化粧品業界におけるデジタルマーケティングとCRM施策のポイント
- Writer:
- 山崎雄司
顧客満足度を向上させ売上増を目指すCRM(顧客関係管理)は、今やさまざまな業界で使われている経営戦略だ。なかでも化粧品業界は、アパレル業界と並びCRMの活用が重要かつ効果的な業界といわれている。 今回は、化粧品業界におけるCRMの活用事例を紹介しながら、有効なCRM活用方法について考えていきたい。
化粧品業界のCRMを考える上で、まず消費者がどのようなニーズを持っているのかを確認してみよう。
広告プラットフォーム提供を行うTeadsが2019年に「日本を含む世界8カ国にて実施したビューティ&スキンケア消費者の購買行動」に関する研究結果では、消費者の商品選択において影響力のある要因として「肌のタイプへの相性」が最も多く挙げられており、次点が「価格」であったという。
また、化粧品は店頭に試供品が置かれていることも多く、テクスチャーや香り、使用感といった個人的な好みや、商品との相性を購入前に直接確かめることを希望する顧客が多い傾向にある。そのため、店頭での購入決定が依然として一定の割合を占めていると考えられる。
化粧品業界におけるデジタルマーケティング
店頭での購入を希望する顧客が多い一方で、新たな商品を見つけるための情報収集にはインターネットを利用するケースも増えている。InstagramやYouTube、口コミサイトなどから商品のことを知り、そのブランドのウェブサイトへアクセスする消費者も数年前に比べて格段に増えていると言われている。コロナ禍になり、インターネットにおけるタッチポイントも、オフライン同様に重要性を増してきているのだ。
さらに、店頭テスターの撤去やPRイベントの中止などが続いたことも重なり、オンライン活用のニーズが高まっている。そのため、今後、美容業界のオンライン活用は、ますます拡大していくことが予想される。
特にオンラインで化粧品を販売する際は、多様化する顧客ニーズに対応し、オフラインと同様に個別化された顧客体験を提供する必要がある。化粧品ECプラットフォームを提供するNOINの調査によると、若年層では商品購入までの意思決定にかける時間(リードタイム)が長くなっており、類似商品の比較によって購入意思が変動しやすいという傾向がある。つまり、SNS等でインフルエンサーに商品を紹介してもらうだけでは、購入に直結しなくなっているということだ。
最近では、化粧品業界でのオンライン販売を支援するプランを提供する企業も出てきている。オンライン販売を成功させるためには、顧客分析を行い、顧客一人ひとりに合わせた最適なコンテンツを提供することが大切なのである。
化粧品業界におけるCRM
顧客一人ひとりに合わせた最適なアプローチが重要になってきている化粧品業界では、CRMを活用したマーケティング施策が重要かつ効果的である。顧客が購入した商品から個人の趣向を分析、セグメントしたり、顧客属性を分けて商品の売り上げなどとの相関関係を分析したりすることで、そのデータを商品開発に活かすことも可能だ。また、SNSやオウンドメディア上のチャットボットや、ステップメールの最適化などにより、顧客に最適なタイミングで最適な商品をレコメンドすることで、リピーターを増やすことにもつながるだろう。
化粧品業界におけるCRM実例と具代的改善ポイント
それでは、具体的に化粧品業界におけるCRMの実例と改善点のポイントを具体的に見ていこう。
1.メール配信タイミングのチューニング
従来のメール配信のトリガーは「出荷日」を基準としており、出荷日からの経過日数でメール配信を行っていた。しかし、実際は同じ出荷日でも商品が届くタイミングが顧客によって異なるため、顧客目線で見ると、受け取ってからの日数が異なる状態でメール配信が行われてしまっていた。
改善点1「メール配信タイミングの修正」
メール配信のトリガーを「出荷日」から「配送完了日」へ変更することで、顧客一人ひとりに対し、より最適なタイミングで配信できるようにチューニングを行った。
「出荷日」をトリガーとした配信を“企業起点”と捉えると、「配達完了日」をトリガーとした配信は“顧客起点”である。企業起点から顧客起点へシフトすることで、顧客の状態が統一された状態でのメール配信が可能となった。
2.メールタイトル・コンテンツのチューニング
1通目のメールは顧客の今後の購買行動に大きく影響するため、開封されやすく読まれやすいコンテンツにする必要がある。具体的には、メールのタイトルやメールの文字数を調節することによって、開封率をアップさせる。
改善点2「メールタイトルの修正」
【フォローメール1通目】
変更前:〇〇様へ。みんなの疑問に答えます。□□□のQ&A
変更後:〇〇様へ。□□□のお申込み、ありがとうございます。
上記のように、ステップメール1通目で件名を変更したことで、開封率が45%から60%にアップした。
改善点3「文章量の修正・訴求ポイントの明確化」
開封されやすく読まれやすいタイトルを設定したあとは、それに続くメール本文の内容もブラッシュアップしたい。
読みやすい文章やボリュームを心掛け、訴求ポイントを明確にすることが大切である。
3.アンケートによるシナリオ分岐
アンケート回答によるメール配信を行う際には、シナリオ分岐を行うことで開封率の向上を狙うことができる。自社商品に関心のある顧客を手放さないためにも、シナリオ分岐を行い、顧客一人ひとりに最適化されたメール配信を行う必要がある。
改善点4「アンケート回答によるシナリオ分岐」
初回お試し限定品などの、いわゆる消費者を惹き付けるための“入口商品”を購入した直後にアンケートを実施。回答内容から細分化し、配達完了日の10日後に、顧客に合わせて最適化されたコンテンツを配信した。
すると、変更前(細分化なし)では開封率52%だったものが、変更後は(未回答グループを除き)開封率がアップ。回答Aは71%、回答Bは63%、回答Cは68%となり、アンケート未回答グループの開封率は47%であった。
化粧品業界こそ個別化したアプローチを
化粧品業界でも、他業界と同様にオンラインを用いたデジタルマーケティングの重要性が高まっている。コロナ禍における非来店型購入のニーズの増加に伴い、オンラインでの販売は、さらなる拡大が予測されるだろう。商品の宣伝は他業界と同じように動画広告やSNSが用いられているが、化粧品の場合は肌のタイプとの相性が購買行動に大きな影響を与えているため、より個別化したアプローチが求められる。オンラインで化粧品を取り扱う際には、より顧客一人ひとりに合わせた購入体験を提供していく必要があるだろう。