観光業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは?現状の課題と活用事例


Writer:
山崎雄司
  • facebook
  • Twitter
  • LINE

さまざまな分野においてデジタル技術の導入やDX(Digital Transformation)が進められている。そこで今回は、観光業界におけるDXの推進状況から、今後の課題、国内でのDX成功事例まで幅広く解説していく。

参考:ホテル業界のDX推進方法~現状の課題と解決策~

デジタル化が進み、観光業界にも変革が求められている


新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う行動制限や海外への渡航制限が強いられるなか、観光業界では、オンライン観光の普及など新たなコンテンツの創出や体験価値の提供が今まで以上に求められている。
そこで観光庁は、令和3年度から観光分野におけるDX(観光DX)を推進する政策を主導。観光DXとは、業務のデジタル化による業務フローの改善だけでなく、デジタル技術とデータを用いて新たなビジネスモデルを創出し、旅行者の利便性および生産性の向上を目指す取り組みを指す。また、同庁は「Society5.0」(仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムによって開かれる未来社会)に向けたDXの取り組みも推進しているため、「withコロナ時代」における新たな地域観光モデルを構築すべく、観光地経営の改善を図ることが重要となっている。

観光業界でDXが浸透しにくい理由


令和4年5月に独立行政法人中小企業基盤整備機構が公表した「中小企業のDX推進に関する調査」によると、コロナ禍でのDX進捗状況について「進捗が遅れている」と回答したサービス業(宿泊・飲食業)の企業は37.5%という結果に。他業種と比較すると、やや多い傾向だ。
DXが進まない理由は、人材不足や予算不足、知見者がいないこと、デジタル戦略の具体的な効果が見えてこないことなどが挙げられるという。
こうした課題が見えてきたなかで観光庁 が注力しているのが、「地域のCRMCustomer Relationship Management/顧客関係管理)」によるマーケティング力の強化である。これは、地域に訪れた顧客の年齢や性別、行動などを把握し、顧客一人ひとりに適したサービスや情報の提供を行うというもの。今後はさまざまな技術と観光資源とを掛け合わせて、顧客の体験価値を向上させる取り組みを実施していくことが求められるため、観光地側もDXにおける課題の解決に早急に取り組まなければならない状況だ。補助金を充実させるだけでなく、デジタル技術やマーケティング人材の確保、知見向上のための具体的なアプローチが必要になっている。

観光業界がDXに取り組むことのメリット


観光業界におけるDXの推進は、企業に以下のようなメリットをもたらす。

1.業務効率化

チャットボットや自動対応ツールの導入により、労力や人的コストの削減と同時に業務効率化を図れる。また、手動での対応が減るため、人為的なミスが防止できる。

2.利便性の向上

外国人観光客への対応にアプリやチャットボットを活用する、オンラインで24時間予約可能にする、電子決済を充実させるなど、利用者とサービス提供側双方にとっての利便性が向上する。

3.新たな顧客体験の提供

リモート観光(オンラインでのツアーや宿泊体験、アクティビティなど) や、顧客一人ひとりの嗜好に合わせた最適な旅行先についてAIを活用して提案するなど、今までにはない新たなコンテンツの創造によって、新しい顧客体験の提供が可能となる。

4.デジタル技術の活用によって可能となるサービス

観光DXで活用できる技術には、5G、Wi-Fi、IoT、位置情報、生体認証、仮想現実・拡張現実、人口知能(AI)、ロボット技術、ビッグデータ、自動運転などが挙げられる。これらの技術を活用し、観光資源にさらなる魅力を付与できるサービスを実現している。以下に具体例を簡単に紹介する。

・専用Webページから誰でも簡単に施設等の利用状況を把握できるようにすることで混雑を回避。
・5GやGPSを活用した、屋外での電動車椅子の自動運転(遠隔サポート)。
・XR(クロスリアリティ/ARやVRなどの空間拡張技術の総称)による観光ガイド支援。
・センサー搭載のIoTレンタルサイクルで、位置情報やバッテリー残量、アクセルやブレーキの使用情報を発信して安全走行をアシスト。

参考:5Gを活用して対話---自動運転車いす体験会 NTTドコモ | Response(response.jp)
注目の「XR」(クロスリアリティ)とは?VR、AR、MRとの違いと最新事例を紹介 | KDDI(time-space.kddi.com)
豊島レンタサイクル | NPO豊島PPプロジェクト(tppp.jp)

国内の観光企業のDX活用事例


神奈川県の鶴巻温泉「陣屋


神奈川県の温泉旅館が開発した独自のDXシステム「陣屋コネクト」は、わずか数年で赤字から黒字へとV字転換した。その主な機能は、車や利用客の入退場を察知するIoTの導入、顧客データから先読みした細やかなおもてなし(空調温度や料理内容など、各業務のデータ化によるペーパーレス、朝礼や夕礼にチャットを導入しリアルタイムで情報共有するなど。また、予約からチェックアウトまでスマホ一つで完了できるようになり、顧客の利便性も向上した。こうした業務効率と顧客満足の両立を実現する取り組みにより、地方創生のモデル事例として、業界だけでなく政府機関も注目している。

参考:クラウド活用による旅館改革への挑戦 | 陣屋(chusho.meti.go.jp)

大阪府和泉市の「和泉市いずみの国観光おもてなし処」


大阪府和泉市(業務委託:南海国際旅行)では、リモート接客システム「えんかくさん」を活用し、観光案内所の無人化を実現。和泉市内にある2つの観光案内所のうち、1つはモニターを設置して無人化。必要に応じて、もう1つの観光案内所にいるスタッフが無人案内所の顧客にリモートで対応する。無人対応であれば、スタッフに待ち構えられている感じにならず、心理的ハードルが下がるため「立ち寄りやすい」という利用者からの声もあり、実際に来所者数はそれまでの2倍に増加したという。

参考:【来所者数2倍】大阪府内観光案内所をリモート接客で無人化 | PRTIMES(prtimes.jp)

奈良県ビジターズビューロー


奈良県観光公式サイト「なら旅ネット」に導入した商品在庫管理システム(TXJ)により、同サイト上で宿泊、飲食、物販、体験コンテンツ等の検索・予約・決済ができるようにした。TXJは、Googleや複数のOTAサイト等と連動した在庫管理システムであるため、地域CRMとしての役割も兼ねている。そのため、収集した利用者の購買データを分析することで再来を促す効果的なマーケティングが可能となり、事業者間連携、地域内周遊、リピーターの獲得など、地域のデジタルマーケティング力の向上につながった。

参考:DMOを中心とした地域マ-ケテイングDX | 奈良県(kansai.meti.go.jp)

観光地・顧客双方にメリットをもたらすDX


新型コロナウイルスの感染拡大により、観光業界は大きな打撃を受けた。一方で、厳しい状況からの脱却を目指すとともに、観光地が抱える課題の解決に向けて、オンライン観光や、デジタル技術を活用した多くの新しい取り組みがなされている。ただDXを推進するだけでなく、目的別に上手く活用することで、利便性向上や業務効率化、顧客満足度向上など、顧客と観光地側双方にとって良い効果が期待できるだろう。

メルマガ登録
  • facebook
  • Twitter
  • LINE