デジタルマーケティングでの行き過ぎた「数値」のみのKPI管理への警鐘~実感をベースにしたKPIこそ重要~


Writer:
山崎雄司
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豊富な数値データを扱うデジタルマーケティング。多くの数値データを取り扱うことが可能であるがゆえに、バリエーションに富んだKGIやKPIの設定が可能になる。しかし、この数値データばかりに注目して施策を回していると、「気づいたら本質を見失っていた」ということも起こり得る。今回は、こうした「数値」ドリブンでのKGI・KPI管理について一歩踏み込み、数値にばかりとらわれずに「実感」を伴って運用する方法を考えていきたい。

デジタルマーケティングにおけるKGI・KPI


まず、KPIとKGIについて簡単におさらいしておこう。KGIとはKey Goal Indicator(=重要業績評価指数)の略で、「いつまでにどのような状態を目指すのか」という具体的な最終目標のこと。そして、このKPIの達成のために細分化し設定する施策をKey Performance Indicator(=重要業績指標)という。つまり、KPIはあくまで中間指標であり、最終目標の指標であるKGIを達成するために行った施策が機能しているかどうかを判断するためのもの。前述の通り、デジタルマーケティングにおいては取り扱うデータの量が膨大であるために、効果的なKPIの設定がKGIを達成するための肝となる。このKGIとKPIの関係性を把握するために、「KPIツリー」を作成するのも有効。最終目標であるKGIに影響する要素を細分化し、ツリー型に可視化した「KPIツリー」は、KGIに結びつく的確なKPIを設定できているか確認しやすくするものである。

KGI・KPIの設定方法


それでは、KGIとKPIの具体的な設定方法について見ていこう。

1.最終目標となるKGIを設定する
2.KGI実現に必要なKSFを設定する
3.KGIとKSFを踏まえKPIを設定する


まず、ゴールとなるKGIを設定する。KGIは具体的な数値とその達成時期を明確に記載し、誰もが理解できる内容にすることが重要だ。次に、そのKGIを実現させるために必要なKSF(重要成功要因)を洗い出し、設定する。KSFはKGI達成に必要な体制や人材といった定性的な内容が多く、ひとつのKGIに対し複数設定される。そして最後に、KGIとKSFの内容を踏まえKPIへと落とし込み、設定する。こちらもひとつのKSFに対し、複数のKPIが設定されるケースがほとんどだ。これらは根幹となるKGIからKSF、KPIへと細分化されていくため、間にKSFを挟むかたちで前述のKPIツリーを活用することで、最終目標までの具体的な道のりをよりイメージしやすくなるだろう。

KGI・KPIの指標例


KGIやKPIで使用される指標には、BtoC・BtoB共通のものもあればBtoB特有のものもある。ここでは、それぞれの指標例を見ていこう。

1.BtoC・BtoB共通の指標例


商品やサービスを扱うECサイトの場合、KGIはCV獲得数の指標が使用されることが多い。一言でCVといってもその内容はさまざまで、商品・サービスの購入数や問い合わせ数、資料請求数など多岐にわたる。KPIはPV数やECサイト内の回遊率、特定ページの閲覧数、訪問者数などの指標が挙げられる。ただし、KPIは必ずしもKGIと因果関係があるとは限らないため、定期的な検証の中でKPIを見直していくことも重要だ。

2.BtoBの指標例


セミナーやウェビナーの場合、KGIは参加者数やリード獲得数、受注数、受注金額などの指標が使用されることが多い。一方KPIは申込者数やアンケート回答数、アポイント獲得数、商談化率などの指標が挙げられる。これらの内容はセミナーやウェビナーを開催する目的によっても変わってくるため、自社の目的に応じた適切な指標を設定しよう。

KGI・KPIの設定を成功させるためのポイント


デジタルマーケティングにおいてKGIやKPIの設定・運用を行う際、どのような点に留意すべきなのだろうか。特に気を付けるべきポイントを見ていこう。

1.現実的な数値を設定する


KGI・KPIともに、達成できる範囲の現実的な数値を設定することも成功の秘訣だ。高すぎる目標は仮に達成できたとしても継続性に欠け、従業員の意欲低下にもつながるため、自社の現状をしっかりと踏まえたうえで達成可能な数値を設定するようにしよう。適切なKPIは適切なKGIが前提となるので、KGIの設定は特に重要である。現実的な目標設定は成功を掴みやすいだけでなく、それらの情報を部門関係なく共有することで従業員の意欲向上にもつながるというメリットがある。

2.SMARTの法則を活用する


KGI・KPIで現実的な目標を設定するには、「SMARTの法則」を活用するのがおすすめだ。SMARTは「Specific(具体性がある)」「Measurable(計測可能である)」「Achievable(達成可能である)」「Relevant(関連性がある)」「Time-bound(期限が明確である)」の頭文字を取ったもので、適切な目標設定のために有効な方法である。KGI・KPIを設定する際には、これら5つの要素をすべてクリアできているかどうかを必ず確認しよう。

3.定期的にKPIの検証・見直しを行う


まず前提にあるのは、運用時にKPIは自由度をもたせるべきという考え方だ。施策のゴールとなるKGIは、設定時からしっかりと固定していくべきもので、ころころと変更すべきものではない。一方KPIは、運用してみたら間違えた指標を設定してしまったことに気が付いた、当初は気付かなかった重要な指標があった、など運用時に見直しを入れていくべきものだ。そのため、KPIの設定時にも、ある程度そのような視点を加味しながら設定し、合意形成をしていくことが重要だ。

顧客実感の重要性


デジタルマーケティングにおける起こりがちな問題として、KPIだけに注目した施策単位での判断が行き過ぎ、結局KPIの成果と事業の成長が比例しないというケースが挙げられる。たとえば、ある調査ではインターネット広告を意識して見るユーザーは1割しかいないというデータが出ているにもかかわらず、リーチやインプレッションをKPIに設定してしまった場合だ。結局、企業はこの1割の顧客しかターゲットにできていないということになり、新規開拓や継続利用につなげられず、顧客開拓が枯渇してしまうといったケースがある。これは単一のデータのみでやりくりすることによって起きがちな問題の代表的なもの。複数のデータを掛け合わせることで顧客の実態をより実感することができれば、こうした問題は避けられるだろう。また、KGIは「顧客体験価値の向上によるLTVの向上」としたはずが、KPIのみを意識してしまった失敗例としてよくあるものも挙げておきたい。とある自社会員へウェブ会員切り替えを促進する施策を実施したところ、多くの反応を得られのだが、実は切り替え促進のために付けたインセンティブに反応しただけの顧客であり、顧客体験価値を評価した会員ではなかったため、LTVは低かったとする。この場合、会員切り替え促進という施策そのものについては、施策のCVRを見るだけでは「多くの反応」があったと評価してしまいがちだが、結局KGIは達成できていない。複数のデータ(この場合は実購買データと施策結果データ)を組み合わせることで顧客の実態を実感していれば、KGI視点での失敗だと気付くことができるだろう。この2つの事例は、いずれも偏ったデータのみに注目してしまったことで起こる問題である。KPIの落とし穴は、全てが数値化されてしまうことで、顧客の顔が見えにくくなること。こうした問題を防ぐためにも、「顧客実感」の重要性に注目していきたい。
そこでまずは、施策の効果として、経験価値の見える化を行う必要があるだろう。



たとえば、単発の施策で効果との関連性も見えやすく、見える化しやすい施策の例として「セール」「クーポン配信」「ポイント還元」などがあり、経験価値は「お得」である。「最適レコメンド」「Web接客」「LPパーソナライズ」といった施策の経験価値は「便利」で、こちらも見える化が比較的容易である。複数の施策を組み合わせることが多く、効果との関連性が見えにくい「ブログ」や「イベント招待」の経験価値は「楽しい」となる。「トライアル/返品保証」「クチコミ/評価」「タイアップ記事」等の施策の経験価値は「安心」である。また、事業者の意図を超えて、効果が拡散する「戦略PR」「コミュニティ活動」の経験価値は「共感」であるが、この見える化の難易度は高い。また、KPIでは顧客が平均化されてしまうため、顧客の主観的・個人的な経験価値を捉えきれないというデメリットがある。たとえば、KPIの数字ばかりを追い求める切り口では、「シナリオ通りの顧客」の経験価値は捉えられるものの、「シナリオから離脱した顧客」「突然現れ消えた顧客」「突然現れた購買客」の経験価値は捉えきれない。一方で、経験や実感を伴った切り口であれば、多くの顧客の経験価値を捉えることが可能になると考えられる。



そこで、顧客の見え方を切り替える「顧客実感」の発想がやはり必要となってくるのだ。具体的には、単一のデータではなく、複数のデータをかけ合わせることで顧客をより実感するということ。前述のような問題を避けるためにも、ここからは、見直すべき4つの切り口を掘り下げてみよう。

1.解像度の見直し


まずは「解像度の見直し」だ。KPI発想における「セグメント単位」「ファネル」は、顧客を実感できる発想に切り替えると「顧客単位」「行動ステップ」に相当する。

2.分析対象の見直し


次に「分析対象の見直し」を行う。KPI発想における「基本属性」「単発での行動」「購買履歴」は、顧客実感発想に切り替えると「属性/行動の組合せ」「一連の行動」「個客の声」に相当する。

3.時間軸の見直し


そして「時間軸の見直し」を行う。KPI発想における「週次/月次での報告」「事業者目線での集計スパン」は、顧客実感発想に切り替えると「リアルタイムでの共有」「個客の体感時間」に相当する。

4.ビジュアルの見直し


最後に「ビジュアルの見直し」だ。KPI発想における「数値」「表/グラフ」「紙/PC」は、顧客実感発想に置き換えると「ビジュアル」「動画」「サイネージ」に相当する。

顧客実感を伴ったKGI・KPIの運用方法


複数の多面的なデータを取り扱うことで顧客実感につながるという話は先に述べたが、実際に「実感」するにはどうしたらいいのだろうか?まず、「KPIツリー」の作成は基本である。KPIに設定した理由や具体例を、顧客視点で盛り込み、補足していくことで、顧客の現状が見えてくるだろう。こうした複数の顧客情報を取り扱うには、CRM(顧客管理ツール)が便利だ。CRMの活用によって顧客の多面的なデータを統一することで、顧客実感の伴ったKGI・KPIの運用が可能になるだろう。繰り返すようだが、「顧客実感」は、KPIを断面で捉えるのではなく、KPIを入り口に過去の動きを深く掘り下げ、場合によっては1人の顧客に絞って施策実施前の背景を遡ってみたり、データを掛け合わせたりすることで得られる“気付き”である。前項の事例のような、断面的なKPIの成績が良くてもKGIへの寄与度が低い(またはその逆)といった、単純なデータ集計では得られない“気付き(実感)”が、企業のマーケティングを推進するために非常に重要なのだ。

最後に


デジタルマーケティングでは顧客の情報量が多く、そのデータ量に翻弄されてしまうことも少なくない。データというのは実に信用しやすいものであるが、さまざまなデータがあるように、顧客も十人十色ということを常に念頭に置いておこう。BtoCやBtoBなどの業態や目的によっても設定すべきKPIは違ってくるため、やみくもにKPIを設定するのではなく、顧客実感を得るための具体的な戦略を立てることが大切なのである。

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