D2Cとは?意味や従来のビジネスモデルとの違い、背景、成功事例


Writer:
山崎雄司
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D2Cとは、「Direct to Consumer」の略称であり、メーカーが自社で企画・製造した商品を広告代理店や小売店などの中間業者を挟まずに、ECサイトなどの自社チャネルで直接販売するビジネスモデルのことを指す。「DtoC」と表記されることもある。

従来のビジネスモデルとの違い

従来は、企業が自社製品を企画・開発・製造した後、卸売業者や小売店、代理店などを通して販売する流れが一般的であった。一方で、D2Cは自社で企画から販売まで一貫して行うビジネスモデル。2010年頃にアメリカで広がりはじめ、最近では日本でも採用する企業が増えている。なかでも、よりパーソナライズされた商品やサービスが求められるアパレル業界や化粧品メーカーなどでD2Cが多く採用される傾向にある。

D2Cが注目されている社会背景


D2Cが注目されている社会背景には、以下のような要因がある。

スマートフォンの普及

スマートフォンやタブレットが普及し、人々はインターネットやSNSに多く触れるようになった。企業は自社の公式サイトやSNSアカウントでコンテンツを自由に配信することが容易になり、消費者とダイレクトにつながる機会が急増。フォロワーと直接的なコミュニケーションが活発になることで、D2C成功の可能性が広がっている。

消費者の購買行動や価値観が変化 

モノがあふれる現代において、消費者の価値観は、モノを購入し所有することから、コト(体験)を重視する方向へと変化している。 ここでもSNSの影響は大きく、消費者はSNSを通して商品の使用感や、購入品を通して仲間と楽しい時間をシェアしている様子などを発信。「自分も同じような体験をしてみたい」と思うユーザーが増え、実際の購買につながるケースが増えてきている。 D2Cでは企業があらゆる顧客接点において自由にマーケティング施策を展開することができるため、消費者に対し、商品を手に入れること以上の豊かな体験や満足感の提供が可能となる。

製造ツールの技術が発展

製造に関するツールの技術が向上し、少量生産が可能となったことも、D2Cが注目される要因の一つになっている。3DCADや3Dプリンターの活用によって、商品を自社で、かつ低コストで製作できるように。従来の、「小ロットの製造発注が難しい」「設備投資に莫大なコストがかかる」といった問題が緩和されたことで、企業規模を問わず自社製品の製造に取り組みやすい環境ができつつある。

D2Cに紐づくワードと相違点


B2C 

B2Cとは「Business to Consumer」の略称で、企業が消費者に対して商品・サービスを販売するビジネスモデルのこと。企業と消費者の取引という点では、D2CはB2Cの一環と捉えることもできる。だが、B2Cでは製造者と消費者の間に中間業者が介在する一方で、D2C では中間業者なしで製造者から消費者へ直接販売する点に違いがある。

SPA  

SPAとは「Specialty store retailer of Private label Apparel」の略称で、「製造小売業」などと訳される。アパレル業界で生まれたビジネスモデルで、商品の企画から製造、販売までを独自に垂直統合して行う 小売業態を指す。 日本を代表するSPAブランドは、ユニクロ やニトリ など。中間業者を介さずに商品を販売する点はD2Cと類似しているが、消費者に対するアプローチが異なる。D2Cでは、消費者と直接つながることで自社ブランドの世界観やストーリーを消費者と共有することを重視している一方、SPAは消費者のニーズやトレンドをいち早く取り入れて形にするという効率重視型のビジネスモデルである。

EC/ECサイト

ECとは「Electronic Commerce」の略称で、「電子商取引」などと訳される。ECサイトとは、ネット通販やオンラインショップなどのように、有形無形を問わず商品やサービスを販売する専用サイトのこと。ECは商品やサービスの取引形態を指すものであり、D2Cのビジネスモデルにおいて、自社で企画・製造した商品の直接販売を行う際に利用する手段の一つがECサイトである。

D2Cのメリット


D2Cのメリットを4点に絞って紹介する。

中間業者を介さない分のコストカットが可能 

D2Cは中間業者を介さないため、その分のコストを商品の開発や改善に充てることができる。たとえばAmazonや楽天市場などのECモールに出店する場合は手数料がかかるが、D2Cでは企画から販売までを自社で行い、ECサイトも自社で運営するため、手数料等は削減できる。

顧客情報を包括的に収集できる

すべての工程を自社で一貫して行うため、多くの顧客データを統合・管理しやすい。自社サイトを訪問したユーザーの行動履歴など、さまざまな情報を自社で収集し分析することで、PDCAを素早く回すことができ、顧客一人ひとりの好みに合わせた商品の開発やマーケティング施策を展開できる。

多様化する顧客ニーズを把握しやすい

D2Cでは、たとえばSNSで自社のコンセプトを発信し、ダイレクトに顧客とやり取りするなど、双方向でのコミュニケーションが可能に。自社が提供したい価値を表明しつつ顧客のニーズを探り、商品に反映したり改善に役立てたりすることができる。

柔軟性のあるマーケティング戦略がしやすい 

中間業者にあたる小売店などの事情や制約に影響されることがないため、販売方法の自由度が高く、より顧客と近い距離でのマーケティングやキャンペーンを展開できる。その結果、消費者との親密な関係性を構築でき、顧客満足度向上が期待できるうえ、リピーターの獲得にもつなげやすい。

D2Cのデメリット


上記のようなメリットがある一方で、デメリットも指摘されている。注意すべき点を3つ紹介する。

初期コストがかさむ可能性がある 

中間業者を介さない分のコスト削減をメリットとして挙げたが、自社ECの立ち上げの際には、サイトの構築やサポート体制、流通の確保などの初期コストがかかる。特に、本格的な機能を備えたい場合は初期投資が高額になる場合もあるため、事前の検討を慎重に行う必要がある。

売り上げが安定するまで時間がかかる 

大手ECモールで出店する場合は、モール自体の集客力を利用できるが、D2Cの場合は自社及び商品の認知度を上げる期間が必要であり、売り上げが安定するまでに時間を要する。特に、競合他社が多い場合は、自社商品を選んでもらうことがより難しくなるだろう。ブログや動画、SNSといったコンテンツを活用するなど、広く消費者にアピールして見込み顧客を獲得し、中長期的な視点で徐々にブランド力を向上させていくことが重要になる。

信頼関係の構築が難しい  

基本的にオンラインですべて完結するため、商品に実際に触れて確認することができず、商品そのものの価値やブランドの信頼性が伝わりにくい。顧客との信頼関係を築くべく、見込み顧客の質問に自動応答できるシステムの導入や、返品保証を手厚くするなどの施策が必要となる。

D2Cを成功させるポイント


ターゲティングとブランディング

D2Cでは、明確なターゲティングとブランディングが欠かせない。特にD2Cにおいてはブランドの世界観やストーリーを伝えることが重要となるため、まずは市場における自社の立ち位置と強みを理解したうえで、自社商品の活用方法から顧客ニーズ(体験価値)を把握する。それを基に一貫したブランドイメージの構築を行い、SNS等でその世界観を発信することで効果的なブランディングにつながる。

オンライン購入に適した商材を扱う

基本的に自社ECを使って販売するため、ECサイトで購入しやすいサプリメントや健康食品、化粧品などの商材がD2Cに向くといわれている。サブスクリプションとの相性も良いだろう。また、ECサイトでの購入に馴染みのあるカメラやオーディオ製品などの一部の家電製品や、アパレル商材も適している。一方で、賞味期限の短い生鮮食品や、単価が安く手に入れやすい消耗品は一般的に不向きであることが多い。

集客ノウハウとウェブマーケティングを習得する  

D2CではECでの販売が中心となるため、ウェブマーケティングの知識が売り上げに直結する。そのため、ウェブ広告やメルマガ、SNS等を用いた集客ノウハウなど、効果的なマーケティングを習得する必要がある。

顧客の声を聞き、ニーズを把握する

D2Cは、顧客からのフィードバックを得やすい特徴がある。商品のリリース後は、顧客レビューやSNSでの反響などを随時確認し、改善につなげることでPDCAサイクルを素早く回すことができる。

SNSを有効活用する 

自社商品やブランドイメージを伝えたり、消費者の率直な意見を聞いたりする場として、無料で利用できるSNSは非常に有効だ。前述の通り、D2C事業はSNSとの相性が良く、コアなファンを獲得するためにもSNSの活用は欠かせない。さまざまな価値観を持つ顧客から多角的な意見を収集することで、課題への気づきや、見逃していたニーズを知るチャンスとなる。

D2Cの成功事例


D2C事業の成功事例を3つ紹介する。

アメリカ発アイウェアブランドの場合  

アメリカのとある学生たちが立ち上げたアイウェアブランドでは、製造や販売を担う中間業者を介さずに、当初からD2C事業としてスタート。InstagramなどのSNSやオウンドメディアを通して、創業ストーリーや眼鏡を取り巻くライフスタイルをブランドイメージとして伝えるほか、眼鏡の寄付などの社会貢献活動にも力を入れることで多くのファンを獲得している。

老舗革製品専門店の場合

高品質な皮素材の鞄を手仕事で製作し販売する老舗ブランドでは、オウンドメディアやFacebook、Instagramなどを通して一貫したブランドイメージを発信している。ECツールの導入や、社内スタッフのデジタルマーケティング知識の強化などを行い、自社内で多くの施策や開発ができる体制を構築した。その結果、より一層ブランディングに注力できるようになり、幅広い顧客層の獲得に成功している。

メンズコスメブランドの場合  

D2C事業として急成長を遂げている某メンズコスメブランドは、ニッチな業界で圧倒的な存在感を放っている。ECでのサブスクリプションサービスに力を入れ、デジタル広告を駆使した戦略的なPRによって認知度向上を図ってきた。また、商品パッケージをはじめ、オウンドメディア、SNS、広告モデルに至るまで一貫した世界観を持たせることで、効果的なブランディングにつながっている。

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