今さら聞けない「RFM分析」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識
- Writer:
- 山崎雄司
顧客分析のなかでも特に有名な手法の一つである「RFM分析」。実際にこの手法をマーケティングに利用している企業も多いだろう。しかし、その分析結果を、果たしてどのくらい有効に使えているだろうか。今回は、そもそもRFM分析とは何かをおさらいし、実際にどのように利用すべきなのか、注意点も含めその有効な活用法を考えていきたい。
RFM分析とは
顧客データ分析の基本でありながら、優良顧客の抽出および育成に効果的な手法の一つといわれているRFM分析。顧客の購買行動の傾向に合わせた施策を実施し、LTV(顧客生涯価値)の最大化を図るために使われるものである。
RFMは「Recently」「Frequency」「Monetary」という3つの指標の頭文字であり、それぞれ次のような意味を持っている。
Recency(直近購買日):
顧客が最後に商品を購入した日からどのくらい経過しているかを示す指標。R30であれば最後の購入から30日経過していることを表し、直近購買日が近いほどその顧客を高く評価する。
Frequency(購入頻度):
顧客が購入した回数を示す指標。F3であれば3回の購入があったことを表し、購入回数が多いほどその顧客を高く評価する。
Monetary(購入金額):
顧客が購入した金額の累計を示す指標。購入金額が大きいほどその顧客を高く評価する。
3種類の数値が全て高水準にある顧客を優良顧客とする以外にも、例えばFとMの数値が高くRの数値が低い顧客であれば、もとは優良顧客だったがなんらかの理由で離反している、のように分析することができる。
RFM分析のメリット
RFM分析を行う代表的なメリットには、次のようなものがある。
1.顧客の属性ごとに適切なアプローチができる
RFM分析では3種類の指標を用いて顧客をランク分けするので、顧客の状態や属性に合わせた適切なアプローチができるようになる。一言で顧客といっても、例えば安定顧客と離反顧客では取るべきアプローチも変わってくる。分析結果はもちろん、その裏側にある顧客の心理も考慮して施策に落とし込むようにしたい。
2.マーケティング施策の費用対効果が向上する
顧客ランクごとの傾向を把握できるので、マーケティング施策の費用対効果が向上する点もメリットだ。例えば「優良顧客になる見込みのあるグループに対して施策を打ちたい」のように分析結果をもとに具体的なイメージを持てるため、効果的な施策へと結びつけやすく、マーケティングの無駄を省けるようになる。
RFM分析の進め方
それでは、RFM分析の進め方を具体的に見ていこう。
まず、「Recency(直近購買日)」「Frequency(購入頻度)」「Monetary(購入金額)」の3つの指標で顧客を選別、ランク分けし分析する。選別条件に「直近購買日」があるところがポイントで、たとえば、過去に一度だけ高額商品を購入した休眠顧客と、少額商品のリピーターになったばかりの顧客をグルーピングするなど、活用方法は商品ラインナップによっても様々だ。グルーピングでは、自社の顧客データや購入履歴をもとに優良顧客、新規顧客、安定顧客、離反顧客などに区分するのが一般的。これらが、各顧客層に対して適切な施策を打つための判断基準となるのである。下図を見てみよう。横軸にF(購入頻度)、縦軸にR(最新購入日)が設定されているため、たとえばR30:F5は“直近30日で最も購入回数が多い顧客”、R360:F1は“最も長い間購入がなく頻度も少ない顧客”となる。こうして抽出されたデータをもとに、“購入頻度が高かったが最近の利用がない顧客”(R90、R120のF5やF4)に対しては、再度利用を促すクーポンやキャンペーンメールを送るなどの効果的な対策を打つことができるというわけだ。
(参考:顧客を知り成果を上げるための顧客分析入門)
RFM分析の具体的な施策
次に、RFM分析の結果をもとに各顧客グループに応じた施策を打つ際の、簡単な例を見ていこう。
たとえば、「最近複数回続けて購入してくれたお客様で、1回の購入金額がさほど高くない」といった層の顧客にはアップセルを、「購入頻度も高く、金額も高額なのだが最終購買日が3ヶ月前」という場合は、競合店に流れている可能性を視野に入れて再度来店を促すキャンペーンを打つなどの施策が考えられる。つまり、RFM分析を活用すれば、それぞれの顧客層に“刺さる”施策を打つことができるというわけだ。RFM分析を活用した戦略例も考えてみよう。たとえば、分析結果から「新規顧客から常連客を増やす施策を強化すべき」と判断したとする。その場合、ごく最近商品を購入した「新規顧客層」に対してアンケートを実施し、その要望にできる限り対応するという行動をとることができるだろう。あるいは、「常連客を離さないような施策を」と判断すれば、常連客層の囲い込みを強化する施策を打つことができる。RFM分析を使うことで、適切なタイミングでポイントメールを送信したり、誕生日クーポンを送ったりといった、最適な戦略を考えることができるのである。
RFM分析に潜むキケンな落とし穴
続いて、分析結果を活用する際に注意すべきポイントを確認していこう。
1.目的を見失う
RFM分析で分析結果を出してみたものの、分析結果を確認して満足し、そこでおしまい、ということは往々にして起こり得ることである。そこで終わらせないためには、何のための分析かということを常に思い出すことが肝心。分析することが目的ではなく、分析はあくまでも手段であることを担当者全員で随時認識しよう。あくまで「PDCAを回し続けていくこと」を前提にした分析に取り組むべきなのである。
2.同じ人ばかりに施策が集中する
いくら分析でターゲット層が明らかになったところで、彼らにDM送付やポイント付与、キャンペーンなどの案内を立て続けに送るとどうなるだろうか。あまりのアプローチの多さや、無神経さに嫌気がさしてしまい、いつの間にか自社から離れてしまう、という逆の効果を生む恐れも考慮したいところである。また、優良顧客に偏った施策ばかりで、その他の層への対応がおろそかになってしまうというケースも。過去にたくさん購入してくれた顧客や、購入額は少ないが来店頻度が高い顧客など、あらゆる層との接点を自ら捨ててしまうのは、もったいないことである。将来的に優良顧客へシフトする可能性のある顧客を取りこぼしてしまうことは、長い目で見ても大きな機会損失になりかねない。CRMのあるべき姿「顧客本位のマネジメント」を実現するためにも、顧客への施策は幅広く行いたいもの。優良顧客や安定顧客だけでなく、新規顧客や休眠予備軍といわれる「最近購入履歴がないお客様」にもそれぞれ最適化した施策を打ち、優良化に寄せていきたい。
RFM分析で忘れてはならないポイントとは
では逆に、RFM分析を行う上で、外すことが出来ない大切なポイントはどのようなものだろうか。
1つめは、「分析結果をどう評価するのか」ということだ。毎月5,000円購入する顧客と半年に一度5万円購入する顧客のどちらを優良顧客とするかは、その事業者それぞれのビジネスモデルやキャッシュフローで変わってくるのが当然である。つまり、最終的には「自分たちにとっての優良顧客」をしっかりと自社で定義づけることが必要なのだ。2つめは、「ペルソナを設定する」ことだ。ペルソナとは、顧客の具体的で詳細なプロフィールのこと。生い立ちから生活環境、収入、消費性向、趣味嗜好、ライフスタイル、価値観、人生のゴール設定など幅広い定性データを当てはめることで「人物像」を明らかにし、顧客心理の理解を深めたい。顧客についてより深く知ろうとするのは、基本中の基本。RFM分析はそのためのマーケティング手法であり、分析ツールであるということを、いつも念頭に置いておきたいものである。「他の会社はどうやっているのか」「成功への王道パターンはないのか」と、成功事例からノウハウを学びとる姿勢も大切だが、他社と自社の顧客は必ずしも一致しないことを覚えておきたい。まずは自社の顧客とじっくり向き合うことが最優先となるであろう。
RFM分析をさらに活用するために
RFM分析では多くのデータを扱うので、時間や手間などのコストがかかりやすいという一面がある。効率的に分析を行っていくためには、CRMツールやMAツールを活用するのがよいだろう。顧客データの統合が必要になる場合もあるので、CRMツールを活用して顧客情報を一元管理し、システム化するのもひとつの手だ。MAツールを活用すれば、見込み顧客を獲得するためのアプローチを設定しておくことで、顧客の属性に合わせたマーケティングを自動化できる。機能はツールによっても差異があるため、自社の目的に合ったものを選定しよう。また、専門家によるサポートやコンサルティングの導入を検討するのもお勧めだ。
まとめ
RFM分析についてご理解いただけただろうか。企業それぞれの顧客はまさに多種多様であり、同時に、さまざまな有効な顧客アプローチが存在する。RFM分析を利用する際は、その本来の目的を忘れることなく、分析データをそれぞれの顧客に対して適格に活用していきたいものである。