2022年のデジタルマーケティングトレンドを、2021年の業界トレンドから振り返り読み解く
- Writer:
- 山崎雄司
2021年は依然としてコロナ禍にあり、新たな生活様式はデジタルマーケティングにも影響を及ぼした。求められる顧客接点や顧客体験が大きく変化したほか、プライバシーの侵害や情報漏えいを防ぐ観点からCookieの規制が開始され、さらにはオンラインショッピングにおける品質・有効性・安全性を確保する目的で、薬機法による広告規制などの動きもあった。今回は2021年の状況を振り返りつつ、2022年のデジタルマーケティングの展望を考えていく。
Cookieレス時代の到来
Cookieは、Webサイトを快適に利用するために必要なものである。しかし、Webサイトを横断して閲覧情報を保存するサードパーティCookieがプライバシーの侵害にあたるとして、ここ最近問題視されるようになった。トラッキングによって個人の趣味や嗜好を特定でき、トラッキングされていることをユーザーが認知していなかったことから、リターゲティング広告に不快感を示す人が増えつつあるのだ。このことを受け、Googleは2023年後半にブラウザでのサードパーティCookieの利用を廃止すると発表している。SafariではすでにサードパーティCookieを完全ブロック済みであり、Microsoft Edgeでも時期は未定だがサードパーティCookieのサポートを廃止する予定だという。一方EUでは一足早くGDPRで個人情報保護の厳格なルール設定が施行されており、Cookieに関する規制も強化されている。
このような事情から、今後はサードパーティCookieによるリターゲティング広告ではなく、自社ドメインのWebサイト上で取得できるファーストパーティCookieを用いたマーケティング施策を実施していく必要がある。また、個人情報保護の動きから見込み顧客の獲得が難しくなることが予想されるため、既存顧客の囲い込みがより重要になっていくだろう。
そのためにはファーストパーティデータ戦略に投資し、自社で精度の高いファーストパーティデータを獲得して、有益な情報やサービスを消費者に提供していくのが有効だ。自社サイトを充実させWebサイトの価値を高めてファンを増やすことは、同時に顧客データを蓄積する機会の増加にもつながる。顧客体験を最優先することが、今後のポイントのひとつとなるだろう。
オンラインとオフラインが持つ役割の再考と進化
新型コロナウイルスの影響から接触や密集を極力避けることが求められ、オンラインサービスの需要は非常に高まっている。オンラインサービスは時間や場所の制約を受けないほか、多くの顧客情報を取得できるなど利点も多い。しかし、オンラインへの移行が進むある中で、オフラインサービスならではの温かみのある接客がオンラインサービスでも求められるようになりつつある。コロナ禍においてオフラインマーケティングは抑制されていたが、2021年はワクチンの接種などが進んだこともあり、2022年にはオフラインを活用したマーケティングも改めて見直される可能性が高い。
オンラインマーケティングの利便性を世間が認知している今、オフラインの持つ利点や魅力について改めて考え、それをオンラインに活かしていく必要がある。また、オフラインの役割を再考する中でデジタル化も促進・強化され、オフラインとオンラインの融合が進み、OMOの重要性がより高まっていくだろう。その結果、従来のような店頭販売から、オンラインとオフラインの垣根なくどちらでも同様の購買体験ができるスタイルへと変化していくことが予想される。
参考:コロナ禍によって、OMO(Online Merges with Offline)はどのように変化し、進化していくのか
共感に基づく顧客体験の提供
共感マーケティングとは、顧客が共感できる仕組みを提供し、共感を呼び起こすことでコンバージョン率を上げるマーケティングのことをいう。現代社会ではあらゆるものを手軽に手に入れることができるため、不自由を感じることはあまりない。むしろ逆にモノが溢れてしまい、モノ余りの時代になっているのだ。
こうした社会の中、顧客の意識は「モノ消費」ではなく「コト消費」へとシフトしている。つまり、従来のようにモノの所有に価値を見出すのではなく、サービスやモノを通じて得られる体験に価値を見出すということである。これが昨今のデジタルマーケティングにおいて顧客体験が重視されるようになった理由であり、コロナ禍で人との接触が減り共感に飢える人が増えつつある今、有効な手法であると考えられる。
なお、これについては実際にSNSなどを利用したオンラインマーケティングが行われ、効果的であることがすでに示されている。2022年もこの流れは続いていくため、引き続きデジタル主体の環境で顧客体験を設計・追求していく必要があるだろう。
薬機法による広告規制
薬機法(旧:薬事法)は、正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といい、製造・販売から市販後の安全対策に至るまで広く規制を行う法律だ。2014年11月の法改正で薬事法が薬機法に改められたことを皮切りに、複数回にわたり内容の改正が行われている。これまで、薬機法の規定に違反した場合は措置命令や中止命令により行政処分が下されていたが、2019年には虚偽および誇大広告に関する違反に対して課徴金が課される課徴金制度が新たに設けられ、2021年8月に施行された。
これらの規制強化で今までのような表現が使用できなくなり、主に化粧品・健康食品業界のリピート通販で広告の見直しが必要となっている。規制対象となる広告媒体はWebサイトやSNSなども含めた全ての媒体であり、虚偽広告はもちろんのこと、誇大広告や医薬関係者の推薦文なども違反となる。化粧品においては薬機法に定められた表記や表現を守り、広告で示すことのできる効果効能の範囲での制作を行うことになる。
また、従来のアフィリエイトモデルも通用しないので、法律を遵守した広報活動が求められる。そのためにはまず、アフィリエイトからSNSなどの運用型広告に切り替え、これまでとは異なるルートで新規顧客を開拓していく必要がある。流入した顧客のコンバージョン率を上げるのはもちろん、そのリピート率を上げることも重要になるので、CRM施策やLTV向上施策も検討したい。
その他の技術的トピックス
コンテンツの音声・動画化
近年、コンテンツの音声化や動画化が増加しており、ポッドキャストやライブコマースを用いた宣伝が効果的といわれている。これまでライブコマースはインフルエンサーに依頼してサービスや商品を宣伝してもらい、消費者の共感を呼び起こすことで購買意欲を刺激するものが主流であった。しかし、前述のように自社サイトのコンテンツ拡充を重視する流れもあり、今後はオウンドメディアとして音声化・動画化されたコンテンツの活用が進んでいく可能性が高い。実際にポッドキャストをオウンドメディアとして活用する企業も増えており、自社サイトにおけるコンテンツ拡充の重要性はさらに増していくだろう。
NFTによるブロックチェーンマーケティング
ブロックチェーン技術は以前からフィンテックの分野などで利用されており、非中央集権制や対改ざん性、コスト面においてメリットがあった。その有用性と応用領域の広さから、ブロックチェーン技術に非代替性トークン(NFT)を組み合わせてマーケティングで活用する「ブロックチェーンマーケティング」が注目されている。非代替性を付与することで固有の所有権証明書として機能させられるため、動画や画像といったデジタルデータの所有権を証明できるようになるのが特徴だ。
例えば、デジタルアートなどのスクリーンショット機能で複製しやすい商品であっても、NFTで所有権を付与することでオリジナルの所持という希少価値を持たせることができる。NBA Top ShotというNBAプレイヤーのデジタルトレーディングカードでは、NFTで発行されたプレイヤーのハイライト動画がデジタルカード形式で売買され、3億800万ドル以上の売上を記録している。
2022年のマーケティング予測
2021年を振り返ってみると、個人情報や広告の取り扱いに関して法律が改正され、規制が厳しくなっていることがわかる。これは近年になって多くの企業がオンライン進出するようになったことと、従来の法律では抑止力として機能しにくいなどの理由から、現状を鑑みて適切なアップデートが行われたとみるべきだろう。
一方でコンテンツのデジタル化が容易になったため、ポッドキャストなどの新たなコンテンツや共感型マーケティングという現代流のマーケティング手法が生み出された。ブロックチェーン技術とNFTを組み合わせたブロックチェーンマーケティングもその一例といえる。
2021年はデジタル化の加速に加え、オフライン特有の顧客体験がオンラインでも求められる動きがあった。2022年も引き続きデジタル技術を活用しつつ、既存のマーケティングに囚われない考え方が必要になるだろう。そのためには自社サイトやそのコンテンツ、サービスなどを充実させ、新規顧客・既存顧客の両者に対してよりよい顧客体験を提供し続けていくことが重要といえる。