ECのミッションは実店舗のお客様により多くの購入機会を提供すること
ベビー子供服の企画・製造・卸・販売を行うアパレル企業F・O・インターナショナルでは実店舗の利用比率が高く、実店舗からECサイトに興味を持ってもらうことも多い。ECサイトでは「実店舗のお客様により多くの購入機会を提供すること」と「実店舗が近隣にないお客様にもご購入いただけるECの環境を整えること」を一番の目的として考えているようだ。
「もちろんECサイトでの新規獲得も希望ではありますが、実店舗のお客様が多いという特徴もあるので、そのお客様にもより多くの購入機会を持って頂きたいと考えております。「子供服」の特性でもありますがお客様がサイズアウトしていきますので、加えて新規の獲得も重要だと捉えています。」(平田氏)
Excelでの集計がボトルネック。バラバラのデータを加工する顧客分析の限界
今までは「Excelを使った集計」に手間取ったという。
「併売分析などのデータ分析は、ExcelですとAという商品の注文データを全て抽出し、併売品番を出力するために、VLOOKUP等の数式を何度も重ねて計算しなければなりませんでした」(平田氏)
例えば、去年ヒットした商品が今年はあまり売上が伸びなかった。このような時には前年度のデータと比較すべきだが、今までは期間分析をする為に、その期間のデータを抽出して、数式を入れて作業する。と、かなりの手間が必要だった。
F・O・インターナショナルが導入した統合マーケティングプラットフォームの「カスタマーリングス」は、期間を絞るだけで同じ結果を導きだすことができ、分析に関わる作業時間を大きく短縮できるので、その時間を他の作業に割けるようになったという。
他にも、導入前は、定番商品の入荷情報や、前年度商品を購入してくれた方に向けた新作のご案内ができなかった。実現するには、購買データと顧客データを見比べ、対象となる品番やメールアドレスを全て手作業対応させていく必要があり、メールの誤送のリスクも考えると、配信は困難だった。
また、従来では「どのような商品が売れているか」を把握できても、「その商品を購入しているお客様の特徴」などの顧客軸への情報が不足していたという。顧客の購買動向や、属性をもとに、リピーター・休眠顧客等の顧客分析が出来ていなかったのだ。
メルマガの配信についても、顧客を絞った配信が難しい環境だったこともあり、セグメントをかけず全顧客に同様のメルマガを配信していたが、カスタマーリングスの導入によって、商品分析、顧客分析結果などをもとにセグメントした「顧客個人にあわせた個別メール配信」が可能になった。
「商品と顧客の関係性や、顧客の特性を知った上で戦略をとりたい」という思いから、自然と顧客分析の必要性を感じる意識が課内で強くなっていきました。」(平田氏)平田氏をはじめ、課内のメンバは顧客軸の分析が不足すると、仮説を立てようにも顧客の現状が把握できない。まずは顧客分析に関して対策が必要ではないかと考え始めたという。
バーゲン期に購入いただいた顧客がその後、プロパー商品も購入されていた。PB分析から生まれる新しい顧客像
分析にあたってMD側からはプロパー(P)とバーゲン(B)の購買動向を知りたいというファッション業界特有の要望があった。売上はプロパ顧客によるものか、バーゲン顧客によるものかというPB分析が必要だった。
販売側は常にPB比というものを意識している。商品の購入時期を軸に、プロパー期に購入される顧客をプロパー顧客、バーゲン期に購入される顧客をバーゲン顧客としてとらえているが、購入時期だけで顧客のPB判定をせず、顧客の長期的な購買傾向をみる必要性を感じていたという。
「PB比を軸に見るとバーゲン月に購入した顧客はバーゲンの比率が高く、その中でも1月のバーゲンの比率が特に高いので、その顧客の購買実績を掘り下げてみたんです。そこで個人の各月の購買を見ると、その後もしっかりプロパー購入されており、10月などの実需期に新規獲得した顧客と比較すると年間を通じてバーゲン比率は高いのですが、セール期に初めて購入している顧客もしっかりプロパー商品も購入してくださっていることが分かったんです」(平田氏)
一見、バーゲン期に新規獲得した顧客は、バーゲン顧客である印象を受けてしまうが、新規獲得できる人数は多く、その後もプロパー顧客になっていく可能性も高いので、この時期の新規顧客施策も重要であると、データ分析をすることで顧客の購買動向を可視化することができた。
顧客分析を始めたことによって、新規顧客獲得にあたりどの時期を強化すべきなのかといった課題が明確になったと言える。
従来の一定期間中に一定金額以上の購買をしていただいた顧客に対して優待セールの案内を送るなどの施策を行っていたが、獲得した新規顧客に対して、顧客をリピーターへ「育てる」ための施策をより強化し、今後は、顧客一人一人に向き合い、プロパー・バーゲン動向を見ながら施策を強化していくという。
マーケティングオートメーション導入の決め手は柔軟性とサポート体制
顧客分析やメール配信などのクオリティを高めていくためには、統合型のCRM、マーケティングオートメーションツールの導入が不可欠だった。数あるツールの中でなぜカスタマーリングスを導入することとなったのか。他社と比較して、どのような優位性があったのだろうか。
「分析範囲が広く自由度が高いことを重視していました。やりたい分析を条件設定さえすれば、基本的な分析から細かい分析まで自由に落とし込める部分が決め手として最も大きいかもしれません。最初にご連絡させていただいた折の第一印象もポジティブな印象を受けたこともあります」(金子氏)
「また、サポート面で弊社の期待に応えてくれそうだと思えたのも導入の理由ですね。何でもできるような高機能なシステムほど使いこなすのは難しくなることを考え、初歩的な部分からしっかり教えてくれそうな印象がありました」(平田氏)
メール配信では配信コストの改善の必要性を感じていたようだ。今までは全会員に一律でメールを配信していたが、アクティブ顧客にも休眠顧客にも同様にメール配信をする必要がないのではないかと考えていた。
カスタマーリングス導入後は、配信対象をセグメントし、会員登録間もない新規顧客、購入履歴のあるアクティブ顧客に対して、配信を行う方針に変更した。セグメント配信を行うことで、配信数が既存会員数の半数程度となるので、配信コストを大幅に抑えることができる。配信数が減った状態でも、売上はしっかり確保できているので、どの程度まで配信先を絞っていけるのかを検証している段階だという。
このセグメント配信対象者からもれている休眠顧客へての対策として、送料無料クーポン案内やポイント失効通知のメルマガを配信することでカバーし、既存会員に対して内容とタイミングを変えて、全会員に対してメルマガが届くような状況となっている。
このような方針の変更は一定の効果につながっており、顧客属性にそったセグメント配信をすることで、メールへの反応が向上し、配信後の結果を把握しやすくなった。また、ポイント失効通知や、定期的なクーポン配布案内により、休眠顧客の掘り起しにも成功している。
今後は、メルマガの配信のパターンを増やすことを課題としており、配信内容とセグメント対象者の見直しを考えている。
コンバージョン率3倍。休眠会員の12%を掘り起こし。メルマガの効果が飛躍的に向上した理由とは
配信コストを削減したことで、新たなセグメント配信に挑戦できる余裕が生まれた。セグメント配信のレパートリーを増やしたことで、メルマガ配信による売上アップにつながっているようだ。
カスタマーリングスの使い方としては顧客分析とメルマガ配信の2つがあるが、現段階ではメルマガ配信での利用比率が高いという。
配信コストの最適化もそうだが、休眠顧客の掘り起こしに特に高い効果があり、配信によって最も高い時では休眠顧客(1年以上未購入)の母数に対して12%の掘り起しに成功した。
現段階ではメルマガの効果分析はまだ不十分ではあるが、コンバージョンのデータを見てもその効果を感じ取ることができる。休眠顧客の呼び戻しの実績については社内からも反応があったようだ。
「送信数に対するコンバージョン数で見ると、2月と比較して、3ヶ月後の5月にはコンバージョン率が約3倍にまで回復しました」(金子氏)
お客様に最適なタイミングで最適な商品を。F・O・インターナショナルのビジョン
今後の展望としては、より顧客属性にそったメルマガの配信を考えており、F・O・インターナショナルではブランドを多く扱っているのだが、ブランドごとに相関関係のあるアイテムを打ち出していくことなどを考えている。
テイストの似たブランド同士で、セットで購入されるパターンがあるので、カスタマーリングスを利用してメルマガに反映していきたいと金子氏は語った。
続けて、顧客情報とアクセス情報を結びつけて、買い回りのしやすいサイトに変えていきたいとも考えている。ECサイトを取り巻くさまざまなデータを人に紐付けて活用したいというプライベートDMPの発想だ。
将来的には顧客にパーソナライズした商品が一目で確認できるようにしていきたい。
「顧客によって現れるページが違ったり、数回訪れた人にしか見ることができないページを作ったり、当たりの良い商品だけが見えていたり。顧客属性にあわせてページの出し分けもできるのが理想ですね」(金子氏)
アンケートの継続的実施で見えてきた顧客の姿
8月にはカスタマーリングスのアンケート機能を活用し、「どういう方が閲覧しているのか」「店舗からECサイトへと流れてきた人がどれだけいるのか」「どのようなコンテンツが求められているか」など、計10項目の質問を顧客に投げかけている。
「欲しいものが決まっているというよりは、フラッと気兼ねなく閲覧されているのだと思います。今後はより使いやすいサイト作りを目指して、商品の検索方法などもお客様に問いかけていきたいです。」(金子氏)
「アンケートはメルマガで配信しました。特にインセンティブはつけていませんが、1回の配信で500前後の回答が集まりました。本当にお客様に恵まれていると実感しました」(平田氏)
数百件のアンケートを回収するのはネットリサーチのレベルで、決して簡単なことではない。依頼すると100万前後の費用がかかるかもしれない。このアンケートは、非常に貴重な声だと言えるだろう。
将来的には、実店舗利用顧客と、ECサイト利用顧客を統合していけるはずだ。環境の変化により店舗の来店が難しくなった方や、最近はあまり来店できていない方とのコンタクトツールとしてECサイトを利用するなどのオムニチャネル施策も見据えている。
プラスアルファ・コンサルティング 五十嵐
F・O・インターナショナル 平田氏
F・O・インターナショナル 金子氏
プラスアルファ・コンサルティング 堀