デジタルマーケティングフォーラム2019 イベントレポート


Writer:
山崎雄司
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2015年より、プラスアルファ・コンサルティングが毎年開催しているデジタルマーケティングフォーラム。本フォーラムでは、「顧客体験×データ活用」をテーマに、普段なかなか聞くことのできない先進企業の事例を紹介するほか、プラスアルファ・コンサルティングが持つ最新ノウハウや技術トレンドに関する講演も行う。第6回目となる今年は、「顧客体験×データ活用による価値創造」をテーマに、9月6日に東京と大阪の2都市で同時開催され、およそ300名のマーケティング業界関係者が参加。昨年に比べて2倍近くの参加者になったというイベントの模様をレポートする。

デジタルマーケティングフォーラムとは


デジタルマーケティングフォーラムは、プラスアルファ・コンサルティングの思いを伝える場であると同時に、企業同士の情報交換もできる有意義な場にできたら、という趣旨でスタートしたイベントだ。当初はカスタマーリングスの利用企業のみを招待していたが、好評を博していたため、カスタマーリングスの利用にかかわらず広く参加できるようになった。「良質な顧客体験」が生活者から選ばれる基準になっている昨今、マーケティングデータの利活用は必須テーマと言える。MAツールを導入しているが上手く活用できていない、これから導入を考えているがどう進めるべきか分からないという方必見のフォーラムだ。

株式会社パルが考える「オムニチャネル&販売員2.0時代のデータ活用術」


今回のフォーラムでは、GALLARDAGALANTEやWhim Gazetteをはじめ、50以上のアパレルブランドを展開する株式会社パルの事例が紹介された。登壇したパルの堀田覚氏は、アパレル、出版会社のメディアコマースサイトの立ち上げを経て、現在はパルでプロモーションやWeb、オムニチャネル全般の責任者として活躍する人物だ。講演では、オムニチャネルと販売員2.0時代のデータ活用術に言及した。



パルグループでは、これまで店舗数とブランド数を増やして売り上げを伸ばしてきたが、ここ数年は店舗数の伸びが横ばいで、昨年初めて減少に転じたという。そこで同社が強化したのがSNSでの発信だった。中でも画期的だったのが、個人のSNSによる発信の推奨だ。2014年〜2015年頃から徐々に推奨するようになり、2016年から個人フォロワー数による表彰を開始。2017年以降はフォロワー数による手当を付けるようにし、2019年からECへの貢献度によるインセンティブを開始した。その結果、個人でブランドについて発信するスタッフが述べ約1,000人、個人SNSのフォロワー数合計は330万人を突破し、個人でもフォロワー10万人というスタッフも出現。今や同社のプロモーション施策の核となっている。SNSの発信は売り上げに大きく影響を与えるだけでなく、SNSのいいね数やコメントをベースに商品マーケティングにも活用。ブランドのSNS流入も、個人のSNS経由が大半を占めているという。

パルのオムニチャネル化の推進とデータ分析手法


オムニチャネルに関しては、今から3年前の2016年のEC化率は5%程度で、顧客データの可視化もできておらず、CRMという概念そのものがなかった。そもそもMAツールが未導入の状態で、顧客をセグメントして情報を届ける手法もない状態だった。そこで考えたのが、カスタマーリングスの導入だった。データ基盤が弱かったパルにとって、データを蓄積して分析する機能が欲しいグローバルな会社よりも、ローカルで個別対応力のありそうな会社の方がパルの体質に合う、そして多少取っ付きにくくても、いろいろなことができる可能性のある多機能なシステムの方がいい、という3点が決め手となった。

導入後は、デイリー・月次・半期の3つの期間でデータ分析を行っている。

デイリー:会員数/アプリDL数、新規/既存購入客数(EC、店舗)、EC起点の店舗購入者数、店舗起点のEC購入者数など、ダッシュボードで日々顧客の動きをチェック

月次:EC、店舗各店の会員売り上げシェア。ポイント使用状況やECと店舗のクロス購入データ(客数、金額)を確認

半期:EC、店舗各店の状況(年齢層、顧客ランク、RFM)。同ブランドの買取データや、半期ごとに集めたデータにどのような相関関係があるのかをチェック

また、分析から見えてくることについて、堀田氏は「店舗起点お客様でECでも購入してくださるお客様が非常に多い」「EC・店舗の相互購入者は、片方のみの購入者の3?4倍ぐらいLTVが大きい」と話す。認知、初回購入、LTV寄与のすべてにおいて、実店舗の価値が大きいことが実感できているとのことだ。

今後は店舗やスタッフに武器を与えていきたい。


今後は「店舗でのデータ活用をより進めていきたい」と堀田氏は話す。顧客価値の最大化はECではなく接客体験を受けられたり、商品そのものにふれることができる実店舗で行われており、スタッフのSNS発信も店舗起点となっているからだ。そのため、現在店舗が今の顧客情報を確認できるダッシュボードを開発している。

また、店舗で接客することでECでは手に入らない、温もりや手触りのあるお客様情報のデータサンプルが大量にできるので、そのサンプルを利用して、どうすれば顧客満足度を高めることができるのか、その方法を分析し、その仕組をオートメーション化できるような機能開発を行っていくとのことだ。

そしてもう一点、今後進行していく人口減少社会を生き残るために、顧客とともにどうやってビジネスを作っていくのか、それを考えるためにカスタマーリングスで得られる顧客データをどう活かすかを検討しており、顧客を中心にビジネスの再構築を狙っている、と結んだ。
 

スカルプDで知られるアンファーが行う「データを活用した顧客創造」とは


続いて登壇したのは、育毛シャンプー・コンディショナーのスカルプDで知られるアンファー株式会社の吉田南音氏だ。吉田氏は、同社のブランド戦略とデジタル戦略の統括を行うブランド戦略本部長で、アンファーのマーケティングは「人がやらないことをやれ」という考え方のもとで動いていると話す。


マーケティング戦略を成功させるポイントは組織づくり


マーケティング戦略を考える段階ではビジュアルによるインパクトを重視し、他社では実施しないような戦略を採用する。



その戦略を成功させるポイントは単純なひらめきではなく組織作り。いくら素晴らしい戦略があっても、チームがまとまっていないとうまくいかないと断言。「自分はマーケターだからマーケティング戦略を考えるのが仕事」「自分はデザイナーだからデザインの作成を行うのが仕事」と、それも間違ってはいないが、自分の仕事が終わったから満足という個人プレイでは、アンファーが目指すチームのレベルにはならない。チーム内の各々の歯車が噛み合わせることで会社全体として大きな成果を得ることができる。そのためにアンファーでは具体的に、各部署で同じKGIやKPIを設定し、達成を目指すことで大きな結果を得ることができると吉田氏は話す。

データ運用は、ただデータを分析するのではなく「こうしたい」という思いありきのものである


現在、アンファーにはリアル店舗、ネット店舗、広告施策などから多くのデータが集まってくる。もちろん、そのデータを見ているだけで様々な示唆を得ることができる。ただし、アンファーが大事にしているのは「何をしたいか」を先に考えることだと吉田氏は話す。「こんなことがやりたい」「これを成し遂げたい」という思いをきっかけとしてプロジェクトをスタートして、そのプロジェクトに沿う形でデータの収集・分析を行うべき。アンファーでは、ミーティングの場で「いいね!」とか「それ面白いね!」というキーワードがたくさん飛び交うディスカッションが出来ているチームは数字も一緒についてくることが多いため、マーケティング戦略は組織づくりと並行して行うことが重要なのである。

アンファー流顧客獲得のためのポイントは基本を抑えつつ攻めること


アンファーが行っているダイレクトマーケティング戦略の考え方は実は教科書的、所謂「バケツと蛇口」の例と同じで基本中の基本を抑えている。

新規獲得には蛇口を思い切り強くひねるか、蛇口の数を増やして、バケツの穴を塞いで水を逃さないようにするような仕組みをつくることが理想。これができれば顧客はリピートしていき、雪だるま式に売上が増加していく。

そして既存対策としては、定期購入者を増やすことが肝心。中でも初回から定期をおすすめするのがアンファーの勝ちパターン。二回目から定期に引き上げるのは非常に難しいため初回から定期に入ってもらえるよう取り組んでいる。具体的にはネット上での購入ボタンを用意する、カゴに行く前に定期をおすすめする、導線をきっちり引くなど、とにかく細かいことから徹底していると言う

本当に大事なことは成功イメージをもって突き進むこと


育毛シャンプーブランドとしてNo.1というボジションを確立している『スカルプD』を擁するアンファーだが、全ての施策が成功しているわけではないと吉田氏は話す。うまく言っても行かなくても成功イメージを強くもつことが本当に大事なこと。それぞれの部署やメンバーの思いを大切にしながら、アンファー代表取締役社長の三山氏の「思い通りにはならない。でも思う通りにはなる」という言葉を信じて突き進んでいる。

良質な顧客体験に向けて、マーケッターがやるべきこと


最後に、プラスアルファ・コンサルティングのカスタマーリングス事業部 山崎雄司副事業部長より、「良質な顧客体験に向けて、マーケッターがやるべきこと」と題して講演が行われた。



フォーラムの狙いは「価値提供から考える良質なCXの実現」と「マーケティングの現場において起きている問題の確認」の2つだが、マーケティング市場はデジタルシフトの波と重なり、急速に変化し続けている中で企業の対応力が問われている。環境の変化は主に以下の4つだ。



上記のように消費者側の変化が速く、企業側の対応が追いつかないため、マーケティング現場からも悩みが出ている。主な悩みは、「データのビックデータ化により扱いきれない」「活用するシステムが増えてきたためデータの種類も増え、データ活用の難易度がさらに上がっている」「マーケティングの現場が慢性的に高い作業負担がかかりやり切れない」「コンサルやアウトソースに依存して社内にノウハウがない」「施策がやりっぱなしでPDCAが回っていない」など。そこで、これらの課題の解決策としてMA(マーケティングオートメーション)の導入を検討する企業が増加。人海戦術ではやりきれなかった施策を実践できる環境が広がった。

ところが、過去の製品主導のマーケティングによる商品のコモディティ化、その後の顧客主導のマーケティングもノウハウの共有が進んだ結果手段のコモディティ化し、元々の目的であった良質な顧客体験を提供するためのデータ活用や作業負荷軽減のためのMA導入だったのにも関わらず、MA導入自体が目的化され、手段の最適化/効率化が先行。結果的に顧客が置き去りとなり、悪い顧客体験の提供につながってしまっている。こうした課題を解決すべく「プッシュ過多なマーケティングを整理して店舗を活用した顧客接点強化」や「初回購入顧客リテンションシナリオの調整」、「メール以外のチャネル(SMSやLINE)の活用」を行う企業が増えてきており、こうした手法を取り入れることで顧客の満足度UPを実感することができるようになる。プラスアルファ・コンサルティングではこれを「顧客実感」と名付けているが、顧客実感が生み出すマーケティングの進化の可能性について解説していく。

マーケティングを次なる次元にステップアップさせる顧客実感とは


下記、統合的なマーケティングプラットフォームを導入するための一般的なステップを記載したマトリクスだ。



上記4つのステップには1つの落とし穴がある。それは、左から右に進んでいく4つステップの、逆の動きができない、ということだ。上記ステップで進めた企業のよくある声として、各施策についてどういう効果が出ているかがいまいち理解できない、当初想定していた改善策を行った後、次にどういう改善を行うべきなのかのアイデアが出てこない、というものだ。つまり、施策実施後に、さらなる進化のために施策全体をフィードバックをする(4ステップを右から左に流す)部分については当初の検討から漏れている状態となっているのだ。

そのため、KPIのモニタリング結果だけでは気づきが不足している場合、次なる進化を続けるための改善策の検討が出来ないと言うことを意味している。そして、改善策の検討はシステム化出来ず、担当者によるアイデア出しが課題となり、それには担当者を育成する必要もある。この問題を突破するための糸口として重要なキーワードが顧客実感なのである。

マーケターが次なる施策を検討するためにはどうすればよいのか。定量的な傾向分析からでは有益なアイデアは湧いてこない。セグメント化した各属性を集計して傾向を把握する際、購入履歴などの行動データだけでは、データから見える傾向が強いアイデアを捻出するのが限界。それではデータから見える傾向の弱い顧客への対応ができず、次に同じ強さの結果が出ない可能性があり再現性が低い。



良質な顧客体験を実現するために重要なことは、顧客データから見える行動データを結果として、その結果となった要因を分析するために、注目するセグメントの中のある1人にフォーカスを当てて、その人が具体的にどういう行動をとっているのか、実感を持ってモニターして、その人がどうすればもう一度コンバージョンしてくれるのかをどれだけ具体的な検討できるかが顧客実感の考え方となる。



そのためには今まで見ていた売上や来訪数の推移などの定量的なデータに掛け合わせる形で背景や裏側の部分も丁寧に分析する必要がある。Aという結果になったのが何故かということを徹底的に理解することで初めて活きたアイデアが出てくる。施策を考えるのが人間である以上、データから見える傾向を把握するだけではなく、改めて顧客一人ひとりに向き合う必要があるのだ。
 

今回は9月6日に開催されたプラスアルファ・コンサルティングが主催する、本メディアの名称でもあるデジタルマーケティングフォーラムのイベント内容を抜粋してレポートした。次回開催は1年後を予定しており、デジタルマーケティングのトレンドを今後も発信していく予定。デジタルとリアルのマーケティングの垣根がますます無くなっていく流れを考えると、マーケティング担当者は是非参加して、広く公開されていない最先端のデジタルマーケティング事例を入手してほしい。

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