今さら聞けない「BI(Business Intelligence)」 - デジタル時代を生き抜く基礎知識


Writer:
山崎雄司
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デジタル化に伴い、すでに多くの企業でBIツールの導入が進んでいる。さらに現在では、コロナ禍でより進んだデジタル化によるデータの急増に対応すべく、ビッグデータの活用がますます求められる時代に。そこで今回は、データの活用をサポートするBIツールの説明や、具体的な機能の紹介、メリット・デメリット、活用事例などについて詳しく見ていこう。

BI(Business Intelligence)とは


BIとは、ビジネスインテリジェンス(Business Intelligence)の略で、「企業内外の事実に基づいた膨大なデータについて体系的に蓄積、分類、分析、加工を行い、それによって、ビジネスにおける意思決定を迅速に行うようにするといった概念」を指す。1958年にIBM研究所のハンズ・ピーター・ルーン氏が初めて提唱し、その後、調査会社ガートナーのハワード・ドレスナー氏によって現代的な概念が定義されたといわれている。
現在は、BIというと“BIツール”を指すことが多い。“BIツール”とは、上記の概念に基づいて必要なデータを集約・分析し、可視化するツールである。昨今のBIツールは、基本的に、専門知識がなくても情報の収集・蓄積・分析・加工等が可能な「セルフサービスBI」が主流であり、導入によって膨大な情報の活用が可能となる。

BI(Business Intelligence)が重要視されている理由


BIが注目される理由の一つは、近年のデジタル化によってモノやお金の流れがデータで示されるようになり、市場や顧客のデータが収集しやすくなったことが挙げられる。あらゆるデータをマーケティングに活用することは、今や必須となった。また、顧客の消費行動やニーズが多様化したことも大きく影響している。最近は、多くの消費者がスマートフォンやタブレット等を用いてECサイトやSNSで情報を得ており、オンライン、オフライン問わずさまざまな顧客接点が存在する。こうした環境下で、より顧客理解を深め、あらゆるニーズに対応するためには、経験や勘に頼った主観的な経営ではなく、データの活用を基本とした客観的な経営判断が求められているのである。さらに、コロナ禍を経て急速にDX化が進み、膨大なデータを迅速かつ正確に分析するツールが求められる現在では、ビッグデータの分析も可能なBIツールの需要もますます高まるだろう。

BI(Business Intelligence)を導入する目的


BIツールを導入する目的は、主に以下の3点である。


1点目はデータ管理の簡素化だ。たとえば部署ごとに異なるシステムを使っている場合、データはそのシステムごとに社内に散在することになるが、BIツールを導入すると社内データが集約されるため、データ管理がしやすくなるだろう。

2点目は、ビッグデータを高速処理することで、社員の手作業による集計を効率化させるという点だ。BIツールは専門的な知識がなくてもデータ集計等の作業が可能。業務効率の向上が期待できると同時に、人的リソースの確保にもつながる。

3点目は、市場や顧客ニーズをタイムリーに経営層に届けることができるという点だ。BIツールを活用し、分析結果をリアルタイムで可視化することができるため、現状の把握及び共有が迅速に進み、意思決定の高速化につながる。

BI(Business Intelligence)の機能


BIツールにはさまざまな種類があり、搭載する機能も異なる。ツールを選ぶ際のポイントとなる機能を3つ紹介する。

1.データ管理機能

BIツールには、データ管理機能をもつツールと、データ管理機能をもたず分析に特化したツールがある。データ管理機能をもつBIツールは、ETL(Extract(抽出)、Transform(変換)、Load(書き出し))やDWH(データウェアハウス)といった機能を搭載。ETL機能では、企業内に散在しているデータを収集し、抽出したデータを変換・加工して一元化できる。DWH機能では、収集したデータをサブジェクトごとに分類し、時系列で蓄積することができる。

2.OLAP(Online Analytical Processing)分析機能

OLAPとはオンライン分析処理のことで、多次元分析機能とも呼ばれる。ここで言う「オンライン」は「リアルタイム」を意味しており、蓄積された大規模なデータベースを、リアルタイムでさまざまな角度から詳細に分析する機能である。OLAP分析の特徴として、「キューブ」という保存形式が挙げられる。「キューブ」とは、縦軸と横軸以外に複数の切り口(ディメンション)をもつ立方体構造のデータベースだ。この「キューブ」を操作することで、たとえば売上データを分析する際、販売日時・店舗・商品名・顧客の属性・担当者といったさまざまな切り口から多次元的に分析することができる。BIツールに搭載される分析機能は、OLAP分析機能のほかにもデータマイニング機能(統計的な解析機能)や、過去のデータをベースに予算編成などをシミュレーション(プランニング)する機能などが搭載されている。

3.レポーティング機能

BIツールには、レポートの作成と出力を行うレポーティング機能が備わっている。定型レポートの場合、あらかじめ設定をしておくことでレポート作成が自動で可能。また、ダッシュボード機能を利用すれば、分析結果をグラフや表に出力し、よりわかりやすく可視化することもできる。資料を作成する時間の短縮につながるだけでなく、リアルタイムな情報共有も可能であり、意思決定の高速化につながる。

このように、BIツールには多くの機能があり、上手に活かすことができれば多くのメリットや効果が得られるだろう。一方で、自社に適した製品を選ばないと効果を得られないケースも少なくない。失敗を避けるためにも、導入前に「何を知りたいのか」「何のために使うのか」といった目的を明確化し、BIツール上で表現したいイメージを持っておくことが重要である。

BI(Business Intelligence)導入にあたっての留意点


ここでは、BIツール導入に際に注意すべき事項について見ていこう。

コスト

BIツールは、種類によってコストに幅がある。自社に必要な機能をすべて網羅した製品を選択しようとすると膨大なコストが発生することもあるため、注意が必要だ。ツールの提供形態がオンプレミス型の場合、導入時に費用が発生する一方で、ランニングコストは抑えられる傾向にある。クラウド型の場合は、導入時の費用は低価格であることが多いものの、カスタマイズ度やランニングコストについては検討する必要があるだろう。さらに、ライセンスがユーザー数で課金されるケースと、ツールをインストールするサーバー数で課金されるケースがあり、こちらも投資コストに大きく影響するので注意したい。BIツールを選ぶ際には、利用目的や人数などをしっかり設定し、大まかなコストを把握しておくと安心だ。

初期設定に時間を要する

BIツールを活用するには、導入後に必要なデータのインポートやデータ連携等の準備等、初期設定が必要になる。具体的には、分析用のデータやデータベースの準備や、分析手法の決定、ダッシュボードのカスタマイズなど、非常に煩雑で手間のかかる作業となる。場合によっては、ベンダーや情報システムに特化した部門などに依頼をする必要が出てくるだろう。

BI(Business Intelligence)の活用事例


ここからは、BIツールを導入した企業の具体的な活用事例を紹介する。

キリンホールディングス

大手飲料メーカーであるキリンホールディングスは、人材力こそが最も大切な経営資源と考えており、人事の基本理念として「人間性の尊重」を掲げている。そこで同社が取り入れているのが、BIツールを活用した「人事巡回面談」と呼ばれる独自の面談業務である。BIツール導入前は、人事データの整理や把握に多くの時間がかかっていたが、属人化していた情報をBIツールに集約することで、人材情報の可視化と面談作業の効率化を同時に実現。社員番号を入力すれば即座に各種の情報が表示できるようになったため、事前の準備にかかる時間が半分に短縮された。

参考:BIツール導入事例~タレントマネジメント|LaKeel BI (bi.lakeel.com)
HRデータ活用を推進、飲料メーカー人事部が実感したセルフサービスBIの効果|ホワイトペーパーダウンロードセンサー(https://wp.techtarget.itmedia.co.jp)

NTTドコモ

移動体通信事業を手掛ける株式会社NTTドコモは、携帯電話サービスのほか、デジタルコンテンツ(dマーケット)などのサービスも展開している。このdマーケットの利用者が急増し、蓄積されたデータが膨大になっていた。そのため、分析するためのデータ整備に時間が奪われるだけでなく、分析をしたくてもマシンパワーが足りないといった問題が発生していたため、BIツールを導入。人気のデジタルコンテンツを利用している顧客について知るため、集計系の分析を行った。その結果、顧客像や顧客特性が可視化され、優良顧客になってもらうための施策や、継続利用につながる施策を考えられるようになったという。さらに、PDCAサイクルも高速化できたため、解約するユーザーが減り、アクティブユーザー数は大幅に向上した。

参考:【導入事例】株式会社NTTドコモ|yellowfin (yellowfin.co.jp)

楽天損保

楽天損害保険株式会社(旧 朝日海上火災保険)は、精度の高いリスク管理と収益管理によって経営の健全性を確保するため、数理部が経営分析の定型レポートを毎月作成していた。以前からBIツールは導入されていたものの、使いこなせなかったため、定型レポートはExcel等を使って手作業で作成。そのため、定型レポートの作成工数は約10人日かかっていた。そこで、新たに分析基盤を構築するプロジェクトをスタートさせ、BIツールも新たに導入。誰にとっても使いやすいインターフェースであることや、希望のデータ形式をサポートしているかなど、自社の条件に合ったBIツールを導入したことで、作業工数が大幅に削減。定型レポートの作成工数は、1人時まで削減された。また、直感的でわかりやすいBIツールを採用したため、数理部以外の社員でもデータ分析が可能に。データの抽出・加工の属人化が改善され、データの民主化に成功し、自社にとって最適なシステムの構築を実現した。

参考:リスク・収益管理の工数を削減するためTableauを導入|tableau (tableau.com)
BIツールの導入事例|抱えていた課題と導入後の効果まとめ|BOXIL (boxil.jp)

BI(Business Intelligence)の活用で、効果的なデータドリブンマーケティングを


BIツールは、日々蓄積していく膨大なデータを目的や課題に応じて有効活用することで、業務効率化や継続的な生産性向上など、企業に大きな成長をもたらすものである。しかし、BIツールにはさまざまな種類があるため、製品ごとの機能を確認し、自社のニーズに合うものを選ばないと、費用対効果が得られなかったり、Excel分析と変わらないような結果になってしまったりするケースも。BIツール導入後は、データ収集や分析機能が効果的に動いているかを定期的に確認し、最適な形でBIツールを活用していくことが大切である。

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