店舗とオンラインの体験を繋ぐOMOを推進する、釣具のキャスティングの取り組み
- Writer:
- 山崎雄司
大型釣具店「釣具のキャスティング」を全国50店舗以上展開する株式会社ワールドスポーツは、さまざまなメーカーの釣具を店舗とECで販売している。Webサイトでは、釣り船予約サービスや釣り自慢コンテストなど、充実したコンテンツを幅広く展開。リピーターを多く抱えながら、新規顧客層の獲得にも励んできた。2015年頃からは、店舗とECをシームレスに繋げるべく、OMO化にも着手。ECで注文したものを店舗で受け取ることができるなど、オンラインとオフラインの垣根を取り除くといった、OMOの取り組みを推進中だ。 ※OMO:online marges with offlineの略
店頭ではわくわく感を、オンラインでは釣りにまつわる興奮を
釣具のキャスティングは小売り+チェーン店ということで、釣りに行くときのワクワク感を店で感じて欲しいと考え、店内装飾などを考えているという。ただしそれは来店しないと感じることができないため、それに準ずるものをオンラインでも検討してきた。
例えば、すでにコンテンツの1つとして確立されている「キャスティング釣り自慢」は、釣果を周りに自慢しようという企画で、お客様自身の釣り体験を公開記録として残せるものだ。釣りの準備段階としてキャスティングで商品を購入し、釣りに行ったあとはキャスティングのWebサイトに投稿して自慢してもらう。それは「大切なあなたに最高の楽しさを」という同社の理念にも通じる、「釣りという一連の流れの中にキャスティングが入ることができたら」という願いから作られたものだ。
他にも、Instagramにおけるフォトコンテストの開催や20人ほどのコンシェルジュ構想も始める予定だという。さらにコロナ禍が落ち着いたタイミングで、旅行業を取得した従業員が帯同するツアーも始めることが決まっており、幅広い施策を準備・提供中だ。
同社の「キャスティング釣り自慢」のWEBサイト
カスタマーリングス導入前はメール一括送信による無駄が多かった
今ではオフライン、オンライン共に多方向から施策を展開している同社だが、カスタマーリングス導入前の販促は全てのお客様に一括で配信を行い、詳細なデータ分析もほとんどやっていない状態だったと営業部CRM課の坂本氏は話す。
「導入前の販促は新聞の折り込みチラシやDMなどの紙媒体がメインで、店舗がある商圏の住民の方にお配りするだけでした。メール配信も行っていましたが、アドレスを登録してくださったお客様に一斉送信していたため、ブラックバスのルアーのイベント情報を興味がない方にお送りしてしまい、関係ないとお叱りを受けることもありました。お客様情報を活用するには、データを一括管理しているシステム課へ連絡し、基幹データから情報を抽出してもらっていましたが、当時のデータ活用は販促費用を計算するために扱う程度でした」(坂本氏)
「紙媒体による販促は印刷や配送のコストがかさむ割に回収率は低く、DMをきっかけにどのぐらいのお客様に来店いただけたのか、実際にどのぐらい購買につながったのかという正確な反応率を把握できていませんでした。感覚的には効果が出ていると感じていたが、明確な数字を把握することができなかったのです。」(梅村氏)
株式会社ワールドスポーツ 営業部CRM課 梅村氏、坂本氏、伊藤氏
カスタマーリングス導入によるメリットは顧客分析による適材適所の販促
カスタマーリングス導入のきっかけは5年ほど前、ちょうどマーケティングオートメーションという言葉が出始めた頃だった。前述の通り、紙媒体の販促からの脱却をメインに、顧客管理にも注力していくという目的で導入。導入後にまず取り組んだのは、購買履歴の分析からだったと坂本氏は話す。
「これまで肌感でやってきたものが、一気にデータを起点とした業務に切り替わったので大変助かりました。導入前はお客様個人の購買データこそ把握できていたものの、特定商品の販売実績からお客様を割り出すということが非常に難しく、全体の購買履歴や単品販売データを出し、レジデータに紐づく会員ナンバーを抽出して、そこから調べる必要がありました。行動からお客様を抽出するということができていなかったため、詳細を把握できる今の状態は非常に助かっています」(坂本氏)
現在は購買情報を元に、よりお客様にパーソナライズした商品をメールで提案。それまで施策の多くが一斉配信に近い状況だったが、2020年から購買情報を起点に1to1に近づけた形での商品レコメンドメール配信を始めたところ、メールに対する反応が良くなったという。
「これまでは、Aの商品を購入したお客様であればおそらくBの商品を購入するだろうという予測だけでやってきました。ところがカスタマーリングス導入後にデータを見ると、予測通りではないことが多いことに気づかされました。お客様の動きがデータで可視化されたことで、店舗でのノウハウ(経験的予測)とのギャップが分かり、併売品の傾向や併売人数において新たな気づきが得られました。
その気づきからそれぞれのお客様に合わせた配信の重要性を実感したので、今後は施策の種類を増やしたり、内容のブラッシュアップを進めて行きたいですね。カスタマーリングス導入前までは、ECで確信を持って類似商品をレコメンドすることが難しかったのですが、顧客や商品を軸にした分析と施策が実現できたことで、オンラインでも店舗と同じアプローチが可能になりました。実際にどのぐらいのお客様がオススメ商品をクリックして、購入に至ったかどうかということまで見られるようになったのは大きいと感じています」(坂本氏)
メルマガ会員15万人中、実際に送信しているのは13万人程度だが、メール開封率はもともと高く、2020年3月時点で21%、パーソナライズ化したメール施策を行った後は開封率が33~34%と10pt程度増加した。同社ではメール配信後の購買有無で施策の効果を測っているが、「アクティブなお客様にレコメンドすると、30日以内に3割程度のユーザーが何かしらの商品を購入するということがわかり、非常に効果の高い数字が出ていることをみんなで実感しました」(梅村氏)
さらにカスタマーリングスの導入による業務や分析面での変化についても尋ねると、「顧客抽出を毎回行う必要がなくなったこと」という答えが返ってきた。会員ポイントが失効するお客様へのリマインドメールのほか、誕生日を迎えるお客様へ前月にクーポンメールの配信などをおこなっているが、これらの顧客抽出を毎回行うとなると非常に手間かかる。それが自動で抽出されるようになったことで、スタッフの負担を大きく減らすことが出来たという。た、会社全体でデータを活用する機運も高まってきている。「他部署からデータ抽出を頼まれることが増えてきているなど、会社としてデータに対する興味や関与度が上がってきていますね」(伊藤氏)
「適材適所の販促ができるようになったことで、精度の高い販促が出来るようになったことは最大のメリットですね。これまで購買履歴しか把握できていませんでしたが、顧客の行動まで分析できるようになったことで、新たな発想が生まれるようになりました。今後より連携する項目を増やせば、さらに多くの情報が活用でき、有意義な販促活動につながると確信しています」(坂本氏)
「キャスティングオンラインストア」WEBサイト
倶楽部会員には特別な企画を
現在同社では、「カード会員」と「キャスティング倶楽部」と呼ばれる2種類の会員制度を設けている。カード会員は住所と氏名のみ、キャスティング倶楽部はそれに加えてメールアドレスなども登録している会員のことを指す。倶楽部会員では、よりパーソナルな情報を頂くことで施策内容に生かし、カード会員との差別化を図っているという。会員の種別に関わらず、過去1年間以内に購入のあったお客様を有効会員と定義しているそうだが、今回話を伺った営業部CRM課では、その有効会員数の増加および会員ステージアップなどを主なミッションに掲げている。
「営業部CRM課では、会員の離脱防止およびデータ分析結果の活用を行っていますが、カスタマーリングス導入前は分析が容易ではありませんでした。現在は導入によって得た分析結果を活用し、昨今よく言われるOMOの取り組み、オンラインとオフラインの融合を課題の中心として取り組んでいます」(坂本氏)
オン・オフどちらでも集客できる体制づくりを
オンラインショップはモールと自社ECの両方を展開しているが、「モールは主に外部からの流入を狙った認知度の向上が目的」と坂本氏は話す。楽天やAmazonなどのモールにはネームバリューがあり、検索という面では敵わない。そのため、モールで見つけてくれたユーザーに向けて、自社ECをやっているということを認知してもらうための手段だと坂本氏は話す。また、自社ECでは限定商品を展開しているため、そこをきっかけにモールからの流入を狙っているという。自社ECの先には、もちろん実店舗への来店も見据えている。
また、商品単品の検索ワードでは大手モールに勝てないと考え、オンラインでより訴求すべく動画配信も積極的に行う。「思わず釣りに行きたくなる!キャスティングTV」と銘打って、各店のエキスパートたちが持ち回りで釣りに役立つ動画を公開。「釣り おすすめ」「初心者」といったワードでヒットするようにSEO対策を行うなど、できるだけ同社のコンテンツが上位に来るような工夫をしているそうだ。また、今後は店舗でも動画を使ったライブコマースを実施し、オン・オフどちらでも集客できる体制づくりを進めていく予定だという。
今後の施策としては、シナリオ配信を含むMA配信の強化と購買商品からの併売提案などを実施し、開封率・反応率の向上を図り、かつお客様のWeb上での行動も組み合わせて提案をしていくことを考えているという。これまでは商品の購入に対してアクションを起こしてきたが、「今後は会員登録を起点として、お客様に寄り添った施策をシナリオ化し、顧客に合わせたアクションを実施することで、よりお客様とのつながりを強めたい」と結んだ。