MAのシナリオとは?効果的なシナリオの設計方法を解説


Writer:
山崎雄司
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インターネットの普及とオンライン化によってECサイトの利用が当たり前となった近年、顧客の属性や購買行動などの情報を一括管理できるMA(マーケティングオートメーション)を活用する企業が増えている。このMAを運用するうえで重要なのが、シナリオの設計だ。マーケティングにおけるシナリオとは、顧客が購入に至るまでの行動を想定し、それを実現させるための筋書きのことである。MAの運用において、目的によってさまざまなシナリオが考えられるうえ、その構成によって結果が大きく異なるため、シナリオ設計機能をうまく使いこなせず苦戦しているという声も多い。そこで今回は、顧客に寄り添ったシナリオを設計するためのポイントを解説していきたい。

MAのシナリオとは


MAとは、収益の向上を目的として、顧客の属性や行動情報に基づいたマーケティング施策を自動化するツールのことである。このMAツールにはデータの一元管理や分析・マーケティングの自動化などをはじめ、見込み顧客ごとに異なるアプローチを可能にするシナリオ機能がある。シナリオ機能では、MAで抽出できる顧客の属性や行動に応じて、あらかじめ設定したシナリオに沿ったメールを自動で配信することができる。
MAにおけるシナリオ機能の設計は、特定の行動(アクション)を起こした顧客に対し、あらかじめ設定したアクションを返すというのが基本となる。顧客との良好な関係構築の実現のためには、施策のコンセプトを反映した精度の高いシナリオが必要だ。適切なシナリオ設計を実施することで、顧客一人ひとりの状況に合った最適なコンテンツを、最適なタイミングで配信することができるようになる。


MAのシナリオの代表的な例


MAのシナリオ機能には、「設定したシナリオに沿ったメール自動配信機能」「顧客のリアクションに応じたシナリオの分岐」「顧客の段階(フェーズ)に応じたシナリオ設定」などがあり、具体的には以下のような形で活用されることが多い。

・商品のサンプル購入者にフォローメールやお得な販促メールを送信
・継続購入者に限定クーポンを配信
・料金ページを閲覧した顧客に割引キャンペーンの案内をスマ―トフォンアプリでプッシュ通知
・商品ページの閲覧者にお役立ち情報と活用方法のコンテンツを配信

MAのシナリオ設計に必要な4要素


1. 誰に(ターゲット、ペルソナ)


まず行うべきはターゲットの絞り込みである。どの顧客に対してシナリオを設定するかは企業や商材によって異なるため、まずは自社のマーケティング対象を明らかにすることが重要だ。ただし、メールは届いているが開封していないセグメントや、HPは訪問しているが商品ページは閲覧していないセグメントなど、ターゲットとする対象が有効なセグメントであるかどうかを慎重に検討する必要がある。

2. いつ(タイミング)


メールの開封や特定のWebサイト閲覧など、シナリオが走り出すきっかけとなる顧客のアクション(トリガー)とそのタイミングを決定しよう。検討の軸となるのは、「時間帯」「起点行動」「頻度」の3点が基本であり、具体的には「ターゲットにとってメールを開封しやすい時間帯」「無料カタログのダウンロードなどの具体的なアクション」「連続して配信する場合の頻度」など、有効なアプローチができるタイミングを設定することが重要だ。非常識な時間帯に配信したり、頻繁に販促メールを配信したりしてしまうと離脱に繋がることもあるため、最適なタイミングを慎重に見極めよう。

3. 何を(コンテンツ、クリエイティブ)


Webサイトにおいて顧客との関係を構築するには、効果的なコンテンツマーケティングが欠かせない。自社で設定したターゲットが興味や関心を持ちそうな内容を盛り込んだコンテンツを作成し、コンテンツを通じて顧客との関係性を構築しながら製品やサービスにも関心を持ってもらうよう誘導することが大切だ。具体的には「自社の紹介」「商品やサービスを使った事例紹介」「顧客の悩みが解消されるお役立ちコラム」「特別セミナーへの招待」などが挙げられる。顧客と継続的な関係を構築するために、顧客目線に沿った信頼度の高いコンテンツを作成していこう。

4. どのように(チャネル、手法)


何を経由してコンテンツを顧客に届けるか、顧客へのアプローチ手段を決定する。具体的には、オンラインチャネルとしてメール、SNS、アプリ、Web広告、オウンドメディアなどがあり、オフラインチャネルとしては、ダイレクトメールやセミナーなどが挙げられる。
メールやSNSは低コストで幅広いターゲットにアプローチできるチャネルである。アプリはSNSなどよりもハードルが高いが、その分インストール済みの顧客は意欲が高いと推察でき、プッシュ通知は即時性も高い。Web広告はコンバージョン率(CVR)などによる費用対効果の検証がしやすいことがメリットだろう。このようなチャネルごとの特性を踏まえ、顧客フェーズごとに最も届きやすい手法を選んでいこう。


MAのシナリオを設計する手順


1. ゴールを設定する


ゴールとは目的のことであり、シナリオの軸となるものである。シナリオを設計する際には、最初にゴールを設定し、シナリオの目的を明確にしておく必要がある。たとえば、資料請求や自社ページの閲覧、メールマガジンの登録などが考えられる。
ゴールの設定に当たっては、一般的に顧客が購入に至るまでの経緯を押さえておきたい。マーケティングファネルで示されるように、基本的な購買行動プロセスは認知→興味→比較検討→購入といった形で進んでいく。そのため、たとえば認知以前の無関心な状態にあるユーザーは、他社製品と比較することはないうえ、そもそも認知していない商品の購入を検討する機会もない。顧客がマーケティングファネルのどのフェーズにいるのかを把握し、段階的に行動を起こしてもらえるようなシナリオを設計していくとよい。


2. ターゲットを設定する


マーケティングの方向性を定めるため、これまで収集・蓄積してきた顧客情報を、年齢・性別・地域などの属性や、マーケティングファネルのフェーズ、「新規」「見込み」「既存」といった関係性、購入行動履歴などでグループ分けし、どのセグメントにアプローチするかを設定する。顧客行動の可視化には、MAのトラッキング機能や、顧客の行動情報にポイントをつけて顧客の熱量やライフサイクルを数値化するスコアリング機能などが有効だ。また、ペルソナを細かく設定しておくのも効果的である。


3. コンテンツを作成する


配信コンテンツは、商品やサービスへの関心を高めてもらい、顧客フェーズに応じて配信することで関係構築を図っていくことがポイントである。たとえば新規顧客の場合、まずは自社を知ってもらうための製品情報やブランド紹介、お役立ち情報などを定期的に配信するなど、信頼度や親近感を高めるものが望ましい。優良顧客に対しては、限定商品の案内や特別クーポンの配布などといった特別感を演出するものや、関係性を維持するための更新通知なども有効だ。また、購入見込みが高そうな顧客に対しては他社製品との比較、休眠顧客であれば復活を促すような新商品案内など、フェーズごとの顧客ニーズを満たしたうえで次の行動に誘導できるコンテンツの作成を心がけたい。

4. 配信チャネルを選定する


どんなに良質なコンテンツを作成しても、見てもらえなければ意味がない。質の高い顧客体験を提供するためには、自社の設定したターゲットにとってどのチャネルが最もアプローチしやすく効果的かを見極めることが重要だ。
チャネルはオンラインからオフラインまで多岐にわたる。オンラインチャネルは比較的低価格で手軽に運用できることや、CVRやCTR(クリック率)のようなデータを用いた効果測定がしやすさがメリットである。オフラインチャネルの場合、直接手元に届くDMや直接会えるセミナーなどは購買意欲が高い顧客に効果的だ。このような各チャネルの特徴を踏まえ、ターゲットに最もマッチするものを選定しよう。また、チャネルによってターゲットの属性やコンテンツのフォーマットが大きく変わる可能性がある場合には、コンテンツ作成の前にチャネルの検討をしてもいいだろう。

5. 配信タイミングを設定する


顧客へのアプローチはタイミングと頻度が重要だ。求めている情報を求めているタイミングで提供することができれば、顧客の関心を高めることができるからである。しかし、タイミングを逃したり、不要な情報を頻繁に提供したりすると、離脱につながることも。常に顧客視点に立ち、顧客フェーズごとに最大の効果を発揮するタイミングを見極めていくことが重要だ。たとえば、資料請求や商品ページの閲覧といった起点行動と、そこから購入に至るまでの期間にはいくつもの決断タイミングが存在する。過去のデータやMAで集積した顧客の行動履歴などから、顧客の多くが決断に至るタイミングで最適な情報を配信できるようにしたい。ただし、頻度が高すぎると印象を悪くする恐れもあるため、開封率や訪問履歴なども確認しておきたい。

MAのシナリオ設計のポイント


1. シンプルなシナリオ設計から始める


導入してからしばらくは、シンプルなシナリオを設計し、改善することを前提に運用する方が望ましい。複雑なシナリオは制作コストや工数がかかるうえ、効果検証も難しくなる傾向がある。また、時間をかけて分岐の多いシナリオを設計しても、最後まで到達する見込み顧客が少なくなってしまう可能性も。特にBtoBの場合はこの傾向が強い。自社のターゲットを絞り込んでシンプルなシナリオ設計を図り、効果検証と改善を繰り返していくことがポイントである。


2. 成果の出やすいキラーコンテンツを見つける


キラーコンテンツとは、顧客の購買意欲に大きく影響し、CVにつながりやすいコンテンツのことである。たとえば専門家のコメントや口コミ、製品の詳しい紹介ページや導入事例といったものが該当する。ターゲットのニーズに合った魅力的なコンテンツを展開するには、各ページに対しての反応を分析し、定期的な効果測定をしてキラーコンテンツを見つける必要がある。各セグメントのシナリオにキラーコンテンツを組み込むことで、高い成果を出し続けていくことが期待できる。


3. シナリオやコンテンツを定期的に見直す


ECサイトやスマートフォンが普及し、顧客はいつでも自由に求める情報を手にすることができるようになった昨今、顧客ニーズも多様化し一つの施策だけでは顧客の心が動かないことも多い。そのため、一度構築したシナリオに固執せず、顧客の反応によってシナリオやコンテンツを柔軟に見直すことが重要である。現在有効なキラーコンテンツも、いつまでも有効であり続けるとは限らない。ターゲットの求める情報を適切なタイミングで提供し続けていくためにも、中長期的なシナリオを組んで継続的に情報を提供しながら、シナリオやコンテンツを定期的にブラッシュアップしていくことが大切だ。


4. データに基づいて仮説を立てる


漠然としたイメージではなく、具体的なデータを基に仮説を立てて運用していくことが重要である。仮説の立案にはMAツールが活用できる。MAツールには顧客の属性情報をはじめ、行動履歴やアンケート結果などの収集・分析機能がついており、切り口や組み合わせによってさまざまな結果を導き出すことが可能。その際、最初はシンプルに目的にフォーカスした数値の定点観測を行い、傾向が見えてきたら他の数値も参照していくというように、重要なポイントから視野を広げていくのがポイント。たとえばメールのタイトルや内容が適切かどうか検証したい場合、まずは開封率とクリック率のみを比較し、その後に配信タイミングやセグメントも含めて検証するために全体の開封数を参照する、という具合だ。

MAのシナリオに関する導入事例


1. 株式会社TAT


ネイル用品の専門商社TATは、アンケートや定量データを自分たちで抽出・加工していたため、かなりの手間がかかっていた。また、メールもキャンペーン案内を中心とした一斉配信のみで、セグメントごとの配信や定期配信などはできておらず、効果測定も不十分であった。MAツール導入後は、顧客ごとの平均購入周期やメーカーごとの継続率の把握ができるようになり、顧客一人ひとりに最適なタイミングでアクションを起こすことが可能に。たとえばポイント失効や会員ランク切れ、平均周期切れ、クーポン未利用者に対してシナリオを組み、メルマガとLINEを併用したタイムリーなアプローチを行うことで離脱率が10%改善した。さらに、初回購入者には個別にアンケートを送るといった細かいシナリオを設定し、顧客のフェーズに合わせた対応で信頼関係を深めている。


2. 株式会社中国新聞社


「中国新聞SELECT」「ちゅーピー子ども新聞」などのメディアを展開する中国新聞社では、デジタル媒体の有料購読会員数を増やすべく、顧客理解のためにMAツールを導入。まずはID登録したユーザーに送るサンクスメールやアクセスランキングの紹介メールなど、一つひとつそのタイミングに合った内容を詰めていくことで、認知からCVに至るまでのシナリオを作成。それを実践し、効果測定によって強化ポイントを再考しながら運用している。その結果、導入から1年で無料ID取得後の挨拶メールの開封率は40%前後に。さらに、その先のアプローチも平均開封率30%をキープしているうえ、URLをクリックした人の20%がコース登録をするという結果となった。


MA運用のカギはシナリオ設計にあり


MAのシナリオは、自社にとって価値のある顧客を効率よく見つけ出すために必要なものであり、顧客との信頼関係を構築するための有効な手段である。適切なタイミングで顧客が抱える課題や興味関心にマッチしたコンテンツを届けることで、見込み客との信頼関係を徐々に構築していくことがポイントだ。まずはシンプルなシナリオから始め、ブラッシュアップを重ねることでシナリオの精度を高め、マーケティング効果の最大化を図りたい。

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