今さら聞けない「顧客エンゲージメント」―デジタル時代を生き抜く基礎知識


Writer:
山崎雄司
  • facebook
  • Twitter
  • LINE

企業と顧客の接点が増えていくにつれ、「顧客エンゲージメント」という言葉を耳にする機会が増えてきている。今回は、あらゆるビジネスシーンにおいて重要視されている「顧客エンゲージメント」の概要や、エンゲージメントを向上させるためのポイント、改善に当たっての注意点、成功事例を見ていく。

顧客エンゲージメントとは


「エンゲージメント(engagement)」とは、英語で「従事」「契約」「約束」といった意味をもつが、「顧客エンゲージメント」は、顧客と商品やサービスブランドとの間に深い信頼を築くことを指す。「顧客エンゲージメント」のほか、「カスタマーエンゲージメント」と呼ぶこともある。この顧客エンゲージメントを高めることで、顧客は企業のブランド価値を高く評価するようになり、ファンの増加やリピート利用、口コミによる評価の拡散といった効果が期待できる。

「顧客ロイヤリティ」や「顧客満足度」との違い


「顧客エンゲージメント」とよく似た用語に「顧客ロイヤリティ」と「顧客満足度」があるが、それぞれ評価方法や概念が異なる用語である。「顧客ロイヤリティ」は、顧客が企業やブランド、商品・サービスに対してどの程度信頼や愛着を抱いているかを示すものである。これを測る指標にはNPS®(Net Promoter Score)が用いられ、「他人にどれだけ薦めたいか」というシンプルなアンケートから算出される。
顧客満足度」は、商品・サービスを購入後、顧客がどのくらい満足しているかを示すものである。顧客満足度の測定には「顧客満足度調査(CS調査)」が用いられ、顧客が商品やサービスを認知し、購入、その後の全プロセスにおける顧客体験(CX)を対象として、あらゆる顧客接点における満足度を評価する。
「顧客エンゲージメント」は先述のとおり、企業と顧客との間に深い信頼関係を築くことを指しており、顧客行動に基づいて分析・測定する。以上から、これら3つの用語の違いをまとめると、まず「顧客満足度」は商品・サービスに対する単発的な評価であるのに対し、「顧客ロイヤリティ」と「顧客エンゲージメント」は顧客と企業との長期的な信頼関係を測る指標であるといえる。つまり、「顧客満足度」を向上させると、企業への評価である「顧客ロイヤリティ」もおのずと高まり、「顧客エンゲージメント」にも好影響を与えるということだ。ただし、「顧客満足度」と「顧客ロイヤリティ」は顧客側から企業及び商品・サービスへの評価であり、企業側から提供する施策も一方的になりやすい。そこで、より効果的なマーケティング戦略として“企業と顧客双方の結び付き”という概念をもつ「顧客エンゲージメント」が注目されているのである。また、調査方法にも違いがある。「顧客ロイヤリティ」と「顧客満足度」は顧客の“感情”にフォーカスしたアンケート調査によって測定するが、「顧客エンゲージメント」は顧客の“行動”に基づいて測定するものである。

参考:NPS®とは?NPS®の本質を理解しデジタルマーケティングの成果を最大化しよう
今さら聞けない「CX(Customer Experience)」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識
カスタマージャーニーで顧客の「変化」と「違い」に着目し、最適なアクションを考える

顧客エンゲージメントを高めるためにするべきこと


顧客エンゲージメントを高める第一歩は、顧客のデータを収集することである。年齢、性別、購入頻度などの基本的な顧客情報をはじめ、顧客が商品・サービスを認知し、購入、利用するまでのプロセスにおける、あらゆる顧客行動データを収集する。次に、カスタマージャーニーマップなどを活用して、現状の把握及び課題の抽出、分析を行い、具体的な施策に落とし込む。その際、顧客が商品を購入するまでのプロセスだけでなく、購入後のカスタマーサポートや継続的な情報発信といったアフターフォローも含めることが大切である。また、顧客エンゲージメントのゴールを明確にすることも必要である。短期的な目標でのゴールでなく、利益を継続的に生み出すためにも中長期的な目線でゴールを設定したい。そして、顧客行動の各プロセスにおける課題とその解決につながる施策を検討するが、その際には、顧客エンゲージメント測定のためのKPI設定や、顧客ロイヤリティを測るNPS®の活用も効果的である。ただし、施策は実現性のみで考えず、自社ブランドの方向性や、期待する効果の程度に合わせて検討していくとよいだろう。

参考:今さら聞けない「カスタマージャーニー(Customer Journey)」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識

顧客エンゲージメントを高めるメリット


顧客満足度を改善し顧客ロイヤリティを高めることで、顧客エンゲージメントが向上する。そして、顧客エンゲージメントが高まると、顧客の定着につなげることができる。既存顧客が継続して自社の商品やサービスを利用するようになると、将来的に安定した利益を確保できるようになり、さらには、ロイヤルカスタマーのようなエンゲージメントの高い顧客が、自社の商品・サービスをSNSや口コミなどで宣伝してくれるようになる。つまり、顧客エンゲージメントを高めることで、未来の新規顧客や見込み顧客の獲得にもつながっていくということである。

成功事例


ここでは、顧客エンゲージメントの向上に成功した企業の事例を見ていこう。

サンスター株式会社


オーラルケア用品をはじめ健康食品、化粧品などを幅広く展開するサンスターでは、自社のECサイトであるサンスター公式オンラインショップにおいて、「家庭で取り入れていただきたい美と健康に関する商品」の販売を展開している。主に既存顧客に支えられているビジネスモデルであるため、顧客ロイヤリティの改善を重要な課題としていた。そこで、CRMツールを導入したところ、実際の顧客データを元に商品やセグメント別での購買パターンを反映させたシナリオを自由に設計できるようになった。商品や顧客のセグメントごとにCRMのシナリオ設計を変更し、顧客一人ひとりに合わせた施策を打つことが可能となった。また、新規顧客向けのCRM施策としては、入口でどの程度の顧客に購入してもらえるかを指標とし、モニターアンケートの回答率や本品を購入するまでのコンバージョン率を追うように。これを実施することで、課題がどこにあるかが把握でき、それをCRM施策に反映させている。さらに、既存顧客への情報発信は、メールの一斉送信ではなく、CRMツールのセグメント配信機能を用いた的確な発信を行っている。CRMツールの導入によって、従来のセグメントメールやLINE活用のハードルが解消され、顧客のチャネル間の動きを可視化したことで、顧客の行動に合わせた対応が可能となった。このように、CRMのシナリオ設計と、新規顧客とのコミュニケーションを内製化できたことで、施策のスピードと自由度が向上した。また、同社では既存顧客に対する施策の効果をロイヤリティ(定性指標)で測っているのが特徴だ。先行指標として、顧客のECサイト訪問頻度やメールの開封状況、口コミを書いていただけたかなどを確認するなど、あらゆる顧客接点における顧客行動を横断的に把握するようにしている。さらに、ロイヤリティはNPS®と併せて分析し、改善策の実施につなげている。

参考:今さら聞けない「CRM(Customer Relationship Management)」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識

顧客エンゲージメントの向上で長期的な信頼関係の構築を


顧客満足度を高め、ロイヤリティの高い既存顧客を獲得することは、顧客エンゲージメントの向上や安定的な利益を追求するうえで重要だということがおわかりいただけただろうか。顧客エンゲージメントの改善には、あらゆる顧客接点においてどのような顧客体験(CX)を提供できるかが鍵となる。顧客データを活用し、顧客一人ひとりに最適なCXを提供することで、顧客と企業との絆を深めていくことができるのだ。なお、顧客エンゲージメント改善の際には、一度のサイクルで満足せず、定期的に見直し、課題を見つけ、改善を重ねていくことも重要である。

メルマガ登録
  • facebook
  • Twitter
  • LINE