今さら聞けない「マーケティングファネル」-デジタル時代を生き抜く基礎知識


Writer:
山崎雄司
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マーケティング戦略を設計する際に、マーケティングファネルという言葉を耳にしたことがある人は多いのではないだろうか。本記事では、マーケティングファネルの概要と、カスタマージャーニーとの共通点や相違点、DX時代におけるマーケティングファネルの有効活用方法などについて解説する。

マーケティングファネルとは


マーケティングファネルとは、見込み顧客が商品(サービス)のことを認知してから購入や利用に至るまでの一連の流れを図式として表したものである。ファネル(Funnel)は「漏斗」のことで、消費者の購買プロセスの流れを図式で表したときの形状が似ていることから名付けられた。実際に図に表す際は、逆三角形の形になる。
購買プロセスの流れは、注目(Attention)→興味(Interest)→欲求(Desire)→記憶(Memory)→購買行動(Action)の5段階で示され、プロセスの進行に従って人数が減少していく。この概念は、各段階の頭文字を取って「AIDMA」と呼ばれ、1920年にアメリカのサミュエル・ローランド・ホール氏によって提唱された。
マーケティングファネルを用いると、購買プロセスのどの段階に自社の課題があるかが可視化される。実際の購買データを分析し、どのフェーズで見込み顧客が離れたかなどの原因や改善点が明確になるため、効果的な施策の立案につながる。

マーケティングファネルの3つの種類


マーケティングファネルには、3つの種類がある。詳細については次のとおり。

1.パーチェスファネル




パーチェスファネル(purchase funnel)とは、見込み顧客の一連の購買にまつわる行動を「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」の4段階を逆三角形の図式にしたものである。マーケティングファネルのなかで最も使われる基本的なフレームワークであり、先述の「AIDMA」の概念がベースとなっている。
このファネルを作成し活用することで、見込み顧客が4つの段階のうち、どの段階で離れているかなどが把握しやすくなる。

2.インフルエンスファネル




インフルエンスファネル(influence funnel)とは、顧客が商品・サービスを購入(契約)した後の動きにフォーカスした図式である。ECサイトやサブスクリプションなど、継続利用が重要となるビジネスで利用される。前述のパーチェスファネルと異なり、末広がりの三角形で、上から「継続」「紹介」「発信」の順で表される。
インフルエンスファネルは、口コミ評価を生むための仕組みを検討するものである。なかでも、最近はSNSなどで発信される内容が購買に大きな影響をもたらすことから、購入後に顧客が紹介・発信するシステムの構築が必要不可欠となっている。

3.ダブルファネル




ダブルファネルとは、先のパーチェスファネルとインフルエンスファネルの2つを合わせた、砂時計のような図で表す。
商品の認知から購入までのパーチェスファネルと、購入後の動きを軸としたインフルエンスファネルの2つの側面から分析することで、認知度向上や購入前の離脱防止、リピート率アップ、紹介・発信システムの構築といった各段階における課題を、大きな一連の流れの中で、統一感を持って検討することができる。

カスタマージャーニーとの違い


カスタマージャーニーは、見込み顧客が商品(サービス)の購入に至るまでのプロセスや心理を可視化したものだ。
購買プロセスを図式化するという点ではマーケティングファネルと似ているが、分析の目的が異なる。
マーケティングファネルは、主に顧客行動や人数の推移を表すものである。一方、カスタマージャーニーは、顧客の心理状態を含めた顧客行動を整理することに重点が置かれる。ペルソナを設定し顧客一人ひとりの行動・心理を具体的に掘り下げていくため、顧客全体を捉えるマーケティングファネルと比べて情報量も多くなる。
こうした特徴を踏まえ、顧客全体の購買プロセスの流れを把握し分析したい場合はマーケティングファネルを、顧客理解を深めて顧客接点ごとに施策を打ちたい場合はカスタマージャーニーを、といったように目的に合わせて使い分けることが大切である。

マーケティングファネルが古いと言われる理由


今日、インターネットやSNS、スマートフォンなどの普及に伴い、顧客の購買プロセスも多様化している。特にBtoCにおいては、複雑化する購買プロセスを一般化して図式に落とし込むことは難しく、マーケティングファネルでは顧客行動を正確に表しきれなくなっているのが現状だ。
また、「AIDMA」の概念をベースとした従来のマーケティングファネルは、今の時代の顧客行動にマッチしない部分も多いといわれている。なかでも、インターネットの普及に伴い、大きく変化した顧客行動が「検索」と「共有」である。現代の顧客は、ある商品・サービスに興味を持ったらすぐに検索し、比較・検討するようになった。さらに、実際の顧客体験を、SNSなどを通じて「共有」するといった顧客発信のPRが普及している。
このような背景の下、新たな購買モデルとして誕生したのが「AISAS」。これはAttention(注目)、Interest(興味)、Search(検索)、Action(購買行動)、Share(共有)の頭文字を取ったもので、大手広告代理店の電通によって提唱され、2005年に同社によって商標登録された。現在では、AIDMAに代わる新しい概念として、多くの企業が取り入れている。
ただし、マーケティングファネルが顧客の全体像を捉える有効な手段の一つであることは変わらない。特にBtoBでは、個人ではなく組織による購買行動となるため、購買プロセスの変化が起こりにくく、マーケティングファネルを活用した分析がしやすいといえる。顧客ターゲットに合わせて、最適な分析方法を選択していきたい。

マーケティングファネルに代わるフレームワーク


先に述べたように、顧客の購買プロセスの多様化・複雑化を受け、新たなマーケティングのフレームワークが注目されている。それが、HubSpotが2018年に提唱した「フライホイール」である。
「フライホイール」は、顧客を軸とした循環型のマーケティングフレームワークであり、そのエネルギーの流れを車の部品であるフライホイール(flywheel/弾み車)になぞらえて提唱した概念である。顧客を惹き付け(Attract)、顧客を満足させ(Delight)、顧客との信頼関係を築く(Engage)という3つの段階に推力(具体的な施策)を加え、企業が一丸となって包括的な対応を行うことで、より良い顧客体験を提供する、というサイクルをモデルとしている。
そのため、マーケティングファネルは購買をゴールとして直線に進む逆三角形(漏斗型)であったのに対し、フライホイールは顧客を中心として円形のマーケティングサイクルを展開する図式が特徴だ。円形を描くことで、マーケティングファネルでは表せなかった、購入後のアクション(共有など)が新規顧客に与える影響を図式に落とし込むことが可能になった。

目的に応じて柔軟にフレームワークを取り入れよう


DX化が進み、顧客の消費行動が多様化・複雑化している現代において、マーケティングにも柔軟性がより求められるようになっている。マーケティングファネルに関しては「古い」などのネガティブな声もあるものの、顧客の全体像を把握するには有効な手段であり、特にBtoB領域においては引き続き活用できるフレームワークだろう。顧客ターゲットや分析の目的に応じて、マーケティングファネルやカスタマージャーニー、フライホイールなどのフレームワークを効果的に取り入れつつ、自社サービスを柔軟に進化させていくことが、今後のマーケティングにおいて求められているのである。

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