デジマツール導入における「業界別の5つの型」を理解し、スムーズな導入をめざそう
- Writer:
- 山崎雄司
今や多くの企業で導入が進んでいるデジタルマーケティングツール(以下、デジマツール)。このデジマツールを導入し有効的に活用するためには、各業界それぞれの典型的な戦略や課題を理解し、それに応じた導入プロセスを踏む必要がある。今回は、デジマ導入の5つの典型的な「型」を紹介し、どのような形で導入を進めていくことが理想的かを考えていく。
デジマツールのニーズ
外部環境の変化に伴い、企業は戦略転換を求められている。この“外部環境”の変化とは、市場ルールの規制緩和・強化や若年人口の減少、ライフスタイルの変化、デジタル活用の進展などが挙げられ、それぞれが業界に与える影響はさまざまだ。このような変化への対策として、デジタルシフト(デジタルデバイスを活用してプロセスの効率化、ビジネスの成長を図ること)やデジタルトランスフォーメーション(ICTを導入し活用することで新たなサービス展開や産業構造全体を進展させること)といったデジタル面での戦略転換も重要だ。このように、各企業において、デジマツールに対して求めるものは、業界ごとなどでいくつかのパターンがあると考えている。そのため、デジマツールを導入するためには、各企業が当てはまる型について理解していくとスムーズになるだろう。
デジマツール導入の5つの型
それでは、企業のデジタル面でのニーズの典型的な5つの型をここでは紹介し、それぞれの対象業界とデジマツール導入理由について詳しく見ていきたい。
顧客モデル転換型
顧客モデル転換型の企業では、自社プロダクトの位置付け変更によって、顧客(最終ユーザー)の意向がキーとなるケースに対応したり、従来は接点のなかった顧客とコミュニケーションを図ったりするような、顧客を中心に考えた戦略転換を強いられる。主な業界例は電力・ガス、新聞・出版などのインフラ系の企業がそれに該当する。
既存チャネル代替型
既存チャネル代替型の企業では、市場成長が見込めない中で高コスト営業チャネルの効率化を図ることが必要となる。また、マルチチャネルのコンセプトの下で、デジタルチャネルを積極的に導入し、リアルの営業チャネルを縮小するといった戦略転換も必要になってきます。主な業界例は製薬・医療機器、通信、銀行、証券などの企業がそれに該当する。
ディスラプター対抗型
ディスラプター対抗型の企業では、自社のデジタル変革を通じて、最新テクノロジーを駆使して既存の市場を切り開く必要がある。いわゆるデジタル・ディスラプターに対抗する組織能力を構築することも多くなる。その過程で、デジタル完結のサービス提供を推進することも目的としている。主な業界例は銀行、証券、カード、損保、百貨店・専門店、旅行、教育などの企業がそれに該当する。
アフターマーケ重視型
アフターマーケ重視型の企業では、新規顧客の先細りの中、既存顧客のエンゲージメントを重視していく傾向が強い。また、デジタルを通じたコミュニケーションから、口コミ紹介やメンテナンスでの収益機会を追求する戦略も狙う必要がある。主な業界例は自動車、住宅、不動産、生保といった、一度の商談での利益が大きく、住宅や不動産といった購入サイクルが長期の製品・サービスを取り扱う業界に多い型といえる。
チャネルガバナンス型
チャネルガバナンス型の企業では、部門間での横串を意識した戦略が重要となる。事業部門間での協業が新たな価値提供を生むため、各部門それぞれがマーケティング活動をバラバラに実施しているとシナジー効果が上がらない。そのため、顧客からの問い合わせをデジタルによって集約・管理し、横串での提案を促進することが重要になってくる。主な業界例はソフトウェア系の企業がそれに該当する。
それぞれの1つの型がぴったりとはまる企業もあれば、複数の型の要素を持つ企業もあるだろう。いずれにしても、これらの典型的なデジタルマーケティングの戦略をしっかりと理解することは、デジマ導入をスムーズに行うための基本となるだろう。
業界ごとの課題
上述した5つの型でもある程度、業界別に見てみたが、ここでは、より深く業界ごとの課題を紐解いていこう。
先進性の追求(通信、ソフトウエア)
デジタル施策に強い業界に多い課題であり、新たな施策の軸となるサービスを自社サービスとして展開することが強みとなる。マーケティング組織の活性化や組織課題を抱える部長以上のマネジメント層を攻めることが大事なポイントとなる。また、導入後に効果があれば、共同サービス展開まで話を広げることも狙っている。
次の一手に迷い(製薬、銀行・証券、カード、損保、一部のEC・通販)
断片的になりがちなタッチポイントでの顧客行動に関しては、購買への影響がみられないことや、各種の行動データを蓄積してもデータを活用しきれていないといった課題がある。顧客体験を高めるために、顧客実感による施策の高度化に加えて、従来オペレーションからの転換も視野にいれた取り組みが必要である。そのためには、課題意識の強い社内推進者から攻めて、施策の高度化のようなスモールスタートから、オペレーション改善を伴走するという方向性で戦い方を進めたい。
方針手探り(新聞・出版、人材サービス、旅行、生保)
リアルチャネルとデジタルチャネルのすみ分けや位置づけの明確化、既存アセットの2次利用とは異なる新たな価値の提供が課題として挙げられる。マーケティング施策のあるべき姿から啓蒙し、関係する役職者と担当者のすべてを対象にする必要がある。組織活性化までに至る3フェーズのアプローチを見せつつ、まずは施策の改善からスタートするといった方向性で進めたい。
省力化徹底(自動車、不動産・住宅業界)
既存顧客との接点拡張によるエンゲージメントの強化や、顧客を紹介してくれるサブユーザーへの対応の省力化などが課題。例えば、商材に応じて、デジタル完結と導線とショールームへの送客を使い分けるなど。
業務の整流化支援や運用代行を視野に入れつつ、省力化の先への意識づけや、担当レベルから決裁者レベルへのボトムアップを意識することが求められる。
リアルモデル移植(百貨店・専門店)
デジタル接点においても店頭と同様の顧客経験価値を提供することや、まだ会員登録していない顧客データの取得及びその活用方法などが課題となる。既存のオペレーションに合わせて柔軟な戦略を練る必要があり、デジマ担当だけではなく商品担当も含めた全方位での対応が求められる。また、業界の特性に合わせた分析・コンテンツのテンプレートでインサイダー感を出すことも戦略の方向性として考えられる。
横並び対応(電力・ガス、医療機器)
価格以外での訴求点がない中でデジタルでの差別化を図ったり、公共性の信頼感を損ねずに顧客プロモーション色を強めたりする必要がある。特に医療機器業界においては、生活者啓蒙の単なるDTCの先にある、マネタイズに直結するマーケモデルの構築が課題である。同じ業界内での成功事例や成功パターンを参考にし、試験データ分析から成功パターンを再現できるかどうかが鍵となる。戦略の方向性としては、担当レベルからのボトムアップと、決裁者への直接アプローチの2通りが考えられる。
企業ごとの特徴、課題を理解して導入をスムーズに
今回は、デジマ導入の5つの型や、業界ごとの課題から、デジマ導入についてのニーズを紐解いていった。各企業において、これらを踏まえた上でデジマツールへのニーズを整理し、それをもとに、導入プロジェクトを進めることで、よりスムーズにデジマツールの導入が行われ、企業内で速やかにデジマツールの活用が進むのではないだろうか。