デジタルマーケティングにおける実店舗の役割を改めて考える


Writer:
山崎雄司
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オンラインで商品を手軽に購入できるようになり、さまざまな業種の企業がECサイトを展開している今、「実店舗の役割」が改めて脚光を浴びている。特にコロナ禍によって、実店舗が厳しい状況に直面している今、改めて、デジタルマーケティングにおける「実店舗の役割」について、歴史を紐解きながら、しっかり考えていく。

チャネル連携の歴史 店舗×オンライン


インターネットが普及し始めた当初は、店舗またはECサイトなどのネットショップのいずれかで商品を提供する「シングルチャネル」、もしくは、どちらでも商品を提供しているがそれぞれが独立したチャネルである「マルチチャネル」という流通経路が一般的であった。その後、ECサイトが世に浸透しデジタル技術が進歩するにつれ、デジタルマーケティングが急速に活発化。複数のチャネルの連携や融合を行うことで、店舗とオンラインのつながりを強化する動きが出てきた。具体的には、顧客に対し、独立した複数のチャネルを提供する「クロスチャネル」や、どの販売チャネルにおいても同じ条件で購入できるよう各チャネルを統合的に連携させた「オムニチャネル」が挙げられる。最近では、ネットと店舗の垣根をなくし、オンラインとオフラインが融合されることを前提として、より良い顧客体験を提供する「OMO戦略」も登場。OMOはOnline Merges with Offlineの略で、中国で提唱され始めた概念だ。例として、店舗やデリバリーでのスマートフォン決済などが挙げられる。


デジタルマーケティングにおける店舗の役割


オンラインというチャネルが増え、消費者は場合に応じてオフラインとオンライン双方で商品を購入できるようになった。このように、オンライン購入が消費者のショッピング体験の選択肢の一つになると、店舗の役割は以下のように変化してきた。

「ブランド体験」を提供する場

“百聞は一見に如かず”というが、デジタル技術が進歩したとはいえ、商品を立体的に見せることや、リアルな質感を顧客に伝える技術は、まだ進歩の途中だ。つまり、直に商品を見て触れるといった体験を提供できることが実店舗の存在意義であり、メリットなのである。例えば、マットレスブランドのCasperでは、マットレスの使い心地を体験してもらうため、ショールームに実際にマットレスを使用した仮眠室を用意している。また、フットウェアを取り扱う株式会社ベネクシーでは、店頭ではフィッティングやアフターケアを重視した体験に注力している。こうした体験は、インターネットでは伝えることが難しい「ブランドの世界観」を顧客に届けることが可能であり、商品の魅力を最大限に引き出してくれる。

参考:
株式会社べネクシーによる、全社横断のデータ活用によるCX向上と独自ブランド育成の取り組み
カスタマーリングスの詳細はこちら

顧客との物理的な接点

複数のチャネルで接点を持つことは、販売経路を増やすことができるほか、多角的な顧客情報の取得も可能になる。様々な分析ツールが登場している昨今において、実店舗でしか得られない購買行動などの顧客情報はますます重要となるだろう。また、顧客との物理的な接点というのは、商品の受け渡しなど、アプリやネットサービスでは一歩届かない、対面ならではのサービスを補完してくれるものである。そして、オフラインとオンラインを相互補完することで、顧客ロイヤリティの向上も期待できるのだ。

参考:
時代の店舗が担う3つの役割 ニューヨーク最新事例から(その1)

これからの時代のデジタルマーケティングにおける店舗の在り方


デジタルマーケティングにおける店舗の在り方について、一歩先に行っている先進的な事例を紹介していこう。

Apple

Appleは、独特なブランド体験の提供により、その世界観を伝えることに成功している企業の一つである。直営店舗であるApple Storeでは 「Today at Apple」という顧客向きのクリエイティブセッションを実施。教育の拠点として店舗を活用し、ユーザーコミュニティの構築やエンゲージメントの強化を図っている。

ホテル「THE KNOT YOKOHAMA」

横浜駅西口に位置するホテル「THE KNOT YOKOHAMA」では、家具を扱う企業と連携して、客室に購入可能な家具やインテリアを配している。パンフレットのQRコードからECサイトを閲覧することが可能で、宿泊中に商品の使い心地を試すことができる仕組みだ。
このように、ただブランド店舗をショールーム化するのではなく、ホテルやエンターテイメント、セッションなどといったライフスタイル業態での展開は、デジタルマーケティングにおける新たな店舗の在り方の一つといえるだろう。リアルな体験を提供し、顧客とのコネクションを図ることで、結果としてブランドの伝道者やファンの育成にもつながるのだ。

参考:
EKISUMER【特集】店舗の 在り方を考える (HOTEL THE KNOT YOKOHAMA)
進化するリテールブランディング〜デジタル時代の体験価値と、次世代リテールの四つの役割デジタルがリアルを呑み込む時代のリテールは?(Apple)

コロナ禍による実店舗の役割の変化

一方で、コロナ禍により、実店舗での「接触」を極限まで減らす必要性も高まっている。そして、このトレンドは一時的なものではなく、しばらくは継続することが予測されている。多くの消費者は実店舗に行く機会が減り、行ったとしても以前のように多くの接触がある体験は消極的になるだろう。しかし、以前のような体験をしたいと考えている消費者は多いため、しっかりと「接触」に対する対策を行った上で実店舗での体験を提供することが出来れば、強みになる可能性もある。そのため、コロナ禍だから、と言って実店舗での体験を諦めることなく、しっかりと検討をしていく必要もあるだろう。

店舗におけるデジタルマーケティング


デジタルマーケティングにおいて、顧客データは分析のために用いられるものではあるが、この収集した顧客データは店舗スタッフにも共有されるべきであろう。例えばスタッフが顧客の嗜好や購買傾向を事前に把握できていれば、積極的かつ的確な接客やアフターフォローを行うことができ、店舗における顧客体験に活かせるからだ。
また、店舗から得られるデータ(店舗の接客メモなど)をマーケティング部門にフィードバックすることも重要となる。より良い体験の企画や、顧客の店舗への再来店のためには、クロスチャネルによる接点の強化を進め、全社一体となって顧客体験を提供していく必要があるのだ。
店舗での顧客体験をより良いものにするには、顧客データを横断的にとらえることが大切であり、マーケティングデータの活用と店舗の持つ情報を融合させていくことが求められる。

実店舗をしっかり活用していくために


オンラインショッピングの普及とともに、顧客の購買行動は大きく変化してきた。それに従って、実店舗は従来の方法だけでは顧客を呼び寄せることが難しくなってきているのが現状である。複数の販売チャネルを展開する事業者は、デジタルマーケティングにおける店舗の役割を改めて認識する必要があるだろう。店舗を、単なる販売チャネルの一つとしてだけでなく、上質なショッピング体験を通じて顧客ロイヤリティの向上を図るための貴重な場としてとらえ直すことが大切なのである。

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