだせないでいた。原因を分析したところ、広告内容の整備やデータの統合よりもまず、媒体別の広告クリエイティブの見直しと、各アカウントの状態改善という課題が浮かんだ。そこで、CPA(顧客獲得単価)の圧縮とコンバージョン数の最大化に取り組むため、まず数値分析に基づいてBtoB領域で効果が出やすい媒体を選び、広告を最適化。さらに、注文から会計、売上管理や分析までサポートできる業務システム「Uレジ」の展開について、認知を上げるためにSNS広告をターゲットとなる飲食店経営者に対して配信した。これまで人的経験に頼っていたコンテンツ作成についても、AIを導入したことで効果的なコピーや表現などをデータとして検証し、バナーもスコアリングをもとに作成できるようになった。SNS施策の成果も、数値化することで最適な広告掲出ができるようになり、CPACPOの圧縮にも成功。結果Webリードの質が上がり、CVを安定させ2.3倍にまで増やすことができた。


3. オウンドメディアからのリード獲得件数が26~32.5倍/株式会社ウィルオブ・ワーク


これまでテレアポを中心としたアウトバウンド営業を行っていたが、より効率的な営業活動と新規顧客開拓のためにオウンドメディア施策に注力することになった。しかし、作りたいコンテンツを優先させてしまい、事業に直結する成果が出ていないという課題を抱えていた。そこで施策の目的を明確にし、自社の認知及びリード獲得につながらないコンテンツはPV数に関わらず一斉に削除。同社のオウンドメディアを訪れる読者を具体的に想定し、記事を通して何をユーザーに届けるのかをゼロベースで考えた。事業成長に基づいた戦略を練り計画的に記事を作成・公開した結果、サービスへの問合せは26~32.5倍に増加。さらに、オウンドメディア経由で獲得した問合せからは数億を超える売り上げを作り出すことに成功し、低迷していた受注率の大幅改善につながった。


4. メールでテレアポの獲得率が3倍以上/株式会社ロジクエスト


設立以来直接的なコミュニケーションを重視してきた同社だが、営業担当に頼った属人的な営業活動が近年の課題となっていた。そこで、全社的なマーケティングの効率化と顧客の一元管理を目指し、営業プロセスの課題抽出を実施したところ、導入していたSFAツールは成約後の顧客管理のみでそれ以前の情報が共有できていないことが判明。全体のマーケティング施策の見直しを実施することとなった。まず、導入済みのシステムと連携できるツールを導入しメルマガ配信を行った結果、アポイントの獲得率がおよそ3倍以上になった。ほかにも、名刺情報との連携やホームページのポップアップ機能、プッシュ機能等を活用し、適切なタイミングでの情報発信に注力。資料取得や料金の見積依頼などもフォームから行えるよう改善した。これらは、営業をかけられたくはないが料金は知りたいという顧客心理にマッチした施策となり、Web問合せからのアポイント獲得率は平均40%となった。


5. Webサイトへの流入数が2倍/ライオン株式会社


生活用品販売会社大手のライオン株式会社は、テレビCMや新聞広告なども利用しながらデジタルマーケティングを実施している。なかでも特徴的な施策が「Lidea」というオウンドメディアの運営だ。自社のターゲットを定め、届きやすい情報発信を集中的に行っているほか、SEO設計にも注力している。「Lidea」では自社製品に関する記事だけでなく、暮らしに関する情報提供を目的として展開しており、会員登録をすると自由にコメントができるシステムになっている。毎月一回コメントの中から「NICE!コメント賞」が選ばれポイントが付与される仕組みになっており、ポイントがたまるとライオン製品のプレゼントに応募することができるため、積極的なコメントが期待される。これらの施策の結果として、Webサイトへのオーガニック検索流入数は以前の約2倍となった。


6. 動画経由のROASが1.5倍/株式会社オークローンマーケティング


テレビ通販のダイレクトマーケティングを中心として成長してきたオークローンマーケティング。これまではテレビ通販に特化した動画制作を行ってきたが、ECでの販路拡大に向けて動画広告の強化に取り組んだ。しかしテレビ通販用の動画をWeb用に再編集するだけでは十分に商品メッセージを訴求できないことが課題として浮き彫りになった。そこで、1つの動画に「Attention(注意喚起)」「Interest(興味関心)」「Benefit(利益)」「Action(行動喚起)」の要素を盛り込むAIBAC(アイバック)というフレームワークを活用。これを参考に動画の構成案を作成し、商品の訴求カラーやメインコピーなどを盛り込んでいった。動画配信後は効果検証を実施し、分析結果に応じて改善したものを翌月に配信。動画制作から配信に至るプロセスとPDCAまでが体系化され、ノウハウの蓄積と適切な改善を加えていった結果、静止画キャンペーンと比較したROASが動画では約1.5倍に改善した。


7. ユニークな発想でフォロワー300万人達成/大京警備保障株式会社


ユーザーの約半数がZ世代(10代~20代)というTikTokに注目し、300万人ものフォロワーを獲得したのが大京警備保障株式会社だ。社内の雰囲気や警備業の実情を伝えたいと、社長を中心に社員が一丸となって始めた企画で、「Z世代に流行っているコンテンツをおじさんがマネする」という内容にこだわりTikTokで動画をアップ。一般的に、企業のSNSは製品紹介や自社紹介などが中心だが、それとはかけ離れたギャップがZ世代の心をつかみ、人気に火が付いた。気に入った投稿者の別動画も見たくなるというTikTokユーザーの心理をうまく捉え、さまざまなチャレンジ動画などを配信。コメント欄を参考に企画した内容を投稿していくなかで人気出演者も生まれ、ユーザーとの距離を縮めることに成功している。警備会社としての紹介はほぼないものの、社員が楽しく仲がいいという雰囲気が伝わり、認知度の上昇によってZ世代からの求職者も一気に増加したという。従業員80名ほどの小規模な会社だが、SNSを通じて知名度を上げることに注力したユニークな事例といえる。


デジタルマーケティングを成功させるポイント


上記7つの成功事例から、デジタルマーケティング施策を成功に導くためのポイントを整理し紹介する。

課題と目的を明確にする


デジタルマーケティングに取り組むうえで、課題と目的を明確にすることはとても重要である。「効果がありそうだからなんとなく」「競合他社が注目しているようなので自社でも」といったあいまいな動機で取り組んだとしても、効果は期待できない。課題はデジタルマーケティングを実施するうえで、何にどう取り組むかを決める道しるべとなる。まずは自社の課題と、デジタルマーケティングに取り組む目的(たとえば問い合わせ件数の増加、CV率の向上、新規顧客の開拓、LTVの向上など)を明確にしたうえで、課題解決のために必要なデジタルマーケティング施策を具体化していく必要がある。

目的から成果指標を定める


課題と目的を明確にしたら、「どのような状態になれば目的達成か」という具体的な成果指標を定義する。成果指標の定義があいまいだと、取り組んだデジタルマーケティング施策の結果を正しく判断することができない。
成果指標は、デジタルマーケティングの目的によって異なる。たとえば「ブランド認知の向上」といっても、オーガニック検索の流入数で測るのか、SNSの投稿数・投稿内容で判断するのか、広告のクリック率で測るのかなど、判断材料も指標もさまざまだ。最終的なゴールから逆算し、何を成果指標として検証していくべきなのかを丁寧に設計しよう。

ターゲットを設定して理解を深める


情報が氾濫する現代において、デジタルマーケティングが触れることのできるターゲットは膨大だ。効果的なマーケティング戦略を練るためには、ターゲットを絞り込む必要がある。そのためには、自社商品やサービスについて深く理解しておくことが大切だ。
ターゲット設定がうまくいかない場合は、現在の顧客やリピーターなど、自社商品やサービスのユーザー特性を把握し、理解を深めていこう。ユーザーの理解を深めることで、より明確なターゲティングが可能となる。

適切なコストを見積もる


デジタルマーケティングの失敗例としてよく挙げられるのが、ツールの導入にコストをかけすぎて投資に見合う効果が得られないというケースだ。特にDMPMAといった高機能ツールは、導入時に高額な費用が発生するほか、場合によっては数十万単位のランニングコストが発生するものもある。そのため、検討の際には導入したツールを有効活用できる状況にあるかを見極めることが重要となる。たとえばMAの場合、認知度を上げるために打つ施策の対象や作業量が膨大であれば、人件費削減や業務の効率化に有効だろう。しかしそれほどの対象がいなければ、高額なMAを導入するよりも広告やコンテンツの強化といった施策に投資する方が賢明といえる。

複数の施策やチャネルを組み合わせる


デジタルマーケティングでは、1つの施策だけではなく、複数の施策を組み合わせて行うことが多い。複数の施策やチャネルによる相乗効果を得られやすいという特徴があるからだ。たとえばWebサイトだけ運営している場合、ユーザーとの接点は自然流入が主流で潜在顧客への働きかけは難しく、ほかのチャネルを展開している競合他社より弱いと言わざるを得ない。そこで、オウンドメディアやメルマガ、SNS、動画などの複数チャネルを持つことにより、ユーザーとの接点は一気に広がる。さらに、Webサイトとオウンドメディアの相互リンクや動画チャネルとの連携によって、媒体ごとの特徴を活かした情報提供ができるようになれば、その分認知度の向上も期待できる。

デジタルマーケティングの支援企業を活用する


デジタルマーケティングは、企業の成長に欠かせないマーケティング戦略となっている。しかし、自社にツールを扱える人材がいないなど、デジタル分野に不安がある場合には、支援企業を活用することも選択肢の一つである。マーケティングの知識は一朝一夕に身につくものではないため、人材を育成するにはコストと時間がどうしても必要だ。自社の業務をこなしながらデジタルマーケティングを実行できる手段として、専門知識を持ったプロに任せるのも戦略のひとつといえるだろう。なお、支援企業によって同じ手法でも料金に差が出る場合がある。複数の会社に見積を依頼する場合は同じ条件で行い、サービス内容も細かく確認しておきたい。


目的から成果を定義し、施策へとつなげていこう


今回は、7つの事例を中心にデジタルマーケティング成功のポイントについて述べてきた。成功事例には各企業のさまざまなデジタルマーケティング戦略が組み込まれており、自社が取るべき戦略のヒントを見つけることができたのではないだろうか。
インターネットの発達やスマートフォンの普及によって誰もが簡単に情報を得られるようになった現代社会において、デジタルマーケティングの重要性はこれからも増していくだろう。しかし、デジタルマーケティングの手法や戦略を考える際には、まず自社の課題を正しく把握し、目的を明確にする必要がある。何のために実施するのかという目的とともに成果の判断材料を定義し、適切な成果指標を定め、そこから具体的な手段や戦略へと落とし込み、施策へとつなげていくフローをたどることが大切である。

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