今さら聞けない「PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクル」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識


Writer:
山崎雄司
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仕事をしているとあらゆる場面で「PDCAサイクル」という言葉を聞く。そのため、多くの人にとって、あまり居心地の良い言葉ではないかもしれない。しかしこの「PDCAサイクル」は深く理解すればするほど、多くのことを学ぶことが出来る。今回は「PDCAサイクル」の基礎に加え、企業内でのマーケティング施策における、それぞれの立場の違いによる3パターンの「PDCAサイクル」について考えていく。

PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルとは


PDCAサイクルとは「Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)」の頭文字を取った略語で、このサイクルを繰り返すことで継続的な業務改善や効率化を目指すものである。1950年代にアメリカの統計学者ウィリアム・エドワーズ・デミングの講演をもとに提唱され、日本では1990代後半からビジネスシーンで用いられるようになった。PDCAサイクルを高速で回すことで目標達成に近づけるため、業務改善や個人の成長を目的として現在でも活用されている定番のマネジメント手法だ。

PDCAサイクルのメリット


PDCAサイクルを取り入れることのメリットは、主に次の3つがある。

目標を明確化できる

PDCAサイクルでは最初に「Plan(計画)」を設定するので、目標やKPIなどを明確にできるのがメリットの1つ。達成するためのアクションプランも併せて計画するため、自分が何を目的にどのようなことに取り組もうとしているのか、具体的なイメージを持てるようになる。

確実な業務改善ができる

PDCAサイクルは本来品質管理や製造工程の改善に使われていたメソッドなので、正しく理解して運用すれば確実に業務改善へとつながる。そのためには、うまくいかない箇所があれば要素ごとに分解して考え、論理的に仮説を立て、螺旋を描くようにPDCAサイクルを回していくことが重要である。

課題を発見しやすくなる

目標を設定し具体的なアクションを起こしていく中で、課題やギャップに気づくことができる点もメリットだ。どこにどのような問題があり、今後どのようにすれば改善できるかをイメージしやすくなるほか、結果が大きく乖離している場合は実現可能な範囲の目標に設定し直すなど、現状を正しく把握することで次のPDCAへとつなげられるようになる。

OODAループ、STPDサイクル、DCAPサイクルとの違い


国際規格であるISOのマネジメントシステムにも取り入れられ、継続的な改善に役立つPDCAサイクルだが、最近ではその派生となるマネジメント手法が複数登場している。例えば、よりスピーディな判断が求められる場合に適したOODAループ、リスクマネジメントを重視する場合に適したSTPDサイクル、PDCAの順序を入れ替え「まず動く」ことから始まるDCAPサイクルなどだ。これらはそれぞれ異なる特徴や適性を持っており、一概にどの手法が優れていると判じることはできない。

また、PDCAサイクルがうまくいかない場合、そもそも正しい理解と運用がされていないことが原因というケースも多い。PDCAサイクル自体にも3つのパターンがあり、担当者の立場の違いによりプロセスごとの内容やゴールは変わってくる。次の項では、それぞれのPCDAサイクルについて具体的な内容を見ていく。

3パターンのPDCAサイクルとは?


マーケティング施策におけるPDCAサイクルは、担当責任者のレベルによって主に3つのパターンに分けることができる。

・CMO・マーケティング担当役員レベルの「全社PDCA」
・マーケティング部長・ブランドマネージャーレベルの「部門PDCA」
・販促およびキャンペーン担当・デジタルチャネル担当レベルの「担当者PDCA」

これらはゴールや課題が異なるため、それぞれの違いを正しく理解し、しっかりと使い分ける必要がある。



 

全社PDCA

全社PDCAは、「四半期単位」で会社マーケ戦略の策定(Plan)、戦略実行(Do)、ROI検証(Check)、見直し(Action)のサイクルを回していくものだ。

CMOやマーケティング担当役員が筆頭となり、マーケ起点でのイノベーションおよび事業成長の促進や、コーポレートプランニング、マーケ予算の配分とROIの最大化をゴールとして施策を練っていく。この全社PDCAは視点が経営者目線であるため、長期的なサイクルになることや、事業や部門単位で戦略を練る必要があることを踏まえておきたい。想定される課題として挙げられるのが、部門単位で個別最適になっているマーケティング戦略からの脱却である。また、具体的な事業や部門内の問題解決のみでなく、戦略実行を担保するガバナンスの整備や、部門間の戦略や事業のROIが効果的であるかどうかの見直しを行っていくことになる。
 

部門PDCA

部門PDCAは、「月単位」でマーケシナリオ構築(Plan)、シナリオ実行(Do)、シナリオズレ検証(Check)、シナリオ修正(Action)のサイクルを回していくものだ。

マーケティング部長やブランドマネージャーを筆頭に、担当商品やサービスの成長促進業務およびブランディング、商品やサービス単位におけるKGIの改善をゴールとした施策を行っていく。想定される課題としては、ペルソナ、カスタマージャーニーにおけるリアリティの不足や、対応シナリオの柔軟性の不足、施策結果を踏まえたシナリオの見直しが考えられる。

ここで、部門PDCAのサイクルの流れについて細かく見ていきたい。



まず、最初は「マーケシナリオ構築」(Plan)を行うが、この段階で“ゴールの設定”“シナリオの設計”“予算策定とKPI設定”を重点的に考えなければならない。

“ゴールの設定”では、検討材料として事業戦略、事業目標、前年度実績を用い、事業責任者やマーケティング部長を中心に検討する。ここで設定されたゴールに向けて、「既存顧客だけでなく新規顧客の開拓に力を入れる」「単価引き上げを考慮に入れたアップセル・クロスセルを行う」といった具体的なアクションが行われる。そのため、実績データからの戦略余地の素早い見極めが鍵となる。また、購買商品・サービスカテゴリーから逆算でのセグメントを行い、属人的な施策発想からの転換によって、自社顧客を具体的にイメージする「顧客実感」をベースとしたプランを確認する。

“シナリオの設計”では、検討材料として既存顧客データ、アンケートおよびインタビュー、他社事例を用い、マーケティング部長を中心に検討する。そして、顧客分析レポートをもとに、「今年のターゲットは週末も働く30代女性」とったターゲットのペルソナを具体的にイメージする。また、インセンティブを加えてリピート率を上げるなど、経験価値のエビデンスを活用して「顧客実感」を確認する。

“予算策定とKPI設計”では、検討材料として過去の予算対比やKPI推移、費用実績一覧を用い、マーケティング部長と分析担当を中心に検討する。マーケティング部長からの分析指示をもとに、分析担当が各データベースを分析し報告するといったアクションが基本となる。ここでは、前提となる顧客の最新数値を正確に把握し、実績データでの予算根拠の明確化を行うことが重要である。

これらのPlanを経て、次のサイクル「シナリオの実行」(Do)へ移行する。具体的には、過去のシナリオや他社事例を材料に、キャンペーン(CPN)プランの検討が行われる。ここでは、シナリオをきちんと踏まえたCPNになっているか、前年度のCPNから何が変わったかなどについて、マーケティング部長とCPN担当との間で説明と修正指示を繰り返すアクションが基本となる。

そして、次のサイクルである「シナリオズレ検証、修正」(Check/Action)を行う。検討材料としてKPIダッシュボードや施策間での比較を用い、マーケティング部長、分析担当、CPN担当を中心に、施策の評価と見直しが行われる。ここでは、シナリオ進捗の確認とフィードバックの即時化が重要である。また、仮説検証の際には顧客単位まで深堀することが大切であり、リアルタイムでの効果の実感や、横比較での組織内議論の活性化によって「顧客実感」を確認する。

以上が部門PDCAのサイクルであるが、このレベルにおいては戦略構想や計画への落としこみに時間を要する傾向にある。計画段階で検討材料を追加し、計画の精密化や検証スピードアップを目指すことで、より効果的なマーケティングが期待できるだろう。

担当者PDCA

担当者PDCAは、「週単位」の短い期間で施策企画(Plan)、施策実施(Do)、施策効果検証(Check)、施策修正(Action)のサイクルを回していく。

販促およびキャンペーン担当やデジタルチャネル担当を筆頭に、個別施策の着実な実施や施策単位のKPIの最大化をゴールとした施策を練っていく。想定される課題として、施策コンセプトの検討材料の不足や、煩雑な実施準備に膨大な時間を要すること、さらには施策を振り返る際のデータ抽出の壁が考えられる。

ここで、担当者PDCAサイクルの流れを細かく見ていこう。



まず「施策企画」(Plan)では、“施策プランの策定”と“ROIの算定”を行う。“施策プランの策定”では、検討材料として施策スケジュール、過去の施策内容、実績データを用い、セグメントや露出先、クリエイティブ、顧客の導線、インセンティブといったさまざまな項目から施策コンセプトを検討する。ここで重要なのは、想定するターゲットを細かく再現し、顧客数に応じたセグメント調整をすることである。また、施策コンセプトのアイデア活性化や、前例踏襲からの脱却を図るなど、「顧客実感」をベースとした施策も検討する。

“ROIの算定”では、検討材料として今年度の予算、施策実績データを用い、効果(リーチ数×CVR×単価)対費用(広告×クリエイティブ×インセンティブ)について検討していく。ここでは、類似施策での効果の参照や、実績からの費用の精緻な算出が大切である。

これらのPlanをもとに、次のサイクル「施策実施」(Do)へ移行する。この段階では“クリエイティブ・露出枠の準備”“セットアップ・実行”を行う。

“クリエイティブ・露出枠の準備”では、検討材料として施策プラン、セグメント抽出軸、ワイヤーフレームを用い、どこのベンダーを使って進めるか、クリエイティブはイメージ通りに仕上がっているかなどについて検討する。マーケターは、デザイナーおよびライター、代理店、システム担当とともに施策を練り、それをマネージャーに提案するというアクションが基本となる。

“セットアップ・実行”では、検討材料として顧客の導線やデザインカンプを用い、マーケターとシステム担当で検討する。具体的には、マーケターがシステム担当にセットアップ依頼書を渡し、システム担当からセットアップの確認をフィードバックするというアクションが基本となる。ここで重要なのは、セグメント抽出をリアルタイムで実行することや、常に鮮度の高いデータを活用すること、検討セグメントをそのままセットアップに活用することである。また、メール配信を自動で最適化するといった施策も効率的・効果的なマーケティングにつながる。

そして、次のサイクル「施策効果検証、修正」(Check/Action)を行う。検討材料に施策の結果データやKPI指標の推移を用い、マーケターと分析担当で振り返りを行うアクションが基本となる。ここでは、細かい粒度でターゲット反応を検証し、報告データの自動抽出とビジュアル化を図ることが重要となる。また、想定ターゲットの変化への気づきや、報告会での議論の活性化を通して「顧客実感」を確認する。

以上が担当者PDCAのサイクルであるが、このレベルにおいては「Do」の実行準備に時間を割かれる傾向にある。データ抽出やセットアップの省力化、ターゲティングの精度向上を目指すことでPDCAを効果的に回すことができ、施策効果の変化への気づきを高めてくれるだろう。
 

PDCAサイクル実施で失敗しないためのポイント


PDCAサイクルの実施は継続的な業務改善や生産性向上のために有用だが、成功させるにはいくつかのポイントがある。

目標設定を具体的にする

目標を設定する際は、数値や指標、期限などを具体的に決めるようにしたい。特に期限と定量目標の2点は、どのPDCAパターンであっても最低限決めておく必要がある。6W2Hのフレームワークに従い、「いつ」「どこで」「誰が」「誰に」「何を」「なぜ」「どのように」「いくらで」の各要素を意識し、目標設定に活かすのも有効だ。

「Plan」に時間をかけすぎない

目標の具体化は必要不可欠だが、必ずしも始めから完璧な計画を立てる必要はない。Planの段階で躓いてしまい次のプロセスに移れず、PDCAサイクルが回らなくなっては本末転倒だからだ。昨今では市場も目まぐるしく変化するので、速やかに次のプロセスに移りその結果を次に活かすことで、スムーズにサイクルを回していくことを心がけよう。

無理のない目標にする

PDCAサイクルの実施において、実現可能な目標を設定することは非常に重要である。無理のある目標では、仮に一度達成できたとしても、その負担から継続が難しくなってしまう。PDCAの目的は目標達成に向けて継続的な改善をしていくことにあるので、高すぎる目標を掲げて計画倒れにならないよう、現実的な目標を設定して改善を着実に重ねていくようにしたい。

PDCAを正しく理解し使い分けることが成功の鍵


本記事ではPDCAの基礎に加え、担当責任者のレベルに応じた3パターンのPDCAサイクルを見てきた。それぞれのサイクルで時間を要する点が異なり、マーケティング施策の効果的な運用のためには、レベルごとに着眼点も異なるということをご理解いただけただろうか。また、部門PDCAや担当者PDCAはサイクル周期が短く、効率的にPDCAサイクルを回していく必要がある。これらの課題を解決してくれるのがCRMやMAだ。CRMやMAは、省力化と精緻さを高めてくれるツールであり、より効率的なPDCAサイクルの運用が期待できる。それぞれのPDCAサイクルの違いを理解したうえでCRM/MAを活用し、デジタルマーケティングの効果の最大化へとつなげたいものである。

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