今さら聞けない「CX(顧客体験)」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識


Writer:
山崎雄司
  • facebook
  • Twitter
  • LINE

マーケティング業界において、ますます重要視されているCX(顧客体験・Customer Experience)。昨今では、デジタル化の進展に伴い顧客接点が多様化している上、SNSの浸透によってCXが多くの消費者間で共有されている。そのため、CXの評価がそのまま企業評価にもつながる可能性があり、企業およびブランドにとってCXの重要度は日に日に増しているといえるだろう。今回は、CXの基本を改めて整理し、CX改善のために必要なアクションと、考慮したいポイントを解説する。

CX(顧客体験・Customer Experience)とは


CXとは「Customer Experience」の略称であり、「顧客体験」と訳される。顧客と、特定のブランドや商品との接点における顧客の“すべての体験”、つまり、商品の認知段階から実際に購入し、使用するという一連の体験のことを指す。なお、対象は、「既存顧客」と「見込み客」の双方で、オフラインおよびオンラインでの“すべての体験”を包括的に捉える必要がある。

CXとUXの違い


UXは「User Experience」の略称で、日本語では「ユーザー体験」といわれる。CXと混同されやすいが、UXが商品やサービスに関する体験のみを指すのに対し、CXは商品の認知から購入までのすべての体験を指すという違いがあるため、覚えておこう。

参考:オンライン化が進む企業・ブランドのマーケティングにおいて、CX(顧客体験)を向上させる4つの手法

CX(顧客体験)が今、注目されている理由


CXが注目されている背景には、以下の3つの理由があると考えられる。

1.SNS等によるCXの共有


インターネットの生活への急激な浸透により、誰でもどこでも、口コミを広く発信することが可能になってきている。これまでも、口コミサイトや掲示板のような「CGM(Consumer Generated Media/消費者生成メディア)」を活用したマーケティングは行われていたものの、昨今のSNSの急速な普及により「UGC(User Generated Content/ユーザー作成コンテンツ)」の影響が一気に拡大してきている。その結果、商品の購入前にSNSをチェックするのは一般化してきており、CGMに投稿されているUGCの内容から読み取れるCXが、購買前の意思決定を大きく左右するケースが非常に多くなってきている。こうした背景から、UGCの活用がマーケティングの大きなトレンドの一つとなっている。
※なお、CGMとは、ユーザー参加型の“メディア”であり、SNSやナレッジコミュニティ、口コミサイトなどの「場」が該当する。またUGCは、消費者が主にオンライン上で発信する“コンテンツ”の総称で、具体的にはSNSの投稿や写真、動画、ブログなどのデータを指している。

2.商品のコモディティ化


これもよく言われていることではあるが、商品のコモディティ化(一般化)によって商品自体の価値の差別化が難しくなったことも、CXが注目されている理由の一つだ。なんでも手に入れることができる時代になり、商品そのものの機能や性能、価格といった「モノ」の価値のみで顧客へ満足感を与えたり、差別化したりすることが難しくなっている。その結果、CXのような感覚的・非物質的価値を含めた総合的な評価が企業・ブランドには求められるようになってきているのだ。

3.顧客接点の多様化


インターネットやスマートフォンの普及によって顧客接点はここ十数年で一気に増加し、多様化している。情報へのアクセスも容易になり、顧客が自分自身で商品やサービスを比較することが当たり前になっている。そのため、商品やサービスの質を向上させるだけではリピーターやファンを増やすことが難しくなっており、競合他社との差別化をはかるためにも、企業はあらゆる顧客接点において印象的なCXを提供する必要が出てきている。

CX(顧客体験)を改善するメリット


1.ファンやリピーターを獲得できる
2.顧客による宣伝効果が期待できる
3.ブランディングに役立つ

「モノ」としての価値だけではない価値ある体験の提供は、顧客ロイヤリティを高めることにつながる。それによりファンやリピーターを獲得しやすくなるほか、口コミによる宣伝効果や認知度の拡大も期待できる。顧客の自社や自社商品に対する信頼はブランドイメージの向上にも役立つため、企業がCX改善に取り組む価値は非常に大きいといえる。

参考:オンライン化が進む企業・ブランドのマーケティングにおいて、CX(顧客体験)を向上させる4つの手法

CX(顧客体験)改善のためにするべきこと


では、CXを改善するためには、具体的にどのようなアクションをとればよいのだろうか。4つのステップに沿って見ていこう。

1.カスタマージャーニーマップの作成


カスタマージャーニーはマーケティング手法の一つで、顧客が商品やサービスを認知し、情報収集を行って、購入、その後に評価するという、顧客の行動や思考を時系列で表す一連の行動のこと。これを、図表などを用いて可視化し、それぞれの段階で効果的な対応策を組んだ行動マップが、カスタマージャーニーマップである。
カスタマージャーニーマップの作成によって、一連の顧客行動における総合的なCXを見える化し、顧客視点でニーズや購買心理を把握できるだろう。

2.課題を抽出する


次に、現状の課題を抽出する。課題を明確にするためには、顧客との理想的な関係性(目標)と現状を比較し、その隔たりを埋めるために必要なことは何か、データを用いて分析する。
まずは、企業が提供しているCXの現状を、客観的かつ正確に把握しておきたい。たとえば、カスタマージャーニーマップを用いて顧客行動を段階ごと(時系列や顧客接点)で区切り、それぞれの現状にどのような課題があるのかを分析。その際、定量データだけでなく、アンケートやソーシャルリスニング(SNSや口コミサイトのデータを収集・分析するマーケティング手法)なども活用したい。これらの定性データを分析し、顧客心理を把握することで、顧客との理想的な関係性を築くヒントを得ることができるだろう。

3.仮説を立てる


これまでの課題を抽出したら、改善のための仮説を立てる。しっかりとした仮説を立てるためには、幅広いデータのインプットが必要だ。課題と向き合い、さまざまなデータから顧客心理を捉え、より具体的な仮説を立てることで、改善策一つひとつの効果を予測できるようになる。

4.施策を実行する


仮説を立てたら、施策を実行する。その際、顧客視点を見失わないよう、実際の顧客を巻き込む形で実施したい。そのためには、プロトタイプを活用して検証を行い、常に仮説を立てながらPDCAを回すことが大切だ。このように何度も仮説と検証を繰り返し、PDCAを回しながらより効果的なマーケティングを追求することで、CXの改善につながる。

CX(顧客体験)改善時に考慮すべきこと


CX改善のための施策を実行するにあたって意識しておきたいのは、「顧客満足度(Customer Satisfaction、略してCS)」である。提供したCXに対する顧客心理を測ることで、より効果的な改善につながるため、CSの可視化はCX改善時には避けて通れないものとなる。

顧客満足度を測る上で注意しておきたいポイントを5つ見ていこう。

1.顧客満足度(CS)調査の定期的な実施


顧客満足度を測る方法の一つが「顧客満足度(CS)調査」である。認知から購入までの全プロセスにおけるCXに着目した調査で、顧客体験の要素ごとに評価する。
こうした調査は、一度実施しただけで結論が出るものではない。定期的に検証を行い、PCDAサイクルを回し続けることが大切である。

2.顧客満足度(CS)の可視化


顧客満足度(CS)調査は、主にアンケートやインタビューの形式が用いられる。これらを数値化し、可視化することで、客観的な評価ができる。

3.推奨度(NPS®)の計測


NPS®とはNet Promoter Scoreの略で、企業やブランドに対する顧客の愛着度や信頼度(顧客ロイヤリティ)を数値化したものである。こちらも顧客満足度を測る指標であるが、事業の“成長率”との相関性があることから注目され、多くの調査によって“業績”との関係も証明されている。
具体的には、「他人にどの程度薦めたいか」というシンプルな質問をし、その可能性を顧客に0~10点の点数で評価してもらうというもの。0~6点を“批判者”、7~8点を“中立者”、9~10点を“推奨者”に分類し、次の計算式を用いて算出する。

推奨者の割合(%)-批判者の割合(%)=NPS®

推奨者の割合が高く批判者の割合が低いほど、NPS®のスコアは高くなる。

注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標又はサービスマークです。

参考:今さら聞けない「NPS®(ネット・プロモーター・スコア)」―デジタル時代を生き抜く基礎知識

4.カスタマージャーニーマップの定期的な見直し


顧客満足度(CS)調査やNPS®は、カスタマージャーニーマップと組み合わせることでより効果を発揮する。カスタマージャーニーマップは、なるべく簡潔に、視覚的にわかりやすく作成し、課題を定期的に見直すことが大切である。

5.顧客実感をベースにしたKPIの設定


顧客満足度(CS)調査やNPS®のデータを取り扱うことで、バリエーションに富んだKGIやKPIの設定が可能となる。ただし、数値ばかりにとらわれず、顧客の状態を正確に把握することが重要だ。KPIツリーを作成し、KPIに設定した理由や具体例を顧客視点で盛り込み、補足していくことで、顧客の現状が見えてくるだろう。
また、こうした複数の顧客情報を取り扱うには、CRM(顧客管理ツール)やCDP(顧客データプラットフォーム)の利用も検討したい。CRMやCDPの活用によって顧客の多面的なデータを統一し、顧客毎にかゆい所に手が届く施策を進めることで、顧客実感の伴ったKGI・KPIの運用が可能になるだろう。

参考:デジタルマーケティングでの行き過ぎた「数値」のみのKPI管理への警鐘~実感をベースにしたKPIこそ重要~

CX(顧客体験)改善に有効なツールとは


CXの改善を測る上では、提供するCXと顧客満足度とのギャップを埋めることが重要である。企業側が考える価値が、顧客の求めるCXとマッチしていないケースが多々起きており、また、それを十分に把握していない企業が多いのも現状だ。こうしたギャップを把握し、改善するために有効なツールをいくつか紹介する。

1.CDP


CDPとはCustomer Data Platformの略で、顧客データを収集・分析・統合するプラットフォームのことを指す。顧客の属性や嗜好、行動履歴などの詳細なデータを収集し、顧客ごとのIDを作成。そして複数のデータを顧客IDに集約し分析することで、顧客一人ひとりに合わせた適切なアプローチを可能にする。

参考:CDPツール比較 - One to Oneマーケティングのデータ基盤となる主要サービスを徹底比較

2.テキストマイニング


テキストマイニングは、アンケートやSNSなどから定性データを分析し、見える化するツールである。ギャップをより明確にするためには、顧客満足度(CS)調査やNPS®のデータからフィードバックを得る必要があり、そこではテキストマイニングが有用である。

このほか、MAやCRM、チャットサポートといったツールも、顧客理解を深め、顧客とのより良い関係の構築に役立つだろう。しかし、これらのツールを用いただけで満足してはならない。ギャップを明確にしたあとは、それを埋めるための施策を立て、実行することが大切だ。同時に、顧客ニーズに合った商品やサービス開発・改善にも活用できるだろう。

CX(顧客体験)改善の成功事例


1.日本航空株式会社



JALという呼称でも知られる日本航空株式会社は、国内で最も長い歴史を持つ航空会社。顧客一人ひとりの声をサービスに活かすためにアンケートを実施していたが、以前のシステムでは調査対象を絞ることができず、スマートフォンでの表示に対応していないなどの課題があった。当時のアンケートシステムでは要件を満たせなかったため、アンケートフォームの作成機能を持つCRM/MAツール「カスタマーリングス」を導入。その結果、セキュアな環境で特定の利用者を対象とするアンケートを実施できるようになったほか、スマートフォンでの快適な入力が可能となり、回答数が大幅に増加。さらにアンケート結果を分析することで、サービス改善に活かしているという。

参考:サービスを充実させるため、アンケートを積極的に利用。お客さまの声を全社で活用しているJALの取り組み

2.スターバックスコーヒージャパン株式会社



スターバックスコーヒージャパン株式会社は、世界的に展開しているコーヒーチェーン。来店した顧客に従業員が「こんにちは」と挨拶する接客スタイルなど、良質な顧客体験の提供に力を入れている。接客だけでなく店内のBGMにもこだわり、ブランドイメージを統一したうえで店舗ごとに内装で個性を持たせるなど、来店した顧客の心を豊かにするための工夫がなされている。2020年2月には、スマートフォンのAR機能で擬似的な花見体験ができるキャンペーンを実施。「#スターバックスさくら2020」のハッシュタグを推奨することで顧客による宣伝効果を後押しし、SNSで好評を得たという。

参考:
スターバックスやリッツ・カールトンが盛況な理由/CXでリピーター獲得のビジネス戦略
店舗でもデジタルでも考え方は同じ。スターバックス コーヒー ジャパンCMOに聞く、心を動かす体験の作り方|Experience Insights #2

顧客目線で優れたカスタマーエクスペリエンスを


顧客接点が多様化する中で、顧客にとって印象的なCXを提供するには、企業側がCXの意味や重要性を理解することが大切だ。「顧客視点」でCXを捉え、常に仮説を立ててPDCAサイクルを回し続けながら、カスタマージャーニーマップの見直しや顧客満足度(CS)、NPS®の測定も定期的に行おう。顧客を巻き込む形での施策実行を繰り返しながら、その都度改善を図ることで、より優れたCXの提供が可能となる。多様なデータから顧客を理解し、時代やニーズに合った感動的なCXの提供へつなげていきたいものである。

メルマガ登録
  • facebook
  • Twitter
  • LINE