CR meet up!交流会レポート Small company × さくらフォレスト 前編
- Writer:
- 山崎雄司
カスタマーリングスの利用シーンや業界別にユーザーを招き、CRMの活用方法はもちろん、業界ノウハウなどの有益な情報を交換したり、ユーザー同士でつながることを目的とした交流会「CR meet up!」。2020年より月1回のペースでオンライン開催しているが、最近はユーザー同士で熱い議論が交わされるなど、より一層盛り上がりを見せている。 そこで今回は、2021年春に行われたSmall company株式会社(取締役 営業本部長 合谷氏)とさくらフォレスト株式会社(CRM企画室 宮原氏、吉田氏)による交流会の模様を、前編と後編の2回に分けてレポートする。まずは前編から見ていこう。
もくじ
- 1. 売上の3分の2が3ヶ月間に集中、その現状を打破するには
- 2. ECサイトで何でも販売するとモール化してしまう恐れも
- 3. お客様の声を直接聞けるという店舗ならではのメリットをECにも生かす
- 4. リピーターに対する付加価値のつけ方
- 5. コールセンターでお客様の声を聞くということの重要性
もつ鍋専門店「もつ鍋 一藤」を福岡市内に3店舗を経営するSmall company株式会社は、2010年よりECも展開し、“百年続く老舗のもつ鍋屋”のお取り寄せとして注目を集めている。一方、店舗を持たずに自社の通販サイト「さくらの森」でオリジナルの健康食品や化粧品を販売するさくらフォレスト株式会社は、顧客と信頼関係を築き上げるファン作りを大切にして売上を伸ばしてきた。同じ福岡市内にオフィスを構える両社は、どのような施策のもとで事業を行っているのだろうか。(後編はこちら)
左からSmall company株式会社 合谷氏、さくらフォレスト株式会社 宮原氏、吉田氏、PAC 日野
売上の3分の2が3ヶ月間に集中、その現状を打破するには
PAC 日野:さくらフォレストさん(以下、さくら)は、ECにおける先駆者と言っても過言ではない存在です。新規のCRMも回っていますし、お客様の声を聞くといった取り組みも非常に参考になると思います。一方、Small companyさん(以下、一藤)は店舗があるため、お客様に直接新商品の感触などを伺える環境が整っています。それによってCRMが変化していくため、店舗があるということは強みだと思いますが、一藤さんの現状はいかがですか?
一藤 合谷:日野さんと勉強させていただくようになって3ヶ月ほど経ちますが、まだCRMをうまく活用することができていないと感じています。メルマガを打ってある程度データは取得していますが、それを活かしたアウトプットが上手にできていません。例えば弊社では、100万円分のDMを打つと3倍の売上が返ってきます。ですがその先が分からず、現状の延長線上に変化を加えていけば良いのか、現状をさらに伸ばすのか、横に広げていくのか等、迷いが生じています。そこで本日は、顧客情報の活用やアイディアについて、さくらフォレストのお二人にご意見をいただければと思って伺いました。
さくら 宮原:事業の詳細を少し聞かせていただけますか?
一藤 合谷:弊社の売上は年間で約2億円あり、通販のメインは自社ECです。割合的には、自社ECが7割、昨年出店した楽天が2,000万、残りが各ギフトモール、ふるさと納税で、それ以外にもつ鍋の卸が少しだけあります。自社ECでご購入いただいている7割のお客様は、言ってみれば直接関わることができている状態ですが、一方的にご購入していただいている状態が10年以上続いていて、直接こちらからの恩返しはできていません。今はカスタマーリングスの導入によって7割のお客様が自社ECからのご購入だということが分かりましたが、お礼の伝え方が難しいなと。
さくら 宮原:もつ鍋はそもそも1年に何度も購入していただくということが難しいですよね。
一藤 合谷:ええ。2億の売上のうち、1.5億ぐらいは11月から1月の3ヶ月間に集中し、残りは種まきの時期になっています。弊社の強みであり弱みでもあるのが、取り扱い商材がもつ鍋しかないというところで、そこを今後どうしていくか。それから、7割の売上の元になっているお客様にどうアプローチしていくかという2点が課題です。
もつ鍋一藤のECサイト
ECサイトで何でも販売するとモール化してしまう恐れも
PAC 日野:一藤さんは、もつ鍋以外に鰻などの商品を増やしたいという意向もお持ちだと伺っています。ですが一藤としてのコンセプトがあるため、それを実現するのは難しいと。
一藤 合谷:はい。実は一藤の名前を出さないECも運営していて、そこでは他県の特産品などを販売しています。ですがそれらのアイテムを一藤本体のECで販売するとなると、社内で議論になってしまいます。弊社では一藤として絶対にやってはいけないことについてラインを引くようにしていますが、その中で未だに曖昧なのが、他県の特産品を一藤のECで売っても良いかどうかということです。これに関しては社内で意見が分かれていて、もつ鍋しか売らないという意志を貫けばブランドとして格好良いですし、百年続く老舗のもつ鍋屋としてもつ鍋以外は売らないという選択がベストなのではないかという意見が出る。それと同時に、そこにとらわれずに売っても良いのではないかという意見も出ていて、悩ましいところですね。
さくら 宮原:私だったら「老舗の私たちだからこそ知っている地域のこだわりの逸品をご紹介します」というような趣旨のサイトを作り、季節問わず販売できる商材を展開すると思います。
一藤 合谷:そうなると、モール化してしまうかもしれないということを危惧していまして……。反対派の意見としては、何でも屋になるのではないかという意見があるので、特産品を入れるメリットについて、売上のためだけなのか、地域を応援するためなのか、そういった背景を考えています。
PAC 日野:確かに他県の特産品を販売するにしても、コンセプトはあった方がいいですよね。例えば老舗の特産品だけを集めれば、一藤が歴史の重みを大事にしているということが伝わって来ると思います。それから一藤は店舗があるので、本格的に販売を開始する前に店頭で試食をしていただいて、美味しいという声があった商品だけをリリースするという流れも作れますよね。
さくら 宮原:それはすごくいいアイディアだと思います。お客様から特に美味しいというコメントがあったものだけを販売しますという見せ方にしたらより興味を引きますし、サイトは作らず特定の商品だけをメルマガで案内するという販売方法もあるのではないでしょうか。
一藤 合谷:例えば他のECサイトを作ってもつ鍋以外を販売するのであれば、九州の特選品などを「一藤厳選セレクトショップ」などと銘打ってやるといったことですよね。
さくら 宮原:それはありかもしれないですね。コラボなどはいかがですか?
一藤 合谷:今年の初めからコラボは意識していて、すでにいくつか決まっているところはあります。関係性を築くためにとりあえずお話だけでもということで、先日は福岡市動物園にも行ってきました。まだどのように繋がっていくかは分かりませんが、福岡に愛され、福岡を支えて、福岡に支えられて、という関係性を作っていきたいんですよね。
PAC 日野:一藤さんも色々やっていらっしゃるんですね。冬場はそれでいいとして、暑い時期は夏野菜もつ鍋や夏野菜を使ったスタミナ料理、冷やし中華などはどうですか?
一藤 合谷:先ほどの話につながりますが、一藤は味噌味以外はやらないという考えがありまして。「変わり続ける価値よりも変わらない価値を大切にする」というコンセプトがあるので、一藤以外の一高というブランドを作ったんです。一藤はできないことが多すぎるのではないかということで。
お客様の声を直接聞けるという店舗ならではのメリットをECにも生かす
PAC 日野:テストマーケティングをやるにあたって、店舗があるというだけでかなり強いですよね。
一藤 合谷:テストマーケティングはやったことがないので分かりませんが、具体的にどうやって回しているのでしょうか。
さくら宮原:弊社の場合、既存のお客様にリリース予定の商品をご案内して、気になる方にはアンケートにお答えいただきます。さらにその方に発売前の商品を試していただいて、それを元にブラッシュアップしていくという形を取っています。ただ、モニターの場合は時間がかかる上に、確実にお返事をいただけるという保証がありません。店舗であればその場で意見を伺えますし、一藤さんのように食品を扱っている場合はお客様が食べた時の反応を見ればいいわけですからよりいいですよね。お得意様でも新規のお客様でも、コンセプトさえ説明すれば嫌がる方はいないと思いますよ。
PAC 日野:期間限定品としてメニューに載せてもいいですよね。もしかしたらそこでファンになってくださるかもしれないですし。通販だけをやっている企業は、生の声を聴けるチャンスなんてないですからね。
さくら 宮原:せっかく直接お会いできるのであれば、根掘り葉掘り伺いたいですね。お客様はこちらが思っているよりずっと優しくて、喜んで協力してくださると思います。
一藤 合谷:そういったことを少し躊躇してしまう理由として、それによって一藤のイメージが崩れてしまわないかということです。一藤の単価は4,000〜5,000円ぐらいですが、そういう店に食事に行って馴れ馴れしくされたら違和感を感じる方もいるような気がしまして。それは社内の議論としても出ると思います。
さくら 吉田:個人的意見ですが、私はお店の方に覚えていただけるだけでむしろ嬉しいですし、あとは伝え方次第ですよね。
さくら 宮原:私も常連だったら嬉しいですね。一度来店した方の名前を覚えておいて、再来店の時に「●●さんお帰りなさい」とお声掛けすれば喜ばれるのではないでしょうか。ヒアリングしたものが実際に形になって、「あなたのおかげでできました」と言われたらすごく嬉しいと思います。一度ヒアリングしていれば、その後のDMも嫌味にならず、「あの時お声を聞かせていただきありがとうございました」という書き方だと距離感も縮まりますよね。
一藤 合谷:ちなみに通販の既存顧客様には試食品をお送りするという形でも大丈夫ですよね?
PAC 日野:それで大丈夫だと思います。同梱物として配送して、よろしかったら受け取っていただくという形にして。
一藤 合谷:店舗があることで、何かを試したい時にお客様の声を拾えるというのが最大のメリットだと思いますが、そのほかにも付随して何かありますか?
さくら 吉田:例えばDMを店舗の入口に置いて、お客様に実際に手に取っていただけるかという実験もできますよね。置いたDMの減り具合を確認したり、DMに商品のQRコードを記載しておいてその注文状況によって商品に対する反響を把握したり……。弊社の場合は、特定のスタッフが勧めるからという理由で購入してくださるお客様もいるので、それが店舗だったらより近い距離でお勧めできるので羨ましい限りです。何よりお客様に直接お会いできることが一番良くて、関係性はそれで築けますからね。
PAC 日野:DMを店舗に置いて取っていただけるかというのは一番分かりやすいですよね。印象に残るか残らないかですから。試食だけでなく、店舗で新商品やDMを見せるという流れは新しい店舗の使い方になりますね。
一藤 合谷:実際にやってみて、その価値を感じてみないとダメですよね。ちなみに弊社は今、通販のお客様と来店のお客様がイコールになっていない状態ですが、どうしたら良いでしょうか。
PAC 日野:情報を取るしかないですよね。予約の帳簿をリスト化して取り込んで、メールアドレスや電話番号で照合したり。できれば注文したメニューまで連携して欲しいですね。お客様にヒアリングして、それによってコンセプトが崩れるということはないと思います。
リピーターに対する付加価値のつけ方
さくら 宮原:一藤さんは通販を始めて11年ということですが、これまでで最高の購入回数は何回ぐらいですか?
一藤 合谷:一番ご購入くださった方は45回、5回以上購入された方は72人いらっしゃいます。それだけ買ってくださる方はギフトの用途が多いと思います。多くの方が店で食事をして美味しかったから通販でもというパターンが多いですが、中にはご来店されて「初めて店の味を食べた」とおっしゃる方がいたり、最近はギフトでもらって「実店舗と一緒の味って謳っているけど実際に一緒なの?」ということでご来店する方も増えました。
店舗も通販も、メインターゲットにしているのは30代女性です。理由としては、福岡県民は女性が多く、かつ女性がある程度権限を持っているので、30代女性をメインにそこから広げていくイメージです。年代は今データを取り始めているところなのでまだ分かりませんが、購入割合は圧倒的に女性が多いです。
さくら 吉田:購入回数の多い顧客の方々とはつながりはあるのでしょうか。
一藤 合谷:それがないんです。ご来店していただけるお客様にはその都度ご挨拶に行っていますが、通販だけの方にはお手紙もお送りしたことがないですし、変な話、一方的に購入いただいているので「ありがとう」の一言もないなんて……と言われてもおかしくないぐらいです。リピーターの方にさらにもつ鍋をお送りしても喜ばれないでしょうし、モノではないと思うんですよね。絶対に個室が取れるチケットをお渡しするといったステイタス的なものが響くのかどうか……。御社では、購入回数が多い方に対してはどのような付加価値をつけているのでしょうか。
さくら 宮原:特典もそうですが、購入に繋がる繋がらないということは置いておいて、弊社と繋がっていたら一瞬でも幸せだな、楽しいなと思っていただけるようなものを作りたいということで、お客様参加型の企画や売りに繋がらないキャンペーンなどを付加価値としてお届けしています。特典としては、以前神社で健康祈願をしたお箸をお客様にお届けしていました。
一藤 合谷:それはたくさん購入してくださったVIPのお客様に対して感謝の気持ちを表すという意味で?
さくら 宮原:VIPのお客様というより、日頃から商品をご愛顧いただきありがとうございますという感じですね。なぜかそのアイディアが降りてきて、それから何年か続けました。今は在庫が切れているので、また納品されたら再開すると思います。
コールセンターでお客様の声を聞くということの重要性
さくら 吉田:一藤さんでは、通販のお問い合わせはメールが基本ですか?
一藤 合谷:はい。コールセンターなどはありませんが、作った方がいいのでしょうか。
さくら 吉田:弊社はコールセンターをメインに置いていて、店舗がないのでお客様に一番近い存在がコールセンターのスタッフということになります。会社の顔がコールセンターで、昔からコールセンターに寄せられる声を大切にしてきたという経緯があります。
一藤 合谷:弊社はその逆かもしれません。店舗は年末年始以外ほぼ休みがないため、年中お電話を受けることになってしまうということから、お問い合わせは極力メールでいただくようにお願いしているんです。
さくら 吉田:確かに弊社は土日祝休みの9時〜18時体制でやっているので状況は違いますね。コールセンターは自社で運営していますが、テストマーケティングして同梱物を作る時などは、店舗がない分コールセンターが直にお声を聞いてブラッシュアップしていきます。体制的には、パートさんも入れて60人ぐらいでやっています。
さくら 宮原:私もコールセンターの所属ではありませんが、新商品を出す時などは仲の良いお客様に「これを出そう思っていますがどう思います?」「これをお送りするので食べていただけますか?」ということはやっていますね。
一藤 合谷:基本的にこちらからかけることはないんですね?
さくら 吉田:いえ、こちらからもかけるんですよ。
一藤 合谷:えっ!?そうなんですか!?
PAC日野:これがさくらさんが伸びている秘訣ですよ。大手であれば、お客様とのコミュニケーションに関してはなかなか手が回らないじゃないですか。でもそれがさくらさんはできている。一藤さんはこれを店舗に活かせるのでチャンスだと思いますよ。
さくら宮原:すごく羨ましいですよね。弊社は分からなくなったらお客様に伺おうという方針ですが、そもそも電話をかけて繋がらなかったら聞けないですからね。これは会社の仕組みの話になりますが、コールセンターのスタッフがお客様のお声を聞けたらポイント獲得という仕組みを取っているので、もし店舗の方たちも巻き込むのであれば、そういったことをやっても盛り上がるかもしれません。
(後編に続く)
職種割合はコールセンターが47.1%を占める(「数字で見るさくらフォレスト」より)