カスタマージャーニーで顧客の「変化」と「違い」に着目し、最適なアクションを考える


Writer:
山崎雄司
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顧客の行動や心理を理解することは、マーケティングの成功には必要不可欠だ。そのため、マーケティング戦略を検討する際には、顧客を分析し理解するために「カスタマージャーニー」という考え方が用いられている。今回は、このカスタマージャーニーの基本から、その目的や最適なアクションについて考えていく。

カスタマージャーニーの必要性


マーケティングの1つの役割には、顧客の心理や行動を深く理解し、さまざまなチャネルを通して顧客に適切なタイミングで情報やサービスを提供することが含まれる。そして顧客を正しく理解するためには、顧客が商品やサービスを購入するまでの行動プロセスを可視化する手法、つまりカスタマージャーニーの考え方が必要になってくる。

デジタルチャネルの活性化により、昨今では顧客の情報収集方法や購買行動が多様化しているが、カスタマージャーニーを用いて顧客の行動を図式化すると、俯瞰して顧客の行動や心理を捉えることができるようになる。さらには、デジタル化によって得られる多種多様な情報をツールを用いて分析することで、顧客の詳細な行動をも可視化することができる。今やカスタマージャーニーは、顧客一人ひとりに合わせた効果的なマーケティングを行うために必要不可欠なものといえるだろう。

カスタマージャーニーの「変化」と「違い」とは何か


カスタマージャーニーは顧客を群としてとらえ、一般的な行動を取る顧客をモデル化したものであり、それ自体は非常に優れた考え方だ。しかし、カスタマージャーニーにも落とし穴がある。それは顧客一人ひとりに着目することが出来ない点だ。そのため、カスタマージャーニーを活用して、成果を出していくために重要となるのが、顧客の一人ひとりの「変化」と「違い」にどれだけ気付けるか、ということになる。「変化」と「違い」をしっかり意識することで、顧客一人ひとりへの理解を深めることができ、具体的な施策へとつなげることができる。


 

まずは顧客の「変化」について具体的に見ていこう。これは、同じ顧客でも常に同じ感情を持って、同じ行動をするわけではない、ということを理解するということだ。

この「変化」を知るためには、顧客が商品を認知してから買うまでの過程を、顧客の「行動」「感情」「価値認識」で捉えていく必要がある。例えばこの図を見てみると、以前のジャーニーと現在のジャーニーには「変化」がみられることがわかるだろう。このような「変化」をもたらす理由を、項目ごとに把握することが大切となるのだ。

この「行動の変化」をもたらす項目には、顧客が商品を認知するきっかけ(ステップ)の変化、情報や体験が必要なタイミング、適正な頻度の変化、エンゲージメント期間(次の行動までの期間)が挙げられる。

「感情の変化」をもたらす項目には、ポジティブ・ネガティブの変化、選好の変化、ロイヤルティの変化が挙げられる。

「価値認識の変化」をもたらす項目には、購買理由の変化、クレーム理由の変化、おすすめの理由の変化が挙げられる。


 

次に、顧客の「違い」について見ていこう。これは、同じニーズを持った顧客でも、同じ行動をするわけではない、ということを理解するということだ。

この「違い」を知るためには、顧客が持っているそれぞれの性質や特徴データ、個人情報に基づく「属性」「行動」「価値認識」で捉えていく必要がある。例えばこの図を見てみると、佐藤さんはシナリオに反応したが、加藤さんはシナリオに反応しなかった。このような個人の「違い」を項目ごとに把握することが重要となるのだ。

「属性の違い」には、基本属性の違い、起算日の違い、ランク・スコアの違いといった項目が挙げられる。

「行動の違い」には、ステップの違い、タイミング・頻度の違い、エンゲージメント期間の違いが挙げられる。

「価値認識の違い」には、購買理由の違い、クレーム理由の違い、おすすめの理由の違いが挙げられる。

このように、顧客ごとの「変化」や「違い」をもたらす項目について詳しく見ていくことで、カスタマージャーニーのさらに細かい気づきを得られるのである。

カスタマージャーニーの「変化」や「違い」を見るための指標「NPS」


このように顧客の「変化」や「違い」を測るためには、従来から活用されてきている顧客満足度という指標では不十分だ。そのため、この顧客の「変化」や「違い」を測るために、ネットプロモータースコア(NPS)という指標がある。NPSとは顧客ロイヤリティを数値化する指標のこと。業績との相関性があるという点で、顧客満足度とは異なるものだ。

NPSは「あなたは今後周囲にこのサービスをすすめたいと思うか」といった内容のアンケートの回答を受けて、批判者、中立者、推奨者の3つのタイプに顧客を分類する。企業は批判者を減らし、推奨者を増やすことでNPSを上げることができる。そのため、NPSは気づきの指標として用いられ、自社のサービスに合わせたアンケートを行うことで有益なフィードバックを得ることが可能となる。

ただし、あくまでもNPSはカスタマージャーニーの「変化」や「違い」を見る指標の一つ。これがすべてではない点に注意したい。

最適なアクションを取るために


カスタマージャーニーを理解し、カスタマージャーニーを作り上げただけでは、マーケティングを行っているうちには入らない。言うまでもなく、作ったカスタマージャーニーの中に顧客がいる間に、可能な限りリアルタイムに、最適なアクションを取って行く必要がある。そのためには、顧客を俯瞰的に捉えるだけでなく、顧客それぞれの「変化」や「違い」に応じた最適なアクションを取ることが重要になってくるのだ。そして、必要に応じてカスタマージャーニーをブラッシュアップしていく必要もあるだろう。

カスタマージャーニーによって顧客の動きをモデル化し、NPSで顧客の「変化」や「違い」を可視化することで、組織内でどのような顧客に対して、どのようなアクションを取って行くべきか、というシナリオの共有、そして理解が容易となる。こうしてチーム全員が共有認識を持つことで、一丸となってマーケティングを行うことが可能になるのだ。

本質的に顧客を理解するために


マーケティングは、従来の企業目線でのモデリングだけでなく、一人ひとりの顧客目線に立ったモデリングが求められる時代になってきている。カスタマージャーニーを用いた顧客分析だけでなく、その「変化」と「違い」を理解し、可視化することが重要になるのだ。そして、顧客一人ひとりの「変化」と「違い」に気づくことは、マーケティングの「実感」を得ることにつながっていく。カスタマージャーニーをうまく活用し、実感を得ながら、マーケティング施策を進化させていきたいものである。

Net Promoter®およびNPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

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